世界でバカ売れした「ホンダジェット」。その機体をワンサイズ大型化した新型ビジネスジェットの製品化が2023年6月14日に発表された。この新型機では、ノンストップでアメリカ大陸を横断できるスペックが想定されており、これが実現すれば同クラスで世界初の快挙となる。現時点で公表されている情報からその概要を探ってみたい。
文/鈴木喜生、写真/ホンダ、セスナ、テクストロン・アビエーション
ワンクラス大きな新型ホンダジェット
小型ビジネスジェット「ホンダジェット」(HA-420)がデビューしたのは2015年。
エンジンを主翼上方に配置するなど、独自の設計思想が投入された結果、機速、燃費、航続距離、居住性などが従来機と比べて大幅に向上し、同機種カテゴリーにおける機体デリバリー数において、5年間連続で世界1位に輝くという快挙を成し遂げた。
2021年には航続距離が222km延びたアップグレード機「ホンダジェット エリートS」、2022年10月には、さらに204km延びた「ホンダジェット エリートII」をたて続けに発表。クラス最高レベルの総航続距離1547nm(2865km)を実現している。
「nm」とは、「ノーティカル・マイル」(海里)を意味し、航空距離を示す際に使用される。
「ホンダジェット」の快進撃と並行して、ホンダ・エアクラフト・カンパニー(本社ノースカロライナ州、以下ホンダACI社)は2021年10月、世界最大のビジネス航空機ショー「NBAA」において、「ホンダジェット2600」をコンセプトモデルとして参考展示した。
同機は「ホンダジェット」や「エリートII」よりワンクラス大きな機体だったが、このモデルこそが、今回発表された新型ビジネスジェットのベースモデルとなる。名称はいまだ未定であり、2028年の製品化を目指すとされている。
定員7名から11名へ、アメリカ大陸横断を狙う
従来モデルの「ホンダジェット」や「エリートII」は定員7名であり、ビジネスジェットとしては最も小型な「VLJ」(ベリーライトジェット)というカテゴリーに含まれる。
どちらもエンジンは「HF120」を搭載。これはホンダ社が独自開発したターボファンエンジンHF118をもとに、GEホンダ・エアロエンジンズ社(本社オハイオ州)が開発・製造したものだ。
これに対して新型ホンダジェットは定員11名、ひとつ上のクラス「LJ」(ライトジェット)に属する。機体が大型化するにともない、エンジンは米国ウィリアムズ社の「FJ44-4C」が搭載される予定だ。
新型ホンダジェットは従来モデルと比べ、どのくらいの性能差があるのか? そのパフォーマンスにおいて、最も大きな違いは航続距離だ。
「エリートII」の航続距離は1547nm(2865km)なので、ロサンジェルス空港から東へ飛んだ場合には、シカゴ(1516nm、2808km)にはぎりぎりたどり着くが、ワシントンDCのダレス(1988nm、3682km)や、ニューヨークのJFK(2151nm、3984km)には届かない。
一方、新型ホンダジェットの航続距離は2625nm(4815km)であり、従来モデルより1.7倍ほど長距離を飛ぶことができる。
同機のベースモデルは「ホンダジェット2600」だと前述したが、つまりこの機体名は「2600 nm」を意味し、過去に例がないほどの長距離航行が可能であることを意味している。
航続距離が2600 nmであれば、全米がすっぽりそのエリア内に入る。つまり、新型ホンダジェットにおいては、ロサンジェルス空港からマイアミ(2033nm、3765km)や、ボストン(2269nm、4202km)を含む東海岸までの飛行が可能となるのだ。
小型ビジネスジェットの需要が最も高い米国マーケットをターゲットとして、アメリカ大陸全域をノンストップで飛べるスペックを実現することが、この新型機の最大の使命であり、ホンダACI社の狙いだ。
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