沖縄県でユニークな取り組みが始まっている。日本人、外国人を問わず観光客が押し寄せる沖縄県。観光客がレンタカーに乗って起こす事故を何とか抑制することはできないだろうか? トヨタ・モビリティ基金が音頭を取り、沖縄県警や琉球大学、東京大学の協力を得て、実効性のある対策を加速させている。具体的な取り組みを見ていこう!
文:ベストカーWeb編集部/写真:沖縄ゆいまーるプロジェクト、ベストカーWeb
■頭を痛める沖縄県のレンタカー業界。事故発生率は日本人観光客で1.2%、外国人旅行客で5.7%
事故発生率とは事故件数を保有台数で割ったもの。トヨタレンタリース沖縄のまとめによれば、2023年の数字は日本人観光客で1.2%、外国人観光客で5.7%と日本人に比べ5倍近い数字になる。
2017年から2023年まで7年間の平均でも、日本人に比べて約3.5倍になる。一般的に事故が多いとされる東京都全体の事故発生率は0.63%だから、いかに多いかがわかる。単純にいえば2023年に沖縄県を訪れた外国人が借りたレンタカーのうち17~18台に1台が事故をしている計算だ。
大きな理由として考えられるのが観光客の増加だ。2023年度の沖縄県の観光客は853万2600人(前年度比25.9%増)、そのうち国内からの訪問客は726万9100人(前年度比10.6%増)、海外からの訪問客は126万3500人(前年度比531%増)とコロナ明けで爆発的な増加となった。
事故が起きれば、渋滞が起きる。那覇周辺の県民ひとりあたりの渋滞損失時間は1年間で61時間にもなっている。沖縄のレンタカーの事故の多さはコロナ以前から指摘されているところであり、県民からレンタカー業者に対して多くの苦情や不満が寄せられている状況となっていた。
沖縄トヨタ自動車の傘下にあるトヨタレンタリース沖縄は約4200台ものレンタカーを保有し、多い時で1日800台以上貸し出すという沖縄屈指のレンタカー事業者だ。
事故増加を受けてトヨタレンタリース沖縄は、ドライバーへの事故喚起ペーパーの配布やスタッフの事故低減バッジの着用、外国人ドライバーであることを周囲に知ってもらうためのレンタカーへのステッカー装着などを行ってきたが、目に見える成果になっては現れなかった。
この状況打開のため、トヨタ・モビリティ基金が矢崎総業とともにトヨタレンタリース沖縄に声をかけたのが、2020年2月のことだ。
■2019年の池袋暴走事故をきっかけに交通安全対策を強化
トヨタ・モビリティ基金はトヨタ自動車が設立した一般財団法人で移動に関わる国内外のさまざまな社会課題の解決を目指し、資金援助を行っている。その活動の柱の一つが交通安全の取り組みと渋滞対策で、特に交通安全については2019年4月に池袋で起きた痛ましい暴走事故をきっかけに対策を強化してきた経緯がある。
2021年12月矢崎総業が開発したデジタルタコグラフ機能を用いた車載アプリ「スマイルくん」をトヨタレンタリース沖縄の車両に搭載。直近5分前までの運転診断をかわいいイラストでドライバーや同乗者に知らせるとともに、事故多発地点が近づくと注意喚起の画面と音声で警告する仕組みとした。
また、速度超過や急加速、急ブレーキといった運転挙動を総合判定し、A、B、Cのランク付けを行い、Aの優良ドライバーには車両返却時に抽選でANAやJALの航空券や那覇空港のショップで使える商品券がもらえるサービスによって、安全運転の意識付けを行うことにした。
2022年にはトヨタ自動車のTコネクト搭載車両2700台のデータを加えることで、多くの危険個所の追加が可能となった。さらに、「スマイルくん」の多言語化も図られ、英語、韓国語、中国語といった言語でも表示されることになった。
この効果は予想以上に大きく、事故発生件数は日本人で約38%、外国人で約55%も減った。さらに急加速の頻度は日本人で約64%、外国人で約48%も減り、急ブレーキも日本人で約55%、外国人で約23減と顕著な効果となって表れたのだ。
また渋滞対策も行われた。琉球大学の神谷大介准教授、東京大学の福田大輔教授による車両の行動データ分析と多くの観光情報を持つJTBの協力を得て車載アプリから新たな観光情報を提供することで、レンタカーユーザーの行動変容を促し、分散周遊につなげるというものだ。
具体的には観光客の多くが向かう沖縄本島北部の沖縄美ら海水族館へは海沿いの道を行くのが一般的だが、内陸側にあるおいしいコーヒーショップなどおすすめスポットを「スマイルくん」がレコメンドすることで、う回路を選べるようにするものだ。
この観光レコメンドによって約18%のレンタカーが行動変容につながったというデータがあり、一定の成果があったことがわかる。
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