「物流の2024年問題」など物流危機を背景に政府が検討を進めている「自動物流道路」は、デジタル化・自動化を前提に全く新しい物流専用の道路空間を構築するというものだ。
この度、国土交通省はこれまでの検討会での議論を踏まえ、「自動物流道路のあり方 中間とりまとめ」を公表した。10年後を目途に先行ルートでの実現を目指すというが、トラックドライバーへの影響はどうなるのだろうか?
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
画像/国土交通省・首相官邸
物流の危機を転機に? 道路に新たな機能
国土交通省は2024年7月25日、「自動物流道路のあり方 中間とりまとめ」を公表した。自動物流道路に関する検討会の第5回検討会までの議論を踏まえたものだ。
トラックドライバーに対する時間外労働時間の上限規制による「物流の2024年問題」をはじめ、日本の物流は危機的な状況にあるが、中間とりまとめは「『危機』を英語では『クライシス(crisis)』というが、これには『転機』という意味もある」とし、物流の革新が今まさに必要とされているとした。
従来、道路は人流と物流の両方に対応したインフラとして利用されてきた。自動物流道路は、物流専用インフラとして道路空間に新たな機能を持たせたものだ。
日本の総人口が減少局面に入っていることは周知のとおりで、特に生産年齢人口は2050年までに5500万人まで減少し、人手不足に陥っている物流業界の労働力不足はさらに深刻化する見通しとなっている。
国内の輸送力不足は2030年度に34%になると推計され、生活の停滞や日本の国際競争力の低下にもつながりかねない。CO2排出量削減とともに物流全体の最適化は急務だ。
自動物流道路の必要性
道路は公共物として公的な役割を果たしている。いっぽう、物流は基本的に民間事業者が担っており、競争原理により創意工夫がなされ、サービスの水準向上や多様化、低価格化が図られてきた。
こうした取り組みは、事業者単位や業界内での「最適」にとどまるため、物流全体を最適化していくという視点を持ったプレーヤーが不在となる。標準化やデータ共有は民間の競争原理だけでは実現が図れず、行政が主導的にインフラ構想を描き、それを基礎として民間事業者の競争がなされることが理想だ。
また、国内の貨物輸送の9割をトラックが担っているのが現状だが、鉄道・船舶・航空機などの物流モードにはそれぞれの強みがあり、輸送モードを特性に応じて組み合わせる「モーダルコンビネーション」という考え方も必要とされている。
加えて、新たな物流モードとして自動運転トラックの開発が進められており、高速道路等での活用が期待されるが、トラック輸送にのみ着目したもので、この技術単体での物流全体への貢献は限定的だ。
こうしたことから、個々の輸送の最適化にとどまらず、物流全体として効率化・生産性向上を図ることが重要で、物流専用の道路空間を整備し、デジタル技術を活用して無人化・自動化された輸送手段を構築する「自動物流道路」が必要になる、というのが政府の説明である。
先行ルートは10年後に運用開始
自動物流道路は、人手不足の解決以外にも、カーボンニュートラルの実現、モーダルシフトの推進、災害時の冗長性確保など、多岐にわたる目的を組み合わせたものとなっているため、「持続可能で、賢く、安全な、全く新しいカーボンニュートラル型の物流革新プラットフォーム」をコンセプトの柱とする。
トラックドライバーの働き方は、自動物流道路により全体最適を実現することで、「夜間の長距離の輸送から、真に人の手が必要な輸送にシフトし、労働環境の改善につながる」としている。
コンセプト・目的を踏まえ、海外事例を参考にしながらルートや規格、必要な機能や技術を設定してくのが実現に向けた方向性だ。
想定ルートは、需要や事業性・実現可能性の分析を進める必要があるとしつつ、長距離幹線輸送で物流量が最も多い東京・大阪間の設定を念頭に、第一期区間は大都市近郊の、特に渋滞が発生する区間から構築すべきとした。
(技術検証を目的とした実験線を構築し、これを先行ルートとすることも想定して候補地を設定するという)
輸送対象となる荷物の規格だが、これまでは1人のトラックドライバーが運ぶ量を増やすことで効率化を追求してきた。自動化により人的リソースの制約がなくなることで、小口・多頻度での輸送が可能になる。
これを踏まえるとパレット等に積載したサイズを輸送単位とすることが適当で、積み替えの自動化等を考えて統一した規格の採用が不可欠だ。
具体的にはパレット標準化推進分科会において標準的な規格として推奨されている11型パレット(平面サイズ:1100mm×1100mm)をベースに、高さを1800mmなどに設定し、ICタグ等の装着が可能な設計とするなど、標準規格の検討を不退転の決意で進めるべきとした。
当然ながら実現に当たっては技術開発が必要になるが、行政が方向性を示すことで開発リソースの集約が可能になるとし、アジャイル型のアプローチで技術・ノウハウの確立を図る。
なお、同日の関係閣僚会議での議論を踏まえて岸田総理は、「東京-大阪間で構想する自動物流道路における、2027年度までの実験実施と、2030年代半ばまでの第1期区間での運用開始に、官民連携で体系的に取り組んでまいります」と話しており、10年後を目途に先行ルートでの運行実現を目指しているようだ。
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