【ノートe-POWER、ハスラー…】一発逆転&起死回生をはたしたクルマたち

【ノートe-POWER、ハスラー…】一発逆転&起死回生をはたしたクルマたち

 群雄割拠の日本自動車市場。各メーカーが生き馬の目を抜くべく研鑽を積んでいるなか、同じカテゴリー内に君臨する大ヒットモデルに一泡吹かせ、主役にのしあがったモデルがある。

 それまで「小さな存在」だったものが、いきなり主役に躍り出る。そんな痛快な起死回生&一発逆転劇を見せてくれたクルマたちを紹介し、なったワケを説いてもらった。

文:片岡英明、渡辺陽一郎
ベストカー2017年10月26日号


■日産 ノートe-POWER 片岡英明

 グローバルで売れる乗用車だけに開発を絞った結果、日産のクルマは肥大化し、バリエーションも大幅に減った。ティーダはモデルチェンジを機に海外専用モデルとなって消滅。コンパクトカーの運命はマーチとノートに託された。

 2代目ノートが登場したのは2012年夏のことだ。パワーユニットをダウンサイジングしたことがウケ、発売直後はガソリン乗用車(除くハイブリッド車)トップの販売台数を8カ月も続けた。が、フィットがモデルチェンジすると販売はあえなくジリ貧に。

 そこで、一発逆転を狙って大勝負に出る。2016年のモデル追加で注目を集めたのは、従来とは一線を画す新しいパワートレーンの採用。

 これが「e-POWER」である。EVのリーフで培ってきたモーター走行の魅力をノートにまで広げる、という狙いだ。

 e-POWERはエンジンによって発電を行い、その電力を利用してモーターの力で走行する。航続距離の短いEVよりとっつきやすいし、既存のパワーユニットを用いて手軽にEVの楽しさを味わうことができるのが魅力。

 この斬新な発想が見事奏功し、e-POWERを搭載したノートは、我々ジャーナリストの予想を大きく超える大ヒットを飛ばす。

 発売直後の11月、30年ぶりに販売台数トップの座を日産にプレゼントした、感涙ものの孝行息子である。それ以降も好調な販売台数を記録し、下半期のトップも奪取。

 また、スポーティ度を高めたNISMOバージョンも、走りにこだわるユーザーに愛され、販売好調だ。

 ワンペダルという新しい運転感覚で、街中を中心とした走りでは燃費もいい。日本のユーザーが食いつく要素が多く、まさに一発逆転。

 そして、e-POWERは今後の自動車用パワートレーンの有力候補のひとつに躍り出た。その第2弾のセレナは、間もなくベールを脱ぐ。

■ホンダ N-BOX 渡辺陽一郎

 初代N-BOXは2011年末に発売され、2013年/15年/16年/17年1~6月は軽自動車の販売首位に輝いた。

 日本でクルマを好調に売る鉄則は、ボディサイズと価格が手頃で、なおかつ「実用的なサプライズ」を備えること。車内が驚くほど広い、安全装備が先進的、燃費が超絶的に優れるなど多くのユーザーが強い魅力を感じる機能が必要だ。

 先代N-BOXはまさにこの典型で、当時の大ヒットモデル王者、タントに挑んだ。新開発のエンジンは前後方向の寸法を詰めて上下方向に長く、有効室内長を拡大した。ホイールベースはミドシップの三菱iを除くと軽自動車で最長の2520mm。車内は抜群に広く、N-BOXを初めて見た人は必ず驚いた。

 スライドドアの開口幅も640mmで、燃料タンクは前席下に搭載するから荷室の床が低く、リアゲート開口部の荷室床面地上高は480mmに収まる。だから自転車を積む時も前輪を大きく持ち上げる必要がない。

 さらに、この特徴を外観でも表現。全高は1780mm高く、ドアパネルの上下幅を厚く見せることで、外観にミニバンのような強い存在感を持たせた。大きな魅力だ。

 ライバルのタントも車内が広く、2代目は中央のピラーがない構造にして開口幅を1490mmに広げた。乗降性は抜群だ。

 パレットはボディが軽く走りと燃費が優れていた。……と、当時の各車に特徴はあったが、「売れる鉄則満載」のN-BOXは表現もストレートで顧客の購買意欲をグッとつかむことに成功。

 また当時はダウンサイジングの傾向が顕著になり始めた時期で、ステップワゴンやフィットからN-BOXに乗り替えるユーザーも急増。ホンダでは上級車種の保有台数が多く、これも初代N-BOXが好調に売れた理由だ。

■スズキ ハスラー 片岡英明

 2013年東京モーターショーに参考出品され、反響が大きかったのがハスラーだ。SUVテイストを押し出したクロスオーバーカーで、小さくても強い存在感を放つ。

 会場内でセンセーションを巻き起こし、2カ月後には発売。他社は「してやられた」感があったに違いない。

 ハスラーは、ワゴンRとは違う魅力を持つ軽として企画・開発された。その頃、スーパーハイトワゴンは相変わらず人気だったが、これに続くヒット作を模索し、生み出されたのである。キャラは、ワゴンとSUVのクロスオーバーだ。キュートなSUVを目指し、デザインされた。

 発売されるや瞬く間にユーザーの心をつかみ、クリーンヒットを放つ。軽自動車界はスーパーハイト全盛の時代が長らく続き、これにピリオドを打った作品がハスラーである。スーパーハイトにはない魅力で勝負を仕掛け、勝ち名乗りを上げた。同門のワゴンRもかなりビビったはずだ。

 ヒット要素のひとつは、どれにも似ていないキュートなスタイル。老若男女、幅広い年齢層を魅了する秀逸なデザインだ。スーパーハイトワゴンは女性が主役だが、ハスラーはファッションにこだわる若い男子やクルマにうるさいオヂサンにも似合う。

 2トーンのボディカラーを設定したのもツボにはまった。さらに、外観や内装をドレスアップする楽しみもある。それらの魅力に加え、走りの実力と安全性能の高さは折り紙付き。多くの人が飛びつき、今や「ハスラーのようなクルマ」という新ジャンルを形成したといっていいほどだ。

■スズキ ソリオ 渡辺陽一郎

 ソリオの初代と2代目はワゴンRの拡幅版で売れゆきは伸び悩んだが、スタイルが一新された3代目(先代)はヒット作になった。

 全長は3710mmと短く、コンパクトカー最小の全幅1620mmだが、全高は1765mmもある。軽自動車並みの取りまわし性と、このカテゴリーでは最大級の居住性が自慢。

 収納設備も豊富で、後席ドアがスライド式という点が新しい。軽の開発で得たノウハウを有効活用して、コンパクトカーに必要な実用性を徹底的に高めたカタチだ。

 狭い道でも運転がしやすく、4名乗車時の快適性や積載性に優れたクルマが欲しいユーザーには、もってこいだ。

 ただし全幅が狭くて背の高いスズキ車だから、外観からは軽の拡幅版に思われてしまう。それがソリオの欠点といえるが、試乗すれば多くのユーザーが納得。

 というのも3代目ではプラットフォームが新開発され、2代目で感じた走行安定性と乗り心地の不満を払拭していたから。

 紹介の数字のとおりロケットスタートではなかったが、その後もずっと安定した販売台数。東日本大震災が2011年に発生したから売れゆきの判断は難しいが、2013年/14年ともに安定的に売れていた。

 高い人気の背景には、軽自動車からコンパクトカーに乗り替える需要の多さもある。ソリオはこのカテゴリーでは取りまわし性が抜群に優れ登坂性能も充分に満足できる。

 軽自動車のユーザーが生活環境の変化に応じてワンランク上のコンパクトを選ぶ際も、ソリオは最良の選択。当時の絶対王者、フィットを少しは慌てさせたに違いない。

■ホンダ ヴェゼル 渡辺陽一郎

 ヴェゼルは2014年から2016年にかけて3年連続でSUVの最多販売車種。ちなみに今年1~6月は「強力なライバル」C-HRに抜かれたが、2位につける大健闘ぶり。

 好調に売れた理由の筆頭は、SUVながらスポーティなスタイルで、それでいて全長が4295mmに収まり運転がしやすいこと。全幅は3ナンバーサイズだが視界と取りまわし性が優れている。

 しかも燃料タンクを前席の下に搭載しているから荷室の床が低く、後席を畳めばボックス状の広い空間ができあがる。

 全長が短いわりに後席の足元空間が広く、頭上にも余裕があるからファミリーカーとしても快適。こんな点も他車になく、登場時、ユーザーの目を引いた部分だ。

 そして1.5Lエンジンを搭載した「Xホンダセンシングの4WDグレード」は、価格が約234万円と割安。ミドルサイズのエクストレイルやフォレスターに比べて40万円ほど安く、居住性や積載性は同水準になる。

 カッコよさと快適な居住性、優れた積載性を兼ね備え、価格は割安に抑えたヴェゼル……、売れない理由が見つからない。また、ハイブリッドを設定したり、発売時点から緊急自動ブレーキなどを割安に用意したことも好調の要因だろう。

 そしてユーザーがSUVに求める機能を偏りなく備えるので、CR-Vのような上級SUVからの乗り替えにも対応できる。逆にフィットのような高効率なコンパクトカーから上級移行するニーズにも合う。「成功SUV」の典型といっていいだろう。

■トヨタ カムリ 片岡英明

 最後は発売間もない新型カムリ。こちらはまだ発売されたばかりで、これまで紹介してきた「一発逆転&起死回生モデル」と言えるかどうかはわからない。

 期待値を込めて名前を挙げてみたが、はたして日本での存在感は薄めのカムリがセダンカテゴリーのなかで「起死回生」となるのか? 

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