■ナットを締めると路面入力とタイヤ入力がダイレクトにドライバーに直結する!
ここを抑えたうえで、改めて冒頭の「競技中にナットを締め直すと走りがシャキっとする」のはなぜでしょうか?
平たく言うと、ホイールとハブフランジがより剛結することで、路面入力やタイヤ入力がダイレクトにサスペンションやステアリング機構を通ってドライバーに伝わるからです。
通常、ホイールはボルト・ナットを介して車体にガッシリ装着されているように見えますが、走行時は荷重や路面入力によりボルトはミクロに伸びたり曲がったりしており、ホイールがハブに対してグイングイン動いているのです。そこで振動(力)の伝達が逃げてしまうのです。
より多く逃げている状況だと、「フワフワする、手応えが軽い、ダイレクト感がない」というようなフィーリングに。一方、逃げが少ないと「ガッチリする、手応えが重い、ダイレクト感が高い」という状態になります。
しかし、デメリットとして細かい「ビリビリ」「ガツガツ」した乗り心地を悪くするような振動も多めになります。
フィーリングとしてはそれなりに大きく変わるのですが、実際は超ミクロな世界の話なので物理的なタイムや速さに直結する話ではありません。厳密に言うとアライメントが微小に動く影響で変わるのですが、タイヤのタレなどほかの誤差に埋もれるレベルです。
■大きいのはフィーリング面への影響
それよりもフィーリングへの影響が大きく、「タイヤグリップや路面状況がよくわかってギリギリまで攻められる!」ので、特にラリーのような不確定要素の大きい競技では結果的にタイムに繋がることはあります。
競技走行中は主としてブレーキを多用することにより、ボルトもナットも熱膨張するため、結果的に締結トルクが低下してこの剛結度合いも低下します。そこで競技中に締め直すとシャキッとするのです。
しかし、繰り返しますが、「締め過ぎは破損の元」です。「熱膨張し緩くなったからさらに締める」のは、言い方を変えると「冷間時には締め過ぎ」状態。サーキットなどで自己責任において実験するのは結構ですが、ボルト・ナットの破損による車輪脱落事故と紙一重ですので充分に気をつけてください。あくまでも基本は「冷間時に規定トルク」です。
■なぜドイツ車はステアリングフィールがいいのか?
そのなかでもいくつかポイントを紹介しましょう。
通常のアルミナットの場合はナットが先にナメます。粗悪品の場合はむしろ規定トルクでも破損したりします。鍛造アルミナットの場合は強度がピンキリ。ナットが先にナメたり、場合によってはボルト側が破損したりします。
ハブナットの指定トルクはメーカーや車種によっても異なるので正確には愛車の取扱説明書を参照していただきたいのですが、一般的にはM12×1.5のトヨタ・ホンダ・マツダ車は100~110Nmほど。M12×1.25のニッサン・スバル・スズキ車 は80~100Nmが一般的。GR86は例外的に120Nm。
最近は重量化や高出力化に伴い、M12からM14へと太くなり、高締め付けトルクの車両も増えてきました。シビックタイプRは127Nm。新型アル/ヴェルやMIRAIは140Nmですが、クラウンは従来の103Nmだったりしてマチマチ。よりパフォーマンス重視のレクサス系に至っては同じM14でも欧州車と同じくハブボルト型に変わってきています。
そう、従来の日本車に多いスタッドボルト×ハブナットか、ドイツ車で一般的なハブボルトかでも、ホイール支持剛性が変わるのでフィーリングも大きく異なるのです。昔からドイツ車はステアリングフィールがいいと言われる理由のひとつがこれ。
素材でも大きく代わります。日本車で一般的なスタッドボルトは柔らかい素材ですが、ドイツなどで一般的なハブボルトは恐らく高炭素鋼かクロモリ鋼(すみません、当方素材については詳しくなくて……)。
トルクレンチで作業すればわかりますが「グニューコチン」となる日本車の締め心地に対してドイツ車の締め心地は「グッカチン!」。手応えや音からもまったく硬度が違うのがわかります。さらに高炭素鋼やクロモリ鋼は通常の鉄よりも熱膨張率が低いので熱が入ってもフィーリングが変わりづらいと、まさにいいことづくめ。
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