水野和敏に訊くクルマのハンドリング性能

水野和敏に訊くクルマのハンドリング性能

 〝ハンドリング”がいいって、いったいどういうことなんだろう!?

そもそも「ハンドリング」とはなんなのか
クルマの操安性能は〝ここ〟で決まる!!

 「このクルマのハンドリングはいい!!」だとか、「こいつのハンドリングはダメだな……」などの言葉が、ベストカーをはじめ、自動車雑誌では当たり前のように飛び交っているけれど、そもそも『ハンドリング』とはなんなのだろう!?

 字義どおりに解釈すれば、操作性……、クルマだからこの場合は操縦性ということになろう。つまり、ドライバーの操作に対し、クルマがどれだけ思い通りに動いてくれるかが、ハンドリング性能ということになる。

 さて、クルマのハンドリング性能の善し悪しを決定づけるポイントはどこにあるのだろうか!?
プリメーラのパッケージング開発を手がけ、R35GT‐Rの開発を牽引した水野和敏氏に解説していただこう。

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 これはもう単純明快。ハンドリング性能を決定づけるのはパッケージングにほかならないのです。パッケージングの善し悪しでハンドリング性能の基本は決まってしまいます。バネやショックアブソーバーが云々いうのは、最後の味付けでしかなく、基本パッケージングのよくないクルマを、バネやショックアブソーバーでどうにかしようと思っても、これはどうにもなりはしないのです。

 パッケージングというのは、言い換えれば前後、左右の重量配分。クルマが走っている状態で、いかにきちんと4つのタイヤに均等に荷重をかけてやれるかがパッケージングということ。静的な重量配分ではなく、動的な……イナーシャが発生した状態での荷重のかかり方をコントロールしてやるということが最も大切なのです。

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 「基本的にパッケージングですべてが決まってくる。バネやショックアブソーバーのチューニングは、最後の味付けでしかないのだ」水野和敏

 タイヤは荷重がかかっていない状態ではまったくグリップ力を発揮することはできない。重量がゼロだったら、タイヤが勢いよく回転しても駆動力は伝えられない。設置荷重ゼロの状態というのは、ハンドルを切ってもクルマは曲がっていかないし、ブレーキをかけても止まることはできないのです。

 つまりクルマの操安性能というのは重量コントロールにほかなりません。タイヤにどれだけの重量を与えてやるかによって、タイヤにどれだけの仕事をしてくれるかが決まる。4つのタイヤにどういう配分で荷重をかけてやるかが、クルマの操安性能の決め手となるわけです。

 そのために開発者はパッケージング作りに腐心をする。エンジンをどこに置くか!? 人をどの位置に乗せるか!? そうした重量のかけ方を考えることがパッケージングデザインということ。まずはホイールベースをどのように決めるかがハンドリング性能の出発点となる。

 そうしてかけた重量の処理をするのがバネ、ショックなのです。基本パッケージングもきちんと作らずに、バネやショックのチューニングでどうにかしようとしても、本質的なハンドリング性能にはつながらない。バネやショックのチューニングなどは、操安性能の残り10〜15%程度の領域でしかないのです。

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 V35スカイラインでFMパッケージを開発。V6エンジンをフロントアクスルより内側に搭載して重量配分を理想的なものとした

 私は2001年のV35型スカイラインでFMパッケージを作った際に、今後4ドアセダンのホイールベースは2850㎜で統一されるといったのです。実際、現在のクラウンもマークXも2850㎜だし、最新のベンツCは2830㎜。

 200〜300㎰のエンジンパワーに対するタイヤサイズが決まれば、自ずとホイールベースも決まってくる。それが2850㎜。こうしてパッケージングが決まれば操安性能も乗り心地も決まってくるのです。

次ページは : メーカーによるハンドリングの個性  (text /片岡英明)

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