新車を買ったときの楽しみといえば「慣らし運転」があるだろう。3000kmまでは3000rpm以下で走って、その後はオイル交換をして、なんていう「儀式」がまた楽しかったもの。
しかし自動車工場に見学にいくとエンジンは3000rpmどころかかなり高い回転数まで回されているし、本当に納車後に慣らし運転が必要なのか? と思うことも。
とはいえGT-Rのようにいまだに慣らし運転を公式に推奨している車種もある。こうなるとメーカーに問い合わせて、現代のクルマに慣らし運転が必要なのか調べました。
文:永田恵一/写真:
■基本的には慣らし運転が不要なクルマが多い
靴や服といった身に着けるものが代表的だが、卸したてというのは硬さを感じ、使っていくうちに硬さが取れ、体に馴染んでくるものだ。
それは何万点という部品の集合体であるクルマも同じで、かつては新車を買ったら慣らし運転をするのが当たり前だった。
しかし、現代ではクルマの生産精度がよくなったという背景もあり、慣らし運転を意識することも少なくなった。若い人だと慣らし運転という言葉すら知らない人も多いのかもしれない。
そこで当記事では「現代のクルマでも慣らし運転は必要なのか?」というテーマを考えてみたい。
まず「昔のクルマはなぜ慣らし運転が必要だったのか?」ということを考えると、部品の集合体であるクルマには部品同士が摺動(しゅうどう=擦れ合って動く)部分も無数にある。
それに加え、昔は生産精度もよくなかったため、新品の時に当たり≒馴染みを付けないと長期的にトラブルや不調の原因につながるというのが理由だ。
それが現代のクルマは冒頭に書いた通り生産精度が良くなっているため、特に日本車では取扱い説明書に「慣らし運転をしてください」と表記されているクルマはほとんどない。
実際筆者は約4年前に現行デミオディーゼルを新車で買い、その際にマツダの開発陣に慣らし運転について聞いてみたことがある。
「初期に一気に高負荷をかけるような事を繰り返さない限り、特に慣らし運転と呼ばれるようなことを意識する必要はありません。普通に乗っているうちにエンジンにも足回りにも馴染みが出てきます」。
要するに納車の高揚感でエンジンを含めいきなり激しい使い方をするのはまずいとしても、日本車の多くでは普通に乗っていればそれで慣らし運転になると認識すれば、大きな間違いはないだろう。
■慣らし運転が必要なGT-Rと不要なNSX
しかし、取扱説明書に「慣らし運転をして下さい」と表記されている日本車も少数ながらあり、その代表が日産GT-Rだ。取扱説明書を一部抜粋する。
エンジン本体やトランスミッションなどのパワートレイン系部品、サスペンション、ブレーキまわりなど、この車両の持っている性能を十分に引き出すためには、ならし運転が必要です。
走行距離約2,000kmまでは、以下のことに注意して走行してください。
【~500kmまで】
アクセルペダルは半開までに抑えて、ゆっくりと踏み込んでください。エンジン回転数は3,500rpm以下に抑えて走行してください。不必要な急ハンドル、急ブレーキ、悪路走行は避けてください。
【500~1,000kmまで】
低速ギヤ(1~3速)でのアクセルペダルを全開にした急加速はしないで、ゆっくりと踏み込んでください。不必要な急ハンドル、急ブレーキは避けてください。
【1,000~2,000kmまで】
Mレンジを使用し、エンジン回転数を比較的高めに維持して1速から4速の間でのシフト操作を繰り返してください。
一部抜粋だが、レーシングカーの慣らし運転のように、いやレーシングカー以上かもしれないほどの細かい方法が記載されている。
GT-Rの場合は超高性能車であるだけに、エンジン以外にも入念な慣らし運転が必要ということなのだろう。では同じ超高性能車のホンダNSXはどうだろうか。ホンダ広報部に問い合わせた。
「NSXはアメリカでアッセンブリーされますが、アッセンブリーの前にエンジンは約1時間240km相当、トランスミッションも約1時間それぞれ単体で慣らし運転されます。
その上でアッセンブリー後に実走で慣らし運転をして納車となりますので、納車後クローズドコースでは即本来の性能が発揮できます」。
同じ日本車の超高性能車でも、対照的なのは興味深い。また現在は販売されていないが、ロータリーエンジンを搭載していたマツダRX-8も新車から1000kmは、
・空ぶかしをしない
・エンジンを7000回転以上回さない
・急加速、急発進をしない
というやり方で取扱い説明書に慣らし運転が指示されていた。同じスポーツカーといえどもさまざまな慣らし運転が必要のようだ。
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