なぜ「400R」を襲名?? 丸テール復活の意図は?? スカイラインはどこへ行く!?

 日産スカイラインにV6ツインターボを搭載する「400R」が追加された。元気なスカイラインが帰ってきた、とワクワクする反面、どうにも違和感が拭えない。

 丸型のテールランプ、そして日産エンブレムまで捨てたスカイラインが、急に「伝統のブランド」を使ってきたのだ。

 かつては「外資系に務めるタワーマンション在住の人」がオーナーのモデルケースとされていたV37スカイライン。登場時からえらく性格が変わってしまった。

 日産はなにを思い「400R」とネーミングしたのか。そしてそこに込める思いとは。岡本幸一郎氏による分析と、ニスモ400R開発ドライバーの木下隆之氏の回想をお送りしよう。

文:岡本幸一郎、木下隆之/写真:日産、NISMO


■丸テールと日産エンブレムの復活はやる気の表われか?

【文:岡本幸一郎】

 スカイラインなのかインフィニティなのか、日本市場軽視ではないのかなどなど、現行V37の発売当初からいろいろな声があったのはすでに多々報じられてきたのは周知のとおり。

 なにかにつけて物議を醸すのも、「スカイライン」というビッグネームを背負っているからにほかならない。

スカイラインのグリルに日産エンブレムが戻ってきた。現行型が登場した2014年にはインフィニティバッジにするなら、スカイラインを捨てて「Q50」と名乗るべきという論争もあった。結局「インフィニティ・スカイライン」というちぐはぐな形になってしまったのだが……

 今回のマイナーチェンジで方向性が変わり、そこまで言うならやってやるぞといわんばかりで、内容的にはまさしくいろいろあった声がほぼ反映されている。

 まず日産バッジについて。

 実はV37の発売時、もともと日本では日産バッチを付けて販売される予定だったところ、急きょインフィニティにすることになったという経緯がある。

 「新型スカイラインをプレミアムブランドとして位置づけるためにインフィニティのバッジを付けた」というのが理由だったのだが、件の説明に釈然としなかった人は多かった。

 そこでやはり、「日産を象徴するクルマであるスカイラインに相応しく、日産バッジを採用することにしました(日産 プロダクトコミュニケーション部)」という。

 スカイラインを象徴する丸目4灯のテールランプも復活した。

 これについては「代々受け継いできたスカイラインのアイコンである丸目4灯リヤコンビネーションランプを、最新のテクノロジーでモダンな見栄えに進化させ、より特徴的なデザインにして採用しました」(同)としている。

 実はこうしてモデルライフの途中で丸目4灯テールに変わったのは今回が初めてではない。

V35登場時も丸テールではなかったスカイライン。直6からV6になり、しかも丸いテールランプを捨ててしまったことに対するアレルギー反応は大きかった。丸テール化で収束を図ろうとしたが……

 スカイラインか否かで物議を醸したことを思い出すV35のときも、マイナーチェンジで丸目4灯っぽいデザインになった。

 V35の場合、スカイラインになる予定でなかったにもかかわらず、すでにデザインが出来上がった段階で、日本ではスカイラインを名乗ることになったわけだが、スカイラインであることを視覚的にもより強調すべく変更したようだ。

 今回のV37の初期型については、もともと丸目4灯をアレンジしたデザインのように見え、クルマ全体もどことなくハコスカを想起されると感じていたので、当初からスカイラインであることを意識してそうしたように感じていたのだが、さらにわかりやすく、ということだろう。

 一方、フロントにも現在の日産ブランドの象徴である「Vモーショングリル」を採用したのは見てのとおり。

丸いテールランプが復活したスカイライン。そもそもV36型では丸いテールランプを採用しており、V35以降は復活と消滅を繰り返しているようにも思える

 日本専用に「スカイライン」のスポーティネスを凝縮したフロントフェイスをデザインしたというが、正直、このクルマのもともとのフォルムに対して、いささか収まりがよろしくない気もするのは否めず。そのうち見慣れるのだろうか……。

 また、プレミアムスポーツセダンとしての運転の楽しさと圧倒的な走行性能を追求するとともに、スカイライン本来の走りのダイナミズムと操る歓びを感じられるよう(※一部プレスリリースより抜粋)、ガソリン車に3.0リッターV6ツインターボエンジンのVR30DDTTを新たに搭載した。

■400RはR33との関連性はないというが……

 中でも、高性能版に「400R」というグレード名が採用されたことが話題となっている。

 「400R」といえば、やはり我々としては、R33スカイラインGT-Rのあのモデルを連想せずにいられないわけだが、これについても問い合わせたところ、とくに33GT-Rとの関連はないのだという。

こちらが400R。対向キャリパーなども備えてスポーティなイメージは強い

 しいて言うと、スカイライン史上最高の400馬力を超えるパワーを印象づけるとともに、歴代の特別なモデルに用いられた、スカイラインにとっては「GT」よりも上の位置づけといえる「R」の称号を組み合わせたといったところだろう。

 同エンジンについては、「アメリカでは既に投入していて非常に高い評価を得ている高性能エンジンですので、これを今回のスカイラインの走りを向上させる強い武器として採用することに決めました」(同)とのこと。

 これにより、これまた物議を醸したダイムラー製の4気筒エンジンはラインアップから外された。こちらも性能的には申し分ないエンジンだったのだが、よりスカイラインにとって相応しいものをということで、こうなったようだ。

 なお、今回のマイナーチェンジ前まではグレード名にエンジン排気量を示す数字が組み合わせられていたところ(※とはいえハイブリッドのシステム出力は364psと「350」に近いが…)、今回のマイナーチェンジで省かれた。

 そうすることでスカイラインの中でグレードの数字に排気量と馬力が混在する状況は避けられるわけだが、マイナーチェンジの前後で数字の意味が変わった点は混乱を招く恐れもあるので、少々気をつける必要はありそうだ。

 今回の一連の変更は日産の意思表示であり、とやかく言われ続けたことに対して、今の日産がスカイラインにできるせいいっぱいではないかと思う。

 それは少々やりすぎに見えなくもないが、本気であることをアピールするには、これぐらいやったほうが印象に残る。

久しぶりのツインターボという響きにワクワクしてしまうファンも少なくない。405psという馬力はカタログスペックで見ればスカイライン史上最強になる

 ただ、件のとやかく言っていた層は、本当にスカイラインを愛するファンとか、実際にスカイラインを購入する層というよりは、スカイラインにかこつけて何か言いたいだけの人に思えてならず、これで販売にどうこうという影響はあまりないように思える。

 それでも、日本市場を軽視しないことや、スカイラインファンを大切にしていこうという日産の心意気はちゃんと伝わるに違いない。

 ひいてはそれが日産のイメージアップにつながるものと期待したい。

【スカイライン400Rスペック】
エンジン:VR30DDTT型2997cc、V6ターボ
最高出力:405ps/6400rpm
最大トルク:48.4kgm/1600~5200rpm
トランスミッション:7速AT

■ 開発陣のわがままだけで作り込んだ「元祖400R」

 かつての400R、正式名「ニスモ400R」とはいったいどんなクルマだったのだろうか? その開発ドライバーだった木下隆之氏の回想録からはとてつもないこだわり、そして速さへの渇望が見て取れる。

 同じ「400R」をスカイラインに名付けるにあたり、日産がこの名車の名前を知らないわけはあるまい。この機にニスモ400Rへ込められた思いを見ていこう。

【文:木下隆之】

 400Rの開発を任されたのは、僕がニスモ契約ドライバーだったあの頃である。

 当時はスカイラインGT-Rをメインに様々なレース活動をしており、いっぽうで、こうしたコンプリートカーの開発にも手を貸せと、夢のようなお鉢が回ってきたのである。

1200万円という価格だったが完売した400R。万人向けではないセッティングだったがそこには並々ならぬこだわりがあった。R35が1000万円を超えている今日からすれば安く思える

 開発責任者は、竹内俊介氏だった。彼もいっぽうではレース用マシンの開発を担当していた。つまりは、レーシングドライバーと、レースエンジニアという、コンペティションの世界で活動する二人が音頭をとることになったのである。

 そんなように、根っからのレース屋がコンプリートカー開発を任されるというスタイルだったから当然、400Rの開発コンセプトに迷いがあるはずもなく。シンプルに突き進む。

 すなわち、世界最速の熱いR33スカイラインGT-Rを作ろうとなったのは必然だっただろう。

 さらに僕らには、信念にも近い思いがあった。ともすればメーカー系のコンプリートカーは、どこかに社会性や汎用性を求めるあまり、妥協の後が残ることが多い。それを嫌った。

  万人ウケを狙うあまり、角の取れた平凡なマシンに成り下がるのを正義としなかった。徹底的に熱さと激しさを追求したい。

 たとえ嫌いな人が大多数でも、少数の琴線にビンビンに響くマシンを作りたいというこだわりが二人の共通認識だったのである。

 そもそも超少量生産のコンプリートカーだった。たしか50台前後の販売が計画されていた。逆にいえば大量には生産できなかった。

 それは僕らにとってはとても都合が良かった。それゆえに、完成した400Rは、驚くほど激辛なマシンになった。

 搭載するエンジンはRB26DETT改のRB-X GT2である。日産工機製(編註:日産工機はグループAのGT-Rのエンジンを製造した)のクランクを使い、排気量を2.8リッターまでスープアップ。

 性能曲線でいえば、中高回転での強烈なパンチが最優先課題だったように記憶している。

 回転計の針の上昇に比例して躍動感がみなぎり、最後にドッカンと何かが弾けるような特性は、今乗っても強い刺激して味わえる。

 ただしそれでは低回転域のレスポンスとトルクが物足りなくなるからドライバビリティが悪い。それを排気量アップで補うことにした。操縦性も、刺激一辺倒である。

 サスペンションは硬く締め上げられているから、不快なロールはない。ハンドリングは切れ味優先だから、カミソリのようにスパッスパッとコーナーを突き刺す。

 もともと開発ドライバーの僕自身がアンダーステア嫌いだから、フロントの応答性にこだわらないわけもない。

 切れ味は妥協できないポインドたったのだ。ただし、乗り心地がいいわけもないけれど、ロードホールディング性能にはこだわった。

400Rに搭載された「RB-X」。ワークスチューニングの2.8Lエンジンはこの後も決して市販されることはなかった
400Rに搭載された「RB-X GT2」。ワークスチューニングの2.8Lエンジンはこの後も決して市販されることはなかった専用エンジンだ

 それは僕らがすでにニュルブルクリングやスパ・フランコルシャンでレース経験を積んでおり、タイヤと路面のコンタクトがいかに重要かを理解していたからだ。

 今でこそニュルで鍛えるマシンが増えているけれど、そのハシリだったと自負している。

 そう、400Rは古今東西稀な、レース屋の熱い想いによって完成したマシンなのだ。エンジニアはスカイラインGT-Rに精通し、しかも特にレース仕様を開発してきたという経歴である。

 そのステアリングを握るのは、やはりスカイラインGT-Rで戦う現役ドライバーである。

 さらに言えば、合議制でも民主主義でもなく、少数の情熱だけで開発された。他人の助言には耳をかさず、ただひたすら、開発陣のわがままだけで作り込んだマシンだったのである。それが激辛になった理由だ。

 それが今でも支持され価値を持っているという。わがままを貫いてきた開発ドライバーとして、400Rには深い愛情がある。それを支持してくれる人たちがいることは、この上ない喜びである(木下隆之)。

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