日産はなぜ「日本のセダン市場」を見限ったのか? 海外では魅力的なセダンを販売

日産はなぜ「日本のセダン市場」を見限ったのか? 海外では魅力的なセダンを販売

 現在、日産のセダンは、日本国内においては、シーマ、フーガ、スカイライン、ティアナ、そしてシルフィの5車種がラインアップされている。しかしどれも、モデルチェンジはなされず、10年を迎えるクルマも出始めた。

 いっぽう、海外では、量販セダン「アルティマ」、高級セダン「マキシマ」、新型の「シルフィ」など、日本未発売の新型車も多くあり、この状況だけを見ると、日産は日本のセダン市場を見限り、日本国内でセダンを売る気がないようにも思える。どうしてこういった状況に陥っているのか、元メーカーのエンジニアであった筆者が考察する。

文:吉川賢一/写真:NISSAN、平野学


日産はなぜ「日本のセダン市場」を見限ったのか?

 日産のセダン販売が縮小したのには、「日本ではセダンが売れなくなった」という言い訳があるのかもしれないが、実は「売れやすいクルマを狙い続けたことで自ら陥った」というのが事実だと筆者は考える。

北米ではセダンがいまだに販売好調ということで日産は精力的にニューモデルを投入。写真のマキシマは北米と中国で販売し人気が高い
日本マーケットに欲しい小型のスポーツセダンのセントラ(北米)。セントラは若者をターゲットとしていて、ターボのほかにNISMOもラインナップしている

 日産に限った話ではないが、日本でセダンが売れなくなったのは、1990年代、メーカー自身が利便性や合理性を追求し、販売台数が稼げるミニバンやコンパクトカー、SUVを顧客へ提供し続けたことによるもので、いわばメーカーの「自業自得」である。

日産のセダンの分類を見ると本家の日本での手薄感が強調される。かつての屋台骨であるサニーやブルーバードをラインナップしていた頃が懐かしい

 国内のメーカーは、国内専売のセダンを徐々に減らし、わずかに残った国内専売モデルについても、シャシーをセダンの売れ行きが好調な北米市場向けのクルマと共用前提に開発したため、ボディは徐々に大型化、エンジンも高排気量化して、グローバライゼーション(=アメリカナイズ)していったのだ。

日本マーケットはラインナップが減っているだけでなく、長期にわたり継続生産されているモデルばかりになっている。これでは魅力的な商品は生まれない

 北米とは道路事情が違う日本国内において、大きく扱いにくくなったセダンから顧客の心が離れていってしまうのは、必然であろう。

 とはいえ、外的要因もある。このところ、ベンツやBMW、AUDIをはじめ、海外メーカーのディーラーが増えていると感じるのではないだろうか。海外系ディーラー網が整ったことで、YANASEなど限られたルートでしか手に入らなかった海外製の高級セダンが容易に入手できるようになったことも、国内メーカーのセダンが売れなくなった要因のひとつだと考察する。

 ブランド価値の高いものを手に入れたいという欲求は、日本人においてはいまだ高く、その矛先は、日本車の高級セダンではなく、海外製の高級セダンに向かっているのだ。

日産だけでなく日本の自動車メーカーにとって欧州のプレミアムブランドが身近になってきているのが脅威となっている。価格も日本車とあまり変わらなくなった

では、なぜクラウンは売れている?

 日産に限らず、日本市場自体でセダン不人気となって久しいが、唯一といっていい程、買い続けられるクルマが「クラウン」だ。

 2018年にフルモデルチェンジをして12代目クラウンが登場して以降、一年が過ぎた2019年5月も2461台も売れている。トヨタの営業マンの方から聞いた話では、「新型クラウンが出たらとりあえず買ってくれる」顧客が、いまだ沢山いるそうなのだ。

現行クラウンは大きく変貌を遂げ賛否両論あるが、日本のセダンで唯一検討しているのはクラウンの魅力に加え販売サイドの頑張りは無視できない

 それはクラウンならば「何もかもが大丈夫」という、絶対的な信頼関係を、営業マンと顧客との間で強固に築いてきた恩恵である。ただし、気になることがあれば顧客に呼び出され、こんこんと説教をされることもあるらしい。

 歴代クラウンは、クルマが魅力的なのはもちろん、それを支える営業マンたちによる努力が成し得た、「驚異の販売構造」なのだ。ちなみにその営業マンの方に「今回のモデルチェンジで顧客の若返りはできましたか?」と尋ねたところ、「70代が60代後半になりました。」ともおしゃっていた。

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