■販売店に人気の理由を聞いてみた
なぜハスラーは、フルモデルチェンジをせずに、売れ行きを4年前の1.2倍に増やせたのか。販売店には、どのようなユーザーがハスラーを買っているのかを聞いてみた。
「ハスラーでは、先代型からの乗り替えが一番多いです。次にスズキワゴンRからのお客様も目立ちます。他社の製品では、ダイハツムーヴとか、コンパクトカーからのダウンサイジングもあります。最近はSUVが人気のカテゴリーになり、ハスラーが今まで以上に注目されています」。
先代ハスラーは2014年に発売されて人気車になった。先代型も1か月平均で5500~8000台が届け出されて保有台数も多い。先代ハスラーを気に入ったユーザーが、2代目の現行型に乗り替えて、売れ行きを増やしている。
販売店はワゴンRからの乗り替えも指摘した。ワゴンRはスズキの主力車種で、従来型は、おおむね5年ごとにフルモデルチェンジを行っていた。それが現行ワゴンRは、2017年に発売されて以来、フルモデルチェンジを実施していない。
そうなると5年ごとにワゴンRを乗り替えてきたユーザーが2018年に現行型を購入した場合、2023年に乗り替え時期を迎えた。この時に同じワゴンRを2台続けて乗りたくないと考えれば、2020年1月から納車を開始した設計の新しいハスラーが有力候補になるわけだ。
ワゴンRとハスラーでは、車両の機能が異なるように思えるが、実際には共通点も多い。ハスラーのプラットフォームは、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)の数値を含めてワゴンRと共通だ。
全高もワゴンRが1650mm、ハスラーは1680mmだ。ハスラーはSUV風の車種とあって、ワゴンRに比べると最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)が30mm高いから、全高にも30mmの差が生じた。つまり室内高はほぼ同じだ。
このほか前後席の床から座面までの高さ、前後席に座る乗員同士の間隔、シートアレンジの種類なども等しいため、ワゴンRのユーザーがハスラーに乗り替えても違和感が生じにくい。つまりSUVのスタイルで、ワゴンRの優れた実用性を備えることも、ハスラーの大切な魅力だ。
■ワゴンRやムーヴの新型が出ないというのも
販売店では、ワゴンRのライバル車になるムーヴの車名も挙げていた。2014年に登場して、2023年に販売を終えている。その一方で新型ムーヴは、予約受注を2023年5月に開始しながら、認証不正問題が発覚して発売が先送りになった。
この新型ムーヴは未だに発売されておらず、2024年の末から2025年の初頭に登場すると思われるが、正確な日程は分からない。したがって現行ムーヴのユーザーも、発売から10年以上を経て新車の乗り替えに困っており、ハスラーを購入した場合もある。
このようにワゴンRやムーヴの設計が古くなった今、全高が1700mmを超えるボディやスライドドアが不要なユーザーは、購入すべき車種を見つけにくい。その時に、設計の古さを感じさせないSUV風のハスラーが格好の選択肢になっている。
ちなみにハスラー、ワゴンR、ムーヴなどと同様、全高が1700mm以下でスライドドアを装着しない軽自動車には、日産デイズやホンダN-WGNもあるが、個性がいまひとつ弱い。
SUV風のダイハツタフトは、ハスラーにとって一番のライバル車だが、後席や荷室などのアレンジはシンプルだ。その代わりガラスルーフのスカイフィールトップや電動パーキングブレーキが全車に標準装着されるが、これらのニーズはユーザーによって異なる。2024年1~7月の1か月平均届け出台数も、タフトは1924台に留まってハスラーの24%だ。
以上のようにハスラーは、全高が1700mm以下でスライドドアを装着しない軽自動車のニーズを一手に引き受けて、売れ行きを増やした。その理由として、低価格グレードの工夫も挙げられる。ハスラーで最も安価なハイブリッドG 2WDの価格は151万8000円で、ホイールはアルミではなくスチールだ。
しかしスチールホイールにも2種類のペイントが用意され、ボディカラーがオレンジやオフブルーの2トーンでは、ホイールが明るいソフトベージュになる。ほかにブラックのスチールホイールもあり、安価なグレードの内外装も、丸型ヘッドランプとの相乗効果によってオシャレで洗練されている。
今は個性的な軽自動車といえば、スペーシアカスタムのような精悍なフロントマスクとエアロパーツを装着した車種が中心だが、ハスラーは異なる世界観によって共感を得た。ホンダフリードのエアーなども含めて、穏やかで明るい雰囲気のクルマが人気を高める時代になってきた。
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