日本各地で35度を超える猛暑日が続いていますが、こうなるとクルマのオーバーヒートが心配です。人間に限らず、クルマもここまで暑くなると、さまざまな不具合が出やすくなってきます。
そこで、猛暑が続く真夏に起こりやすいオーバーヒートについて、その前兆やオーバーヒートが起きたらどうすればいいのか? 対処法や修理費用は? モータージャーナリストの鈴木伸一氏が解説する。
文/鈴木伸一
写真/ベストカーWEB Adobe Stock
オーバーヒートはなぜ起きるのか?
エンジンは燃料を燃焼したときに生じるエネルギーで「回転力」を生み出すが、それと同時に大量の「熱」も発生する。
冷えていると吹けが悪いように、この「熱」は調子よく回るための要因の1つとなるが、それも「適温」に保たれていればの話。必要以上の高温になると出力が低下し、回転も不安定になってくる。
「オーバーヒート」とは、エンジンが過熱して、その「適温」から外れてしまった状態を意味するエンジントラブルの1つ。「冷却水不足」や「冷却システムの故障」によって引き起こされるが、エンジンオイルの不足など「オイル潤滑系」のトラブルが引き金となることもある。
いずれにしろ、初期の段階で気付いて対処すれば大事に至らずに済む。しかし、気付くことなく走り続けてしまうと、最悪のケースではエンジンに致命的なダメージを与えることになるので注意が必要だ。
さて、燃焼室が設けられているシリンダーヘッドやピストンが上下するシリンダーブロックの周囲には冷却水が循環するウォータージャケットが設けられており、「ウォーターポンプ」で水を圧送することで熱を吸収し、その暖まった水を「ラジエター」に送ることで放熱させている。
細かなフィン(放熱板)と複数の細管から構成される「ラジエター」は暖まった冷却水を内部に流すことで周囲の空気に放熱する働きをする熱交換器の一種で、走行風がもっともよく当たる車両前端部のフレームに取り付けられている。
そして、走行風が得られない低速走行時や停車時でも冷やせるよう一定の冷却水温に達すると動作する「電動ファン」による送風も行われている。
冷却通路の途中には冷却水の水温に応じてウォータージャケットとラジエター間の循環路を開閉する「サーモスタット」も設けられており、これによって適温に保つとともに始動時の暖気性を向上させる働きをさせている。

また、エンジンと「ラジエター」は「ウォーターホース(耐熱性のゴムホース)」で繋がれている。エンジンの振動を吸収するためで、スロットルボディやEGRバルブなど、エンジン補機で冷却水が流されている箇所には同様に「ウォーターホース」で接続されている。
このように「ウォーターポンプ」で冷却水を各部に圧送する冷却方式を「強制循環式」と呼び、冷却経路を密封して加圧することで冷却効率を向上させる「密封加圧式」と呼ばれる冷却法が採られている。
水は大気中では100度で沸騰するが、気圧が高くなると100度では沸騰せず、逆に低ければ100度以下で沸騰するという現象が表われる。
つまり、加圧すると沸点が上昇して、沸騰しにくくなるからで、冷却が正常に行われているとき水温計の針は目盛り板の中央付近、80~95度くらいで落ち着いている。
ところが、圧力がかけられているため、針の穴くらいの小さな穴であっても想像よりはるかに多くの水が漏れ、時間の経過と共に拡大していく。このため、些細な水漏れであっても、放っておけば取り返しの付かない結果を招くことになる。
オーバーヒートの前兆とは?
初期の段階の症状としては、水温計の指針がH(Hi)近くまでじわじわ振れだし、パワーが徐々に低下してきてアクセルのつきが悪くなり、吹け上がりにくくなる。冷却水が漏れていれば、焦げたような甘い臭いが漂ってもくる。
この段階で「いつもと何かが違う」と気付くことができて、直ちに停車すれば、大事に至らずに済む。
中期の段階になると水温計がHを超え、アイドリングが不安定で「ブルッ、ブルッ」と振動し、アクセルを踏んでいないと止まったり、ボンネットの隙間から水蒸気が漏れ出したりする。
この段階になったら迷っている暇はない。ただちに安全な場所に停車してエンジンを冷ます必要がある。
末期に至ると水温計はH側に振り切れ、アクセルを踏むと「ガラガラ」といった異音を発し、焦げた臭いが漂いだす。
そして、水蒸気が吹き出して視界を遮るようにもなる。ここまで進行してしまったら、廃車の可能性も視野に入れる必要が出てくるのだ。
オーバーヒートした場合 何をすべきか?

では、異常に気付いて停車させてからどうするか。とりあえずボンネットを開け、数分間はそのままアイドリングさせておく。
急に止めるとエンジンオイルの閏滑が止まることで油膜切れを起こし、焼き付いてしまう可能性があるからだ。
そして、ヒーターを作動させることも忘れずに。ヒーターコアに冷却水を導くことで熱の発散を助けことができるからだで、水がつかえる状況ならラジエターに放水することで効果的に冷ますことができる。
水温が落ち着いてきたらエンジンを止め、「ウォーターホース」が破裂してダダ漏れになっていない限り水の補給で対処する。
が、補給はエンジン停めて5分以上たってからが原則で、念のためラジエターキャップは必ずウエスでスッポリ覆った状態で取り外す。
キャップが開いて冷却水が大気に触れると、その瞬間に沸騰。100度の熱湯が勢いよく吹き出してくる(数mの水柱が立つ)からだ。
とはいえ、水の補給で走れるようになったとしても、なぜそんな状態になったのか? という根本的な問題は解消されていないため、しばらく走ったら元の木阿弥。
原因を追求して修理する必要があるため、自分で直す自信がなければ素直にロードサービスを呼ぶことをおススメする。
「冷却水不足」の原因となる漏れが生じる可能性がある箇所は、「ウォーターホース」、「ラジエター」、「ウォーターポンプ」といった冷却系の主要構成パーツで、漏れた冷却水が乾燥すると白い跡となって残る。
このため、夏の時期だけでも定期的に冷却水量やエンジンルーム内の様子をチェックすることをおススメする。
また、漏れた冷却水は重力によってエンジン底部に集まり、路面に滴り落ちるため、下回りチェックしていれば発見できる。
が、クルマの下はあえて覗かないかぎり気付きにくいため、走行前にエンジン下回りを覗くことを習慣づけたい。
赤もしくは緑の色がついた水が漏れていたら要注意。早めにプロに相談して判断を仰ぎたい。
どこが壊れたか原因を究明する方法と修理費用は?
「冷却システムの故障」としては、冷却水路の切り替えをしている「サーモスタット」の不良によってラジエターへの冷却水の循環が滞ったり、「電動ファン」の故障(本体不良のほか、リレーが壊れているケースもある)でラジエターの冷却が追いつかなくなる。
「ラジエターキャップ」のシール劣化で気密性が悪くなって圧力がかからない、などといったケースが考えられる。が、原因がわかったとしても素人には手に余る修理内容。素直にプロに修理を依頼するしかない。
修理代は原因やトラブルの進行状況によってピンからキリ。「ウォーターホース」の交換だけでも2万~3万円。
「ラジエター」や「ウォーターポンプ」交換ともなると最低でも5万~6万円で、交換に手間がかかる車種だった場合はさらに数万円の出費を覚悟する必要がある。
初期の段階でこれだから、中期以降でトラブル箇所が拡大してしまうと目も当てられない状況となる。
そして、末期で万が一にもガスケットが吹き抜けたり、エンジンが焼き付いてしまったとしたら最低でも20万~30万円コース。くれぐれも注意したい。