■アルミホイールは軽いほどよいとは言い切れない?
●鋳造でも軽量で強度の高い最新技術を持つエンケイ
鍛造は強く、軽いホイールを作りやすいが高価だ。一方、鋳造は低コストで量産性が高いのがメリット。つまり鋳造アルミホイールで更なる軽量性を求めるのは、難しいように思えるが日本のモノづくりに対する姿勢は、そんな難題にも果敢に挑み、成果を得ている。
ホイール製造大手のエンケイは、純正ホイールや自社ブランドのアルミホイールを生産するだけでなく、前述のYOKOHAMA WHEELなど、さまざまなメーカーのホイールブランドの商品を受託生産している。それはエンケイが鋳造品の生産において高い品質を確保しているからだ。
鋳造でも製造方法を工夫することにより、強度と軽量化を追求しているのも、エンケイの特徴だ。成形のしやすさから考えればディスク面を型の上方に置き、インナーリムを下にするのが鋳造ホイールの製法としては一般的だ。
しかし強度を考え、ディスク面を型の底面に配置してインナーリムの先端から溶融したアルミ合金を注ぎ入れ、ディスク面から凝固させることで粒子の細かいアルミ合金としている。これは「ダービル鋳造法」と呼ばれる製造法だ。
さらに外側のディスク部分を鋳造で作り、インナーリムを絞り加工のように圧延して成形する技術「MAT PROCESS」製法は、鍛造ホイールに匹敵する強靭なインナーリムを作り出すことができる。
しかしながらホイールというパーツは「1グラムでも軽いほどよい」とは言い切れないパーツでもある。前述のように純正ホイールが重い傾向にあるのは、厳しい安全基準を確保しているためだが、それ以外に重いホイールにもメリットはある。
ホイールの重量や剛性は、乗り心地や高速走行時の安定性にも影響を及ぼすのだ。これはタイヤとの組み合せでも大きく変わってくる。
エコタイヤが標準装着されているなら、コンフォート志向のタイヤに履き替えるだけで静粛性や乗り心地が改善されて、高級感が高まった印象になったり、快適性が向上する。インチアップによる乗り心地の悪化を抑えるためにタイヤをワンランク高級なタイヤにするのも効果的な対策だ。
さらにインチアップによりホイールのジャイロ効果が強化されて、高速時の安定性が高まることも社外ホイールに交換するメリットだろう。
軽量なホイールにより、バネ下重量が削減されることによってダンパーの負担が減ることにより、フットワークが軽快になって乗り心地も良くなることもあるが、剛性があってそれなりの重量があるホイールもしなやかな乗り味を生み出すこともある。こればかりは好みの問題も大きいから、人それぞれと言うしかないところだ。
■新素材、製法を取り入れたホイールも登場しつつある
●ポルシェのカーボンファイバー製ホイール
また最近は高級志向もエスカレートする傾向にあって、以前では考えられないようなホイールも誕生している。ホイールの成形技術が向上したことで、今やアルミホイールはモノブロック構造が圧倒的に多くを占めているが、社外ホイールにはマルチピース構造のホイールも用意されている。
リムだけを筒状に作ってディスクと組み合せるマルチピースホイールは、リムを固定するディスク外周のピアスボルトが高級感を演出する。
バフ掛けで鏡面仕上げにされたリムと、マシン切削やアルマイト、凝った塗装仕上げのディスクを組み合せ、さらにピアスボルトによる複雑な構造が機械的な機能美を生み出すのだ。
マルチピースの最先端は、アルミ鍛造ディスクにリムをCFRPで成形して組み合せたもの。これはさらなる軽さだけでなく、高性能をイメージさせる新たなホイールのデザイントレンドとも言える。欧州の高級車には純正オプションでも用意されているが、やはり相当に高価だ。
社外品ではないが、ポルシェはホイール全体をCFRPで製作した超軽量ホイールをオプションで用意している。ちなみにカーボンファイバーの短繊維と高温で溶ける熱可塑性樹脂を使って成形性を高めた、CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)による軽量ホイールの製造技術もすでに確立されている。
これは生産性も高く、鋳造ホイールの1/2の重量と飛躍的な軽量化も達成できる。ただ長期的な耐久性はやはりアルミホイールやスチールホイールの方が高いため、自動車メーカーとしてはなかなか導入するのが難しいかもしれない。インホイールモーターのEVと組み合せるのが、実用化へのきっかけとなりそうだ。
クルマ好きにとって、ホイールは無限の可能性を秘めた小宇宙とも言えるモノ。サイズや価格だけでなく機能や性能、デザインなどオーナーそれぞれが望む要素を追求して、愛車を彩る満足のいくホイールを選び抜いてほしい。
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