■ニュルを走れればどこでも通用する……だが、その逆は?
クルマはそこまでシビアではないかもしれないが、いいモノと悪いモノを比べると直感的にわかる。意のままに操ることができるクルマは、誰もが「おっ!!」と驚く素直な反応やまるで「運転が上手くなったような」感覚を持っているが、それは決して気のせいではない。極限状態で走るニュルではそれがどれだけ重要であること、そして実現させることが簡単ではないことがわかってしまう。
当然、日本の自動車メーカーはニュルの重要性を感じているが、地理的な条件もあるため頻繁に通うことができないのも事実である。
しかし、スポーツ系モデルを中心にテストを行なっていることは皆さんもご存じのことだろう。クルマである以上は、どんなカテゴリーであっても満足して走らせる能力に差を付けてはダメだが、企業としては「選択と集中」を行なう必要もある。
では、ニュルを走っていないクルマはダメなのか? ニュルをよく知るレーシングドライバーはこのように語る。
「本物は走る場所を選ばない、つまりニュルをシッカリ走れるクルマはどこでも通用します。ちなみにニュルはクルマを鍛える場所であると同時に人を鍛える場所です。ニュルではドライバーは命がけでアクセルを踏みますが、それを目の当たりにすると『安心して速く走ることができるクルマにするには、何が大切なのか?』がおのずとわかるはずです。そういう意味では、ニュルは知識や感性を磨ける場所と言ってもいいでしょう。人が鍛えられれば、おのずとクルマはよくなっていきます。根拠が正しければその場にいなくても答えはちゃんと見つかります」。
■モリゾウも「多くの引き出しをエンジニアが持つにはニュルを走るのも重要」と証言
ちなみに2007年のニュル24時間初参戦以降、何度もニュルを走るモリゾウこと豊田章男会長も同じことを語っている。
「恐らく以前のテストコースは『データを取る場所』だったと思います。データを取ることも大事、嘘をつきませんから。ただ、データは何かのプロセスの結果に過ぎません。その結果に対して、多くの“引き出し”を持ったエンジニアが増えると間違いなく“いいクルマ”になるはずです。その引き出しはどこで得るのか? やはり極限の場……レースやラリー、そしてニュルを含めた世界の道を走って得た情報・経験だと思います。テストコースにはさまざまな道が再現されていますが、距離はわずかです。でも、世界の道を1日24時間走ってきた経験ある人がその道を想像しながら走らせると、結果は全然違います」。
もちろん、ニュル現地に行くに越したことはないが、「ニュルを知る」、「ニュルを経験した」エンジニアが開発をシッカリと行なえば、ニュルにいかずとも“完成度の高いクルマ”に仕上がる……と言うわけだ。
だから、今どの自動車メーカーも「人材育成」に力を入れている。特に「日本車が世界一になるかもしれない」と言われた1990年代に開発を行なっていたエンジニアが定年時期に差しかかるため、若手への「技術の伝承」が、今後の自動車開発を行なううえで重要なカギになると思っている。
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