ゆるキャラ的デザインで愛されるフレンチシックなMPV「ルノー・カングー」の限定車「カングー リミテッド ディーゼル ターボ」が2021年7月1日に発表された。限定車「リミテッド」に込められた意味は、これが現行型の生産終了を示すラスト・カングーであることだ。
すでに欧州では、新型カングーが発表。商用車仕様の販売も開始されている。現行型の生産についても、商用車仕様については、もう少し生産されるとのことだが、乗用車については完了。それもそのはずで、このリミテッドが、乗用車生産の最後を締めくくるカングーだったのである。
文・写真/大音安弘
■初代を超える人気の現行型カングー
まず、少しカングーの歴史を振り返ろう。日本では、ルノー・ジャポンが、その愛らしいデザインと手頃なサイズ、その見た目を大きく上回る機能性に注目。初代モデルを2002年より導入を開始した。
イメージカラーに黄色を選び、そのポップさをアピール。さらに価格も輸入車としては、手頃な175万円を実現した。これらの戦略は、熱心なフランス車ファンだけでなく、多くの人たちの関心を集め、一躍人気車に。日本のルノー販売の柱へと成長を遂げた。
第2世代となる現行型は、2009年9月に登場。初代は、Bセグメントのルーテシアとプラットフォームを共用していたが、新型はCセグメントのメガーヌのプラットフォームに。このため、サイズは5ナンバーから3ナンバーに拡大。
デザインも可愛い系からゆるキャラ系へと変化したことで、ファンから賛否を呼んだ。その結果、初代の中古車価格が上昇するなどの影響も……。
しかし、ひとクラス上のプラットフォームを使ったことで、乗り心地や広さなどの乗用車性能は向上。サイズアップは、ラゲッジ容量の拡大にも繋がった。そして、なにより、ゆるキャラ的なデザインも次第に受け入れられ、初代を超える人気を獲得するようになった。
■日本向けの独自施策が好評を呼んだ
日本車にはないフランス車の魅力と手頃な価格、そして適度な大きさであったことは、カングー人気の要因のひとつだが、ルノー・ジャポンの努力も大きいといえる。その秘策のひとつが、日本独自の企画の限定車たちだ。その代表格が、色にこだわった限定車「クルール」だ。
これはカングーの商用車が、顧客のオーダーに合わせた多彩な色を塗装する生産システムを活用して生まれたもので、大胆にもピンクやオレンジなどのド派手な色に塗ってしまったのだ。当初、フランスの工場では、「なぜ日本では、こんな色のオーダーをするんだ?」とまったく理解されなかったと聞く。
しかし、このド派手なカングーが、まさかの大ヒット。その評判は、海を越えた本国にも伝わり、今では、フランスの担当者や製造現場からも好意的に受け止められているという。その証拠に工場内には、日本独自の限定車「クルール」のポスターが掲示されているそうだ。
もうひとつの大きな取り組みが、ファンサービス。なんと2009年から公式ファンイベント「ルノーカングージャンボリー」を開始。2020年はオンライン開催となったが、毎年、オーナーが愛車で集える広大なスペースの会場を用意。
年々、規模は拡大し、山中湖畔で開催された2019年は、5092人が来場。集まった車両の総数は、2422台。そのうち、なんと1714台がカングー。単一車種が集うイベントでもこれだけの規模となると珍しい。
これは世界最大のカングー公式イベントとなるのだが、もっとも世界でカングー公式イベントなど開かれてもいないのだが……。それだけの日本でのカングー熱は凄いのだ。
その勢いを物語るのが、カタログモデルの1.2L直噴ターボに用意されるDCTの6速EDCだ。当初、MTオンリーだったが、ATニーズの高い日本からの要望に応えた開発されたものなのだ。
もっともカングー全体の販売としては、日本の数など小さなものである。しかし、カングーは商用車が基本のため、乗用車仕様となると本場の欧州でも限定的。そのため、カングーの乗用車市場としては、日本は巨大なのだ。しかも、単なる実用車ではなく、趣味性の高いクルマとして受け入れられている。
そのため、日本には、カングーの市場拡大のヒントがあると、本国担当者も熱い視線を注ぐ。さらにいえば、カングー人気がなければ、フレンチMPVとして人気を集めるシトロエン・ベルランゴやプジョー・リフターの導入もなかったかもしれない。
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