お仕事ですから「楽しいこと」もあれば「大変なこと」もあります。
ナニワの海コンお姉さん・ゆでさんもそれはよくわかっているのですが、配達先で待ち受けているのはいつも最悪の事態。そんなことの繰り返しばかりのような気がします。
今回はそんな「人生苦もありゃ怒もある」エピソードを3つご紹介しましょう。
文/海コンドライバー・ゆでさん、写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
*2014年3月発行「フルロード」第12号より
20フィートコンテナを引いて山の中の恐怖の配達先へ
運転手という職業に就いて今年で29年目。ほぼ楽しく毎日の仕事をこなしておりますが、29年もあれば楽しいだけの思い出ばかりではなく、中には「苦」もありゃ「怒」もありまして、今振り返ると「そんなコトもあったなぁ」と、クスっと笑える材料になっていたりします。
数年前、今の会社に入って間もない頃のこと。山間部にある工場へ20フィートのコンテナを配達する仕事がありました。国道を逸れて市道に入り、山に向かって走ります。山に近づいてくると、道路の幅もドンドン狭くなってきます(汗)。
先に見える道は、対向に乗用車が来るとかわせない道幅になっています。不安になったので手前で停めて地図を確認。地図は合っている。だけどどう見てもトレーラが入って行くのは間違っている。
「この道に入って行くのか……」と、乙女の心は不安に押しつぶされそうですが、誰かが代わってくれるわけでもなく、心を落ち着けて走り出します。
クネクネとカーブの多い道を、脱輪するんじゃないかとヒヤヒヤしながら走って行くと、「○○工場右」と書かれた立て看板を発見!
「良かった~」とホッとして右に曲がってみれば、巨大なすべり台を思わせるような上り坂だった。しかも左側は素敵な見晴らしの崖。ガードレールという安全対策すらない砂利道は、天国につながるかもしれない上り坂に見えた。
砂利を踏みしめる音は、タイヤが滑ってるような恐ろしい音に聞こえます。そんな恐怖と闘いながら、配達を終えて無事に山を下りてきた時は、公園でリードを外された犬並みのテンションで、「ヤッター!!」と転げまわりたいくらいの解放感です。
苦労した分その先の安楽は絶大なのですが、不安を感じる場所にはあんまり行きたくないですね(涙)。
配達先が移転!? 怒られたって「私は無実だ!」
以前、狭い道を苦労してたどり着いた配達先で、門をくぐって入ったら、建物を解体中の現場だったことがありました。なんでも新設するにあたり一時的に荷降ろし場所が移転されていたのに、その移転先の住所を知らされてなかったんですね。
解体中の建物の、誰もいない静かで広い敷地内にいると異次元に迷いこんだようでした。まだ早朝ということもあり、連絡が取れる時間帯になるまでとりあえずその場で待機しました。
そんな場所で待っているのはとてつもなく孤独で、考えることといえば、「もしも自分が世界でたった一人の生き残りだったとしたら……」「きっとテレビは映らないんだろうな」「もうケンタッキーフライドチキンは食べられないんだろうな」とか、ナーバスなことばかりが浮かんで神経症になりそうでした。
孤独に耐えていると一台のクルマが入ってきました。人が乗っているのを見て「生きてる人がいた!」と、とても安堵したのを覚えています。
ちょっとウルウルしながら「ここは○○社ですよね?」と確認したら、「そうそう! でも今は一時的に引っ越してるよ」との返事で、やっと現実の世界に戻ったことを実感しました。ま、もともと異次元には入ってなかったんだけど……。
やっと電話がつながる時間になり、改めて住所を聞いて移転先に向かうことになったのですが、通勤時間帯でクルマが多かったりして、来た時以上の難関にだんだん腹が立ってきました。
さっきまでの孤独感はスッカリ消えて、「フライドチキンを食べることはできても、現実ってのは厳しいもんだな」と、ブツブツ文句を言いながら目的地に向かいました。
そんな経緯があったので、配達先に着く頃は着時間を回っていました。受付に行くと「なんで間違ったん?」と、さも私が間違ったような小言を言われる始末。
事情を話しても「うちはちゃんと移転先の住所を知らせてある」と激怒されるし、誰が間違ったのか私にはわからないし、立場上私が反論する必要もないし、とりあえず「元請けが間違ったんですかね」と言って立ち去りました。私は無実だよ(涙)。