新たに架装メーカーに挑む その素地は?
ところで、後発のメーカーがわずか3年で家畜運搬車をつくり上げたことに違和感を抱く人もいると思う。しかし、そこには「あ~、そういうことか」という納得の理由があったのだ。
前述したように柳沼ボデーは、長年にわたって業務用車両の修理を行なってきたわけだが、事故車の修理がメインだから、カーゴ系のトラックからバス、特装車、特種車に至るまで、さまざまな業務用車両が入庫してくる。
柳沼ボデーのキャッチフレーズは、「大型・特殊車両の専門医(プロ)」なので、来るものを拒まず、綿密に修理して送り出す。その技術の蓄積があるから、どんな車両の機能や構造も理解しているし、こういう構造だと壊れやすい、こういう部材なら長持ちするといった知見を有しているのだ。
ここに、全国大型自動車整備工場経営協議会が数年ごとに改訂している小型・中型・大型貨物自動車「事故車損害算定参考資料」という分厚い本がある。日野自動車編、三菱ふそう編、いすゞ自動車/UDトラックス編があり、各車種の詳細な部位の構造と修理方法などが記されており、大型整備には非常に役立つものだと思うが、この編集委員長を務めているのが柳沼社長なのだ。
つまり、トラックのシャシーから架装に至るまでよく熟知しており、決して素人が手掛けた「にわかづくり」の架装ではないのである。修理工場があるから機械も揃っているし、加工や物をつくることはお手のもの。おまけに壊れたクルマを長年見てきたから、どんなクルマが耐久性や信頼性に優れているかわかっているのだ。
「ボディ修理の素地があるので、そこがスタートでした。あの架装メーカーのボディはこういうつくりになっているから、事故でダメージを受けたとき、どういった損傷の波及をするかまでわかっているのです。だから、こういうつくりにしたほうがいいという見方ができるのです」。
架装メーカーとしてオンリーワンの生き方を目指す
柳沼社長は、仕事柄たくさんの架装メーカーとも付き合いがある。北関東といえば、以前はいわゆる「ボデー屋」と呼ばれるローカルな架装メーカーがたくさんあったが、大手のウイングボディに駆逐され消えてしまったメーカーも多い。ところが生き残ったメーカーは、今やつくりの平ボディが有卦に入り、活況を呈しているような状況だ。柳沼ボデーはなぜこの分野に進出しなかったのか?
「やはり、どうせやるならあまり他社が手掛けていないところで勝負をしたいと思いました。後発なので平ボディやウイングはないなと……。それじゃダンプはというと、自社で足回りからシリンダまでつくれない、どこからか購入しなければならない。私としてはすべてオリジナルの自社製品でやりたいので家畜運搬車が適当だと判断したわけです」。
柳沼ボデーがこれまでにつくった家畜運搬車の数は9台。1台の大型を除いて、すべて中型ベースの牛の運搬用の車両だという。大型は1段フロアの豚の運搬用だそうだ。
「現在の生産のペースは月に1台ほどですが、これを月産2台程度にはしたいですね。日本自動車車体工業会の資料によると、家畜運搬車の需要は年に50台程度とのことなので、ゆくゆくは半分くらいのシェアを獲得したいと思っています、また、牛や豚のみならず、馬を運搬する馬匹車もつくってみたいです。
さらにステンレス加工の技術があるので、それを活かせる分野があれば挑戦していきたいですね。私はこの2月でちょうど50歳になるのですが、今はもうちょっと若かったら、もっとやりたいことがあるのにな、なんて思っています(笑)」。
いえいえ、まだまだチャレンジ精神は旺盛。成熟した架装メーカーの殻を破るのは、こんな人かもしれないと思った楽しい取材だった。
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