海外の自動車メーカーに勤務する外国人の開発者が来日すると、街中を走るミニバンが多いことに驚くという。
以前に比べると比率は下がったが、今でもミニバンは新車市場の15%前後を占める。フィットやノートなどのコンパクトカーに次いで人気の高いカテゴリーだ。
なかでも人気が高いのは、背の高い「箱型」のミニバン。2019年9月の販売台数ランキングを見ても、ヴォクシー(5位)やセレナ(7位)がトップ10入りしており、ヴォクシーは姉妹車のノアも合わせると1万6090台を販売。実は同1位のシエンタ(1万3558台)や3位のプリウス(1万1158台)も上回っている。
この数字は、流行りのSUVで販売No.1車のトヨタ RAV4(6601台)をも大きく上回る数字なのだ。
一時は、ホンダ オデッセイ、ストリームやトヨタのウィッシュなど背の低いタイプのモデルに主役を奪われた箱型ミニバンは、なぜ受け続けるのか?
文:渡辺陽一郎
写真:TOYOTA、HONDA、編集部
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ミニバンブーム期の主役は「箱型」ではなかった!
過去を振り返ると、ミニバンは1990年代中盤から本格的な普及を開始した。まずは初代エスティマ(発売は1990年)と初代バネットセレナ(1991年)が注目され、初代オデッセイ(1994年)から売れ行きが本格的に増え始めた。
さらに初代ステップワゴン(1996年)、初代タウンエースノア/ライトエースノア(1996年)、初代イプサム(1996年)が出そろい、初代キャラバンエルグランド(1997年)もヒットした。この時代に「ミニバンブーム」という言葉も生まれている。
ところが2000年代後半になると、ミニバンの売れ方が変化してきた。
全高1700mm以下のトヨタ ウィッシュ、イプサム、ガイア、日産 リバティ(後継車種はラフェスタ)、プレサージュ、マツダ プレマシー、三菱 グランディスなどは、売れ行きを一様に下げ始める。
イプサムやエクシーガのような天井の高さを抑えたワゴン風のミニバンは、背の高いセレナやノアに比べると、ミニバンに不慣れなユーザーには運転感覚が馴染みやすい。ボディが軽いために、走行安定性、動力性能、燃費も優れている。
この特徴を生かして、ワゴン風のミニバンは、セダンのユーザーがミニバンに乗り替える1990年代中盤から2000年頃までは人気を高めた。
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それが2000年代後半になると、ミニバンも普及開始から10年以上を経過しており、ブームに乗じて購入される珍しいカテゴリーではなくなった。ミニバンを初めて買うユーザーは減り、2台目の乗り替え需要が中心になる。
この段階になると、ミニバンを漠然と選ぶことはない。
「多人数で乗車する」とか、「自転車のような大きな荷物を積む」など、ミニバンだから可能になる特定の使用目的に応じて購入される。そして、多人数で乗車したり大きな荷物を積むには広い室内が必要だ。
ウィッシュやエクシーガのような天井の低いワゴン風のミニバンでは、3列目シートが窮屈で、多人数乗車による長距離移動には適さない。3列目を畳んでも、荷室高が不足して自転車なども運びにくい。
その結果、ミニバンの売れ筋は、全高が1700mmを超えて後席側のドアをスライド式にしたタイプに落ち着いた。
車内の後端まで床面を平らに仕上げたから、3列目に座っても腰が落ち込む窮屈な姿勢にならない。頭上にも充分な空間があるから、多人数で長距離を快適に移動できる。3列目を畳めば天井の高い荷室になるため、大きな荷物も積みやすい。
このようにセレナ、ヴォクシー/ノア/エスクァイア、アルファード&ヴェルファイアなどは、「大勢乗せてたくさん積む」ミニバンのニーズを満たしたことで、今でも好調に売れている。
逆に背の低いワゴン風のミニバンは、ジェイドやプリウスαを除くと生産を終えた。
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