そんなにたくさん売れたワケじゃないのに、なぜかクルマ好きの心に残る一台を小沢コージ氏がご紹介するこの企画、今回は「軽より小さいクルマ」をコンセプトに、現代に蘇った「三丁目の夕日」カー、ダイハツ ミゼットIIをご紹介する。
※本稿は2024年3月のものです
文/小沢コージ、写真/DAIHATSU、撮影/茂呂幸正
初出:『ベストカー』2024年4月10日号
■軽だけど軽より小さい「三丁目の夕日」カー
一見まさしくザ・レトロカー。あの戦後復興期を描いた漫画&映画『三丁目の夕日』に出てくるが如き軽オート三輪を、約40年後の1996年に蘇らせたのがこのミゼットIIだ。
出目金のような真円ヘッドライトや三角キャビンは1957年生まれの初代ミゼットがモチーフ。なにより軽トラ版が真ん中1人乗りでカーゴ版でも2人乗りのレイアウトは今見ても新鮮。オマエはバイクか!(笑)
ただし2代目を単に懐かしさを狙った企画モノと思ったら大間違い。作りも価格も予想以上にマジメだ。
骨格には当時の軽トラ8代目ハイゼットのパーツが多く使われ、ラダーフレームやストラット&リーフリジッドの前後サス、当初キャブレターだった660cc直3のEF型エンジンや4MT、3ATは明らかに流用。
ただしハイゼットより50cm短い2790mm(2865mm版も)の全長や10cm狭い1295mmの全幅、30cm短い3.6mの最小回転半径は流用じゃ生み出せない。
キャビンは完全オリジナル設計で、一方ライト類やディテールは極力流用されており、特にテールランプは競合車スズキ キャリイ用との噂もあるがこれもマジメにコストダウンを図ったがゆえ。
生産も技術伝承とコスパを狙ってあえて手作りライン。確かにミゼットIIは1993年と1995年の東京モーターショーに参考出品され、反響を得て作られたクルマ。
だが単にレトロな可愛さを売りにした玩具ではなく「軽自動車の枠にとらわれない、軽より小さいクルマ」をコンセプトに小型・安価・必要最小限という原点に立ち戻り、あるべき軽自動車像を追究した意欲作なのだ。ある意味理想のコンパクトカーを狙った初代スマート・フォーツーにも近い。
なにより当時の価格が凄い。最初の軽トラ型はボディ一色でメッキミラーもないベーシックなBタイプが46万円強で、今回乗ったDタイプが49万円強と50万円以下。豪華版のRタイプでも59万円強と当時のハイゼットより10万円以上安い。それを生産台数が少ない1〜2人乗りで、厳しい衝突要件をクリアして実現した。
■速くはないが軽快で楽しい!
おかげで今も手軽で、今回バクヤスオートで乗った距離1万km以下で車検2年付きの1996年式Dタイプは63万円。確かに欠点もあり、わずか31psのエンジンなので軽量ボディのわりに速くはない。ターボエンジンに載せ替える人もいる。
ホイールベースも2m以下と異様に短く、リアサスもリーフスプリング&リジットなのでピョコピョコ跳ねるし、軽ワゴンのような安定感は望めない。エンジン音もシート下から騒がしい。
だがパワートレーンはタフなハイゼット共用なので20年落ちでも信頼性バツグン。メーターも速度計と燃料計だけだが問題ナシ。
なにより全長3m&全幅1.3m切りのコンパクトさは偉大で駐車場では2台分に3台は置けそうだし、スキマもスイスイ抜ける。荷台スペースはスペアタイヤをボンネットに移し、1.1m強×1.2mも確保してるから大物家具から自転車まで運べるし、カーゴタイプならば雨露も凌げる。
定員は1人か2人なので軽としては不便。だがバクヤス遠藤店長によれば「在庫があれば月に1台は売れます」とのことで、大型犬の散歩用とか工場の敷地内移動用に買う人もいるとか。可愛さはもちろん特異な利便性も魅力的。意外にアリなどうしてますCARなのよ!
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