ブレグジットで揺れる英国。様々な企業が英国から脱出して周辺のEU加盟国に移動している。そんななかホンダが英国工場の閉鎖を発表した。
となると、気になるのは現在、英国工場で生産されているシビックの行方。いま日本で売られているシビックは、ハッチバックと同車をベースとしたスポーツモデル「タイプR」が英国製。セダンだけが日本の寄居工場製だ。特にタイプRは歴代モデルの多くが英国で生産されてきた。メイン写真のタイプRユーロも車名が示すとおり、英国工場製。走りを売りとするタイプRの乗り味は、生産国の変更で変わってしまうのだろうか?
文:松田秀士、ベストカーWeb編集部
写真:編集部、Honda
予想以上に古いシビックタイプRと英国生産の歴史
実はシビックタイプRと英国の歴史は意外に古い。日本向けのシビックタイプRが英国工場製となったのは2001年発売の2代目から。
続く3代目、セダンベースのタイプRこそ日本生産となったものの、その後2009年と2010年に限定発売されたシビックタイプRユーロは、車名のとおり英国生産に。
同車はあくまで限定発売だったものの、2015年にカタログモデルに復活した4代目のシビックタイプRも英国工場製。そして、2017年に発売された通算5代目の現行型タイプRも英国工場で生産し、日本へ輸出する形を採っている。
つまり、セダンだった3代目を除けば、日本生産のシビックタイプRは初代モデルのみ。日本向けのシビックタイプRは、ほぼ一貫して英国で作られてきたというワケ。
では、長年英国で作られてきたタイプRは今後、どこの国で作られるのか? そして、それによって乗り味は変わるのか? ここからは自動車ジャーナリストの松田秀士氏が解説する。
【編集部】
シビックタイプRの次なる生産国は日本じゃない!?
シビックの製造は英国から中国に移るでしょう。中国の湖北省にある武漢工場で製造されることになるはず。
そこで日本人として心配になるのがシビックのクォリティだ。そもそも英国工場は2011年に製造規模を半減させていて、現在製造している約15万台の内60%は米国と日本向け。つまり、欧州全体には約40%しか販売されていないという現実がある。
ホンダの欧州でのシェアはそれほど高くない、という図が見えてくる。売れない欧州よりも米国、そして中国というストラテジーがより鮮明になってきているのだ。
八郷社長も明言したようにブレグジットが英国工場閉鎖の理由ではないだろう。実際には閉鎖するタイミングを見ていたのではないか。ちょうどそこにブレグジットが迫り、閉鎖理由を否定しても世論はそのようには見ないだろう、という思惑も見え隠れする。
つまり、「悪いのは英国政府」と英国民が考えてくれればイメージダウンは最低限に抑えられる。非常に賢い選択だったように思うのだ。
さあ、そうすると心配なのはシビックハッチバックとタイプR。この2モデルが(仮に)中国製となると、特に心配になるのがタイプRだ。
「タイプR」の質は落ちるのか?
タイプRのクオリティが落ちてしまうのではないだろうか? 中国で製造するとなったら、サプライヤーも中国製になるはず。だいたいEVを中国で製造するならバッテリー、モーター、インバーターというEVにおける三種の神器のうち2つは中国製にしなさい、という決まりがある。
だからEVではないけれども、シビックハッチバックもタイプRも部品などのサプライヤーは中国製となる。これは当たり前のことだろう。
しかし、それでも心配はないと筆者は考える。武漢は中国のシカゴとも呼ばれて、中国でも有数の工業都市。もともと重慶と並ぶ軍事工場の基地でもあった。
なぜ、軍事工場が中国の内陸部にあるかというと、空爆を受けないからだった。第二次世界大戦中時代の戦闘機では、重慶や武漢まで飛んでいくと燃料が足りず空母に帰ってこれなかったのだ。広いね中国。
つまり、そんな内陸部に製造工場があるわけで、中国国内販売ならまだしも、米国や日本への仕向となると港湾への輸送も大変。しかし、それでも中国工場で作るだろう。ホンダにとって中国はそれほど重要な国なのだ。
話を戻そう。なぜ心配していないかというと、武漢はそのような歴史から先進の工業都市。そこに存在するサプライヤーの技術力も高いはずだからだ。
さらに、日本のサプライヤーも多数中国に進出していて、地元との合弁企業も多い。また日本では8時間労働が基本だが、中国人は16時間労働なんて普通にこなす人も多い。働き者国家です。中国製のローレックスを見たことがあるが、偽物そっくりのホンモノというくらいに精巧です。
つまり、中国の技術力は高いということが言いたい。中国製造のシビックハッチバック、そしてタイプR。ぜんぜん良いのではないだろうか。ボクはそう思います。
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