毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るかげで、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はマツダ ランティス(1993-1997)を振り返ります。
文:伊達軍曹/写真:MAZDA
■外見以上に先進的だったランティスの中身
「一部の人には猛烈に愛された。しかし時代の渦に翻弄され、静かに消えていった名車」。それが、1993年8月から1997年12月までの約4年半のみ販売されたマツダ ランティスです。
ランティスには5ドアハッチバック(マツダは4ドアクーペと呼んでいました)のほかに4ドアセダンもありましたが、ここでは人気が高かった5ドアハッチバックに絞って話を進めます。
ファミリア アスティナ/ユーノス100の後継モデルとして登場したランティスは、ファミリア系から独立する形で新しい車台を採用した5ナンバーサイズの5ドアハッチバック。
エンジンはロードスターにも使われた1.8L 直4 DOHCと、2L V6 DOHCの二種類で、トランスミッションは5MTまたは電子制御4速ATです。
コンパクトな車ではありましたが、タイヤをボディの四隅に配することでホイールベースは2605mmと長めに取ることができ、キャビンの前後長も十分といえるものでした。つまり、居住性は良好でした。
そしてタイヤをボディ四隅に配し、前後のオーバーハングを極端に切り詰めたことで、このなんともキレの良い個性的なフォルムが生まれたのです。
しかしランティスは「格好だけ」の車ではありません。2L V6搭載グレードは当時の2L車としてはトップクラスの加速性能を誇り、平成初期のFF車でありながら、アンダーステアもほとんど感じさせない仕上がりでした。
さらにランティスは、運輸省(※現在の国土交通省)がとりまとめた「1996年新衝突安全基準」に適合した初の車でもあります。つまりランティスは「安全性が高く、居住性も5ナンバーながら良好で、よく走る、素敵なフォルムの車」だったのです。
しかしその人気は今ひとつ盛り上がらず、1997年12月、ランティスは静かに国内での生涯を終えました。
■クルマ好きは激賞! ではなぜ一代限りに?
そんなステキな車であるランティスがなぜ、1代限りであえなく生産終了となったのでしょうか?
答えは「いろいろ間が悪かった」ということになると思います。
ランティスが発売された1993年当時、マツダは「5チャンネル体制」を取っていました。バブル真っただ中の1989年に始まったそれは、「販売チャンネルをたくさん作ればたくさん売れる(はず)!」という、かなりのイケイケ路線でした。
しかしよくわからん車種を多チャンネル向けにとりあえず濫造したことで、1993年当時のマツダのブランドイメージは地に落ちていました。
実際、その後は経営が完全に傾いて、1996年にはフォード傘下になっちゃいましたし。当時は「マツダ地獄」なんて言葉もありましたね。今のマツダのブランド力からすると信じられない話ですが。
そんな状況下で「玄人好みのマツダ製5ドアハッチバック」を発売したところで、あんまり売れないのは残念ながら明らかです。ランティスにとっては間が悪かったとしか言いようがありません。
また当時のマツダは「宣伝下手だった」というのもあるでしょう。
新衝突安全基準に適合したボディに何かキャッチーな名称(TNGAみたいなやつ)を付けて売り出せばよかったのかもしれませんが、当時のマツダはそれもやりませんでした。
そしてデザインも、若干個性的すぎたかもしれません。筆者を含む車好きはたいていランティスのデザインを激賞するものですが、当時の一般的な人にとっては「何コレ? 変なカタチ!」としか思えなかったのかもしれませんね。
しかし時代は変わりました。もしも1993年に登場したならば「変なカタチ! サイズ的にも立派じゃないし」とか言われそうな新型マツダ3が今、日本国民の多くから熱視線を浴びています。
そしてランティスという車名自体は消えましたが、その遺伝子は、後のアクセラや新型マツダ3へと確実に受け継がれている気がしてなりません。
■マツダ ランティス 主要諸元
・全長×全幅×全高:4245mm×1695mm×1355mm
・ホイールベース:2605mm
・車重:1160kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1839cc
・最高出力:135ps/7000rpm
・最大トルク:16.0kg-m/4500rpm
・燃費:10.6km/L(10・15モード)
・価格:166万8000円(1996年式クーペ タイプG 5MT)
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