■涙の影に見え隠れする藤原拓海との友情
ラウンド1の決勝レースがスタートすると、718ケイマンを駆るベッケンバウアーが頭ひとつリードする。すかさず解説の小柏は「タイヤマネジメントのうまさでしょうね。冷えたタイヤに熱をいれる技術がうますぎます」と、ベッケンバウアーのテクニックは世界最高水準だと絶賛。
さらに「こんなことができるのは決勝進出15名の中でも彼一人でしょうね」と断言した。8歳からカートでテクニックを磨いてきた小柏には、タイヤの重要性がしっかり身についていて、他のドライバーのタイヤの使い方についても目がいくのだろう。
しかし、この発言が間違いだったと彼自身すぐに気づくことになる。それは、実況の田中が片桐夏向に関して独自取材してきた彼の素性を話したことに端を発する。夏向が名門RDRS(ロイヤル・ドニントンパーク・レーシング・スクール)の出身であること、そして当時の講師に藤原拓海が在籍していたことが明かされたのである。
これらを聞き、小柏は思わず感情剥き出しで「わたくしは…個人的には藤原(拓海)君とは、浅からぬ縁といいますか…因縁のようなものがあって、ドライバーとしても戦ったこともあり、親交がありました…」と吐露する。どうやら親交があったのは若い頃までで、大クラッシュをして経歴を棒に振ってしまったあとの拓海の行方を知らなかった様子である。
拓海が無事で英国で講師をしていたという話を聞き、「今はともかく…うれしいです…彼が今でも元気でいてくれるなら…それだけで」と涙を見せた(と描写されている)。
■駆動方式にこだわった男のFFへの評価!
それ以後、拓海の弟子である夏向を見る目が変わったかのように、そのドライビングテクニックについて解説し始める。
86がアルファロメオ4Cをかわしたシーンでは、「4つのタイヤを総動員して減速をするテクニックは驚嘆に値します!!」と声を上げ、ロータス エキシージをパスしたシーンでは、「われわれのように長くレースをやってきた者のセオリーからいくと、それはないだろうという所でスパッと行ってしまいます。(中略)何か特別な感覚を持っているとしか思えません!!」と、拓海とのバトルを回顧しているかのような評価を発している。
そして夏向が、ベッケンバウアーとは違う魅力を持つ新時代のドライバーだと認めると、「独特の感性があります…今はまだ荒けずりのところも散見しますが、その分、成長過程の伸びしろを感じさせてくれます」と発言。まるで夏向に拓海のイメージを重ね合わせたかのような、夏向に対する親心のようなものが感じられなくもない。
レース中、前園が駆るホンダ シビックタイプRに関してコメントしている。「はげしいアップダウンのある公道ステージにおいて、FFは構造的に不利なんですよ。みじかい距離ならば問題はないのですが、レースディスタンスになるとタイヤがもたないんです。上りでも下りでもフロントタイヤに負担が集中するのが前輪駆動ですから…」とかつて自分が公道ランナーだったこと、そして駆動方式にこだわりを持っていた彼らしい発言も聞くことができる。
この次のラウンド2「芦ノ湖GT」では、前園がシビックタイプRから、ミッドシップのNSXに乗り換えることになる。国産ミッドシップのMR2とMR-Sを愛機として、そこにひとかたならぬこだわりを持っていた小柏の、NSXに対するコメントも聞きたかったものである。はたして中年になった小柏は『頭文字D』に出ていた父親に似たのか、今度は容姿とともに再登場を望みたい!
■掲載巻と最新刊情報
【画像ギャラリー】小柏カイのかつての愛車、MR2とMR-Sを写真で見る!(5枚)画像ギャラリー