2024年5月、ホンダは四輪車の電動化を中心とする取り組みについて説明会を開催し、三部敏宏社長は改めて電動化へのホンダの不退転の決意を語った。三部社長はホンダの救世主となるのか? 大胆に方向を定めたホンダの本気度は!?
※本稿は2024年6月のものです
文:佃 義夫/写真:ホンダ、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2024年7月10日号
■EV化を見直し……ではなく加速!
ホンダが5月16日にEV・ソフトウェア投資を大幅に加速することを発表した。三部敏宏本田技研工業社長は「中長期的に見ればEVシフトは着実に進むと確信している」と発言。2年前に表明した5兆円のEV投資を倍増して、2030年度までにEV・ソフトウェア開発に10兆円の巨額投資を行うことを明言した。
これはトヨタの2030年までのEV投資額5兆円を上回る最大規模となるものだ。加えて、三部社長は、2030年に先進国で40%、2040年までにホンダのすべての新車をEV・FCEV(燃料電池車)とする従来の目標を維持することも確約した。
足元では、カーボンニュートラル実現に向けたEV転換の動きに異変が生じている。
欧米市場を中心にその成長率が鈍化し、最大市場の中国では政治的なBEV(バッテリーEV)政策も絡んでEVの価格競争や生産供給過剰などの問題が浮上。世界の主要自動車メーカーがEV戦略を見直す気運が出ている。いわばホンダはEVシフトが減速するなかでも「逆張り」の強気な投資計画を打ち出したのだ。
この背景には、2021年4月の社長就任から4年目を迎えた三部社長の下、ホンダが四輪事業で稼ぐ力をつけ、財務基盤が安定してきたことがある。
また電動化・知能化における新たなモビリティでの世界的な競合に打ち勝つために、日産と提携の検討を電撃的に表明するなど、旧来のホンダトップ方針からの決別を断行し独自色を強めている背景もある。
さらにあえて言えば、マルチパスウェイ(全方位戦略)を掲げるトヨタの投資余力と、今回のトヨタを超える巨額投資とはいえ、EV投資に集中せざるを得ないホンダの投資余力の違いもあるだろう。
ホンダとトヨタは前期2023年度連結決算でともに最高益となった。トヨタが日本企業初の営業利益5兆円超えの5兆3529億円を稼ぎ出したことに対して、ホンダの営業利益は1兆3819億円で16年ぶりの最高益だ。「事業体質は着実に改善している」(三部ホンダ社長)とはいえ、トヨタとの彼我の差は大きい。
■不退転の覚悟で近未来図を描く
「EV事業で充分に回収可能であると判断した」。
と三部敏宏社長はこの巨額投資にホンダの将来の生き残りへ賭けた覚悟を示した。10兆円の投資の内訳は、車載ソフト開発に2兆円、車載電池に2兆円、次世代工場などに6兆円を振り向ける。
三部社長は「世界的にEVの踊り場とか減速感が言われているが、現時点でのEV黎明期にはこれも織り込みずみだ。2020年代後半にはEV普及期が訪れる。小型モビリティには、EVが最も有効なソリューションだ」と言い切った。
ホンダは2030年にEV世界生産販売200万台を目標に、バッテリーを中心としたEVの包括的なバリューチェーン・調達網の構築と、コスト20%削減を目指す。
加えて、ホンダはEVをベースとしたクルマの価値や性能をソフトが左右するSDV(ソフトウェア・ディファインド・ヴィークル)開発の強化の重要性を強調し、今回の巨額投資表明への決意の強さと生き残りへの危機感は「2030年といっても、あと5年しかないので」と、会見で漏らした三部社長の発言からも窺える。
一方で5月28日にトヨタ・SUBARU・マツダの「トヨタ連合」3社のトップが勢揃いして「エンジン、新たな挑戦」を標榜して電動化に適合する新時代エンジンを3社それぞれが披露した。
トヨタ連合3社は「脱エンジン」の風潮を覆し、あえて3社の個性を生かすための新時代エンジン開発の発表説明会を開いたのだ。「カーボンニュートラル実現への多様な選択肢として、BEV開発にも本気だが電動化時代の内燃機関の開発にも本気で取り組む」と佐藤恒治トヨタ社長は断言した。
そこには、豊田章男トヨタ会長が今年2024年の幕開けに開催された東京オートサロンでも宣言した「敵は炭素だ」と言った発言が背景にある。EV一辺倒ではなく、電動化時代のエンジンとそれを支えるサプライチェーンや雇用の未来を見据えた取り組みがあることを「トヨタ連合」として強調したのだ。
各社社長のプレゼンの後、それぞれの技術担当トップによるワークショップで3社が競うように熱弁が繰り広げられた。具体的には、トヨタがマルチパスウェイ(全方位戦略)の一環で新開発の直列4気筒の2つの小型エンジンを披露。
これは次世代のPHEV(プラグインハイブリッド車)向けを意識したもので、当面の電動化への主力となりうるPHEVに対応していくものだ。
SUBARUは、固有の水平対向エンジンを生かして新たにHEV向けハイブリッド機構を組み合わせる。マツダは、独自のロータリーエンジン(RE)を電動化で生かし、「雑食性」の特性を持つREでカーボンニュートラル燃料(CN燃料)を活用するなど電動化時代のREを前面に打ち出していくことになる。
トヨタを中心とするマルチパスウェイ(全方位戦略)が見直されるなかでの「エンジン・リボーン」ということで、ホンダの「脱エンジン・EV転換」に突き進む動きとは対照的なものだ。
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