■コストパフォーマンスが光るパッシブ・オンデマンド4WD
ではなぜパッシブ・オンデマンド方式が一般的な4WD車で最もポピュラーなシステムになっているのか?
最大の理由はコストにある。システムが複雑になればなるほど部品点数が増え、単純に材料費が上がるとともに開発費も必要になる。
その点、比較的シンプルな構造のパッシブ・オンデマンド4WDであれば部品点数が抑えられ、電子回路も不要になるためコストを抑制できる。
そのことが車両価格の低下にもつながるのはいうまでもないだろう。
多くのパッシブ・オンデマンド4WD車には「ビスカスカップリング」という機構が用いられている。
これはシリコンオイルを使った一種のクラッチであり、前後輪が同じ回転数のときは特になにもせず、前後どちらかのタイヤが滑って回転差が生じた際に、遅いほうのタイヤに駆動力を配分する。
ビスカスカップリングでは、駆動力を伝える際にシリコンオイルの粘性を利用するのが特徴であり、簡素な構成ながら確実な作動を得ることができる。
しかし、能動的なシステムであることから、必要な駆動力を発生するまでのタイムラグが生じてしまうのも事実。
さらにいえば、流体の粘性を利用して駆動力を伝達するため、ギアによる駆動に比べると効率が落ちるという弱点もあった。
パッシブ・オンデマンド4WDがなんちゃって4WDと呼ばれたりするのはこのためだ。
とはいえ、このタイムラグもわずかなもので、極端な悪路でなければ十分に4WD車としての性能を発揮する。
ビスカスカップリングは西ドイツのビスコドライブ社(当時)が開発したものであり、これを採用する場合はビスコドライブ社へのパテントを支払う必要があった。
そこでビスカスカップリングに似た構造の独自機構を開発したメーカーもあるが、基本的な作動原理はほぼ同じといえる。
■フルタイムだけどフルタイムにあらず?
話をややこしくしてしまうのが、パッシブ・オンデマンド4WD方式を採用している車種であっても、それをメーカー側でフルタイム4WDと呼ぶケースがあることだ。
パッシブ・オンデマンド式は通常走行において前後輪のどちらかが駆動しているため、この時点では厳密にいうと2WDである。そして前後輪の回転差が生じると4WDになる。
これをフルタイム4WDと呼ぶのは少々無理があるように思えるが、パートタイム4WDのように2WD/4WDの明確な切り換えがあるわけではなく、オートマチックに変化するため、常に4WDのスタンバイ状態にある。
だからこそスタンバイ4WDと呼ばれるのだ。
つまり「4WDの能力はあるが、通常は2WDで走っている」ともいえるため、これをあえてフルタイム4WDと称している可能性がある。
さらにクルマのアピールとしてフルタイム4WDをうたうという理由も考えられる。
日本を代表する高級SUVのトヨタ ランドクルーザーはフルタイム4WDを採用しているが、高度な制御によって4輪の駆動力を変化させている。
要するにフルタイム4WDであっても、常に4輪に同じ駆動力がかかっているわけではない。
こうした理由から、4WDの各方式はあいまいに表現されることが多い。
また、電子制御技術が進化している現在では、電子制御式オンデマンド4WDのコストも下がることが考えられ、その点におけるパッシブ・オンデマンド4WDの優位性がなくなる可能性もある。
すべてのタイヤに駆動力を与えて走行安定性を高める4WD。その利点を比較的手軽に得られるパッシブ・オンデマンド4WDは、コストパフォーマンスと信頼性の高いシステムであり、なんちゃって4WDと呼ぶのは過小評価ともいえる。
たとえなんちゃってであっても、パッシブ・オンデマンド4WDが世界のモータリゼーションにもたらした恩恵は無視できない。
【画像ギャラリー】「なんちゃって」でも実用性は十分!! パッシブ・オンデマンド4WDの利点を考える(6枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方オンデマンド式については、2006年ごろにAOLで、日産出身の笹目二朗さんが当時のクライスラーのテスト結果をもとに書いた記事で、タイムラグが生じてしまうこと、二輪駆動で走っているときは非駆動輪の抵抗が大きくなるので、燃費はフルタイム式よりもむしろ悪くなること、他にもカップリングの耐久性の低さなどが指摘されています。