今ではあまり使われない言葉かもしれないが、トラックのランニングコストのことを「運行三費」という。すなわち「燃料・油脂費」「修繕費」「タイヤ・チューブ費」の三費である。
運行三費は、人件費についで比率が大きく、トラック運送事業者の経営を左右する重要なファクターだ。中でも燃料・油脂費(最近では尿素水も含める)は、運行三費の中でも飛び抜けて比率が高く、まさにトラック輸送の生命線。
中東情勢の緊迫化により燃料の高騰が続いているが、さらに深刻なのは全国各地で軽油の不当な販売停止や数量制限が見られることだ。
石油危機を「千載一遇のチャンス」などと捉えて石油販売会社は売り惜しみに走っていないか……。つい先日も軽油価格カルテルが発覚した相手が相手だけに、このままでは全ト協の疑心暗鬼が怒りに変わる日も近いかもしれない。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
トラック・バス・タクシー3団体が経営危機突破に総決起
「燃料高騰経営危機突破総決起大会」が3月27日、自由民主党本部で行なわれた。全日本トラック協会(全ト協)の主導により、全国ハイヤー・タクシー連合会、日本バス協会の3団体の共催で、会場には国会議員やトラック運送事業関係者など約650人が参加した。
主催者代表として挨拶した寺岡洋一全ト協会長は「トラック運送業界においては、石油販売会社からの一方的な通達により、交渉の余地もなく、軽油の供給停止や供給制限を伝えられており、全国のトラック運送事業者から悲鳴が上がっている」と業界の窮状を訴えた。
また、総決起大会に参加した自由民主党の小林鷹之政務調査会長は、「現在、供給不安の影響で一部の石油販売事業者が軽油の販売停止や数量制限を行なっているとの声が届いている。軽油が確保できず車両が動かない状況は極めて深刻である。物流の9割を担うトラックは日本経済の血液である。また、バスやハイヤー・タクシーは地域のコミュニティを支える重要なインフラであり、これらに支障が生じれば国民生活も経済活動も成り立たない。
こうした危機感を共有し、自民党として全力で取り組む決意である。党としては、原油の代替ルートや調達先の確保を進め、不透明な国際情勢を踏まえた複数のリスクシナリオを想定しながら、先手を打って軽油を含むエネルギー供給の安定確保に努める」と話した。
その後、総会では「軽油を安定的に確保できる環境整備」「軽油・LPガスの緊急的激変緩和措置の継続」「燃料価格高騰分の転嫁と燃料サーチャージの周知徹底」「軽油価格カルテルに対する徹底的な事実解明」など4項目を満場一致で採択。この決議は大会終了後、金子恭之国土交通大臣、赤澤亮正経済産業大臣に要望として提出された。
インタンク軽油をめぐる攻防
ところで大口需要の運送事業者では、自社敷地内にインタンクと呼ばれる燃料供給施設を設けることが多い。今回の問題に大いに関係する、このインタンク軽油について考察してみよう。
インタンクのメリットは何といっても燃料を安く仕入れることができるからである。石油販売会社のローリで運ばれ運送事業者の自家用タンクに入れられた軽油の価格は、ケースバイケースだが、スタンド売りよりもリッター10~15円程度安いとみられる。
また、社内に給油施設があれば、スタンドに行く手間も時間も省けるし、給油に縛られない運行ルートが実施できるというメリットもある。
ただ、インタンクの場合は給油施設を自社で設置しなければならず、メンテナンスも必要だし、「危険物取扱者」の資格を持った人間も必要だ。そのため、インタンクを採用するのはある程度規模の大きい運送事業者で、全体の4割程度とみられる。
残りの6割程度はスタンドでの給油ということになるが、トラックは大口需要者になるので、その多くはフリートカード(法人給油カード)を使用しており、これもケースバイケースだが、通常より5~8円程度安い価格になっているとみられる。
ここに来て問題になっているのが、このインタンク軽油をめぐる売り惜しみである。納入する数量の制限や一方的な値上げの宣告、果てはインタンクへの納入停止などが全国各地で起きており、さらにはフリートカードの発行停止にまで至っているというから尋常ではない。
中東情勢の緊迫化で確かに原油価格高騰や供給不安はあるが、供給が途絶えたわけではないし、そこまで価格が高騰しているわけではない。これはまさしく石油販売会社が石油製品を市場に出さない行為で、低価格で軽油を購入していた大口需要者をターゲットにした売り惜しみである。
ところで公正取引委員会は昨年9月、石油製品販売会社8社に対して独占禁止法違反容疑で強制調査を実施した。軽油販売に関する価格カルテルの疑いだ。
その8社とはENEOS系のENEOSウイング(名古屋市)、東日本宇佐美(東京都)、太陽鉱油(同)、共栄石油(同)、エネクスフリート(大阪市)、キタセキ(宮城県)、吉田石油店(香川県)、新出光(福岡市)である。
この8社は、担当者の会合などを通じて価格を調整していた疑いがもたれている。価格調整は長期間にわたって行なわれていた可能性があり、極めて悪質だ。
軽油インタンクの全国平均価格をみると、この事件の影響がはっきりと見てとれる。事件発覚当初の昨年9月はリッター129.7円だったが、10月128.5円、11月124.8円、12月120.5円、今年1月118.4円と価格が下がっており、これは社会的にも極めて悪質と指弾された結果だろう。
石油販売会社にしてみれば、高い価格で売れる時期に、大口需要家である運送事業者に安い価格で軽油を供給するというのはビジネス上面白くないだろう。
この機会を千載一遇のチャンスと捉え、インタンク軽油を売り惜しみ、高いスタンド売りに誘導するというのは充分考えられることだ。あるいは、軽油価格カルテルで厳しく指弾された意趣返しの気持ちもあるのかもしれない。
燃料価格が1円上がるとトラック業界全体で約150億円負担が増えると言われている。トラックドライバーをはじめトラック業界は、社会・経済の機能を維持するために必要不可欠な業務に従事する人々で構成されているエッセンシャルワーカーである。
トラックにとって軽油はまさに生命線。トラックが止まれば、暮らしも経済もストップしてしまう。アメリカとイランの2週間の停戦合意が決まったものの、まだまだ予断は許さない。石油の供給不安を金儲けの機会にしてはならない。
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