水素燃料電池トラックのプロトタイプを開発するなど先進的な研究を行なってきたアーヘン工科大学のPEMだが、次世代トラックの試作プロジェクト「SeLv」の完了を発表した。
既存の大型トラックを燃料電池車に改造するモジュラー式パワートレーンキットは完成しており、いつでも商用化可能な水準に達しているという。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/PEM RWTH Aachen University・Patrizia Cacciotti
アーヘン工科大学が燃料電池トラックプロジェクトを完了
ドイツのアーヘン工科大学(RWTHアーヘン)と言えばノーベル賞受賞者を数多く輩出している同国有数の名門大学だが、自動車分野でも先進的な研究を行なっている。
そのRWTHアーヘンのPEM(Eモビリティ・コンポーネント生産工学科)は2026年1月20日、長期に亘って続けられてきた次世代トラックの試作プロジェクト「SeLv」を成功裡に完了すると発表した。
ドイツ政府の資金提供を受け、プロジェクトでは次世代トラックのプロトタイプとしてこれまでに3台のトラックが製造されている。プロジェクト完了の発表とともに公開された3台目のプロトタイプは、同プロジェクトで公道走行を許可された2台目のトラックでもある。
プロジェクトは、市販の大型商用トラックに取り付けることで水素燃料電池による駆動を可能にする汎用のモジュラー式パワートレーンキットを開発することを目標としていた。
モジュラーキットは、既存のディーゼル車を燃料電池・電気駆動にコンバージョンすることを可能にするもので、ゼロから開発するより安価に燃料電池トラックを実現できるため、OEMメーカーのほか、改造車メーカーや建機部門などニッチなエリアでも需要が見込まれる。
パワートレーンキットが完成し、燃料電池とバッテリー駆動という組み合わせ(燃料電池レンジエクステンダーEVトラック)が商用化可能な成熟度に達したことで、プロジェクトは役目を終えるという。
PEMを率いるアヒム・カンプカー教授によると、今日の自動車業界は新しい技術に対して「完成品はあるのか?」とか「本当に安全なのか?」という疑問を投げかけることが多く、「多くのサプライヤにとって新しいアイデアを市場に投入することがますます難しくなっている」という。
プロトタイプとして型式認証を取得し公道走行が可能なSeLvは、未来のプラットフォームとしてバッテリー、水素、熱管理などの新しい技術とソフトウェア・アプリケーションを組み合わせ、実際に量産可能なプロダクトとして開発してきた。
ベース車は3台ともフォード・トラックスの大型トラクタ「Fマックス」で、キャブの後ろに水素タンクを搭載し、気体の圧縮水素を燃料としている。タンクの容量によって750kmから1000kmを走行可能だといい、出力は640hp(ピーク)/544hp(連続)だ。
また、水素残量と充電・充填インフラを考慮して、最適なルートを提案するナビゲーションシステムも開発したほか、バッテリーと燃料電池の出力を駆動プロファイルに基づいて最も効率的に配分するエネルギー管理機能も搭載している。
役割を終えた「SeLv」トラックとは?
プロジェクトの完了が発表されたSeLvは、バッテリーEVと水素燃料電池を組み合わせたレンジエクステンダートラックで、要件に合わせて構成可能なモジュラー式のパワートレーンが特徴。
この方式だと、燃料電池は常に効率的なレンジで稼働するため、出力変動への対応が不要となり、実用化に向けた課題となっている燃料電池システムのサービスライフが向上する。
搭載するバッテリーはエネルギーを積極的に回生するため大容量化した。SeLvでは回生ブレーキだけで制動力を確保するため、BEVトラック並みの368kWhのバッテリーを搭載している。多くのメーカーは燃料電池車に小容量のバッテリーを搭載し、回収しきれないエネルギーはブレーキレジスタにより熱として捨てている。また、燃料電池によるバッテリーの充電は距離や高度を考慮して効果的に管理している。
モジュラー式の設計は、車両の多くの部品の事前アッセンブリを可能にするもので、以下の4つのモジュールに分けられている。
ドライブユニット
中央に配置するモーター2基とトランスミッション。駆動用電力の配線はケーブル長をできるだけ短くした。サスペンションはフレーム中央に配置する。
高電圧バッテリーユニット
両側に3つずつ、ホイールベース間に水平配置。補器用の低電圧系のためにハウジングを追加。
燃料電池と補器ユニット
燃料電池2基と補器類。電動のエアコンプレッサやパワーステアリング用のポンプなどの補器は、エンジンコンパートメントに配置。
タンクブリッジ
水素タンク6基は冷却系とともにキャブの後ろに配置。
プロトタイプは大型トラクタだが、こうしたモジュール化の結果、駆動系、燃料電池、バッテリー容量、水素タンクの容量など、他のアプリケーションにもスケール可能だという。
SeLv2 および SeLv3のテクニカルデータ
出力(ピーク) : 470 kW (640 hp)
出力(連続) : 400 kW (544 hp)
トランスミッション : 3段オートマチック
バッテリー容量 : 368 kWh
充電容量 : 250 kW
バッテリーセル : リン酸鉄リチウム(LFP)
バッテリー出力 : 489 kW
燃料電池出力 : 170 kW
水素タンク容量 : 35 kg (350 bar) / 70 kg (700 bar)
航続距離 : 750 km (350 bar) / 1000 km (700 bar)







