■「商文化」を守ってゆくために
筆者は決定的な瞬間を郊外のマツダ店で出くわしたことがある。
取材で販売店を訪れ、営業マンから話を聞いていた時のことだ。
背後のテーブルで営業マンに盛んに怒鳴りつけているお客がいたのだ。年のころは40歳前後か。クルマそのものについての話ではなく、
「お前の口のきき方はなんだ。俺はお客だぞ、なんでもっとちゃんと応対しないのだ!」
と営業マンに殴りかからんばかりの勢いで叫んでいる。
と、その直後に今度は筆者と対峙している営業マンに向かって、
「貴様、いま俺を睨んだな。なんだ、その態度は!」
と喧嘩を売ってきた。
当の営業マンは、
「睨んでいません、お客さんと話していただけです」
と返した。そうこうしているうちに店長が駆けつけ、腰を低くして謝ったのでその場はなんとか収まり、当人は点検を指示して引き上げていった。
あとで聞いたら当人は札つきのクレーマーで困っているというのである。数年間買い替えるでもなく買わないでもなく販売店に通いつめ、一通り話をして帰っていく。何か気に入らないことがあると周囲に別のお客さんがいてもかまわず怒鳴り散らしていくとのこと。
☆ ☆ ☆
自動車は比較的大きな買い物だ。その売買の場で感情が大きく揺れ動くこともあるだろう。また、そういう買い物だからこそ、メーカー側に不備があれば苛立ちも大きい。思わず声を荒げてしまうこともあるだろう。さらにいうと、日本全国津々浦々に販売店を構え、毎日「ぜひいらしてください」とお店を開いていれば、いろんな人が訪れることもある。
そうした事情が折り重なって、自動車ディーラーに苦労がかかる状況が生まれる(もちろん、おかしなディーラーマンがいるケースだってあるだろう)。
ただそれでも自動車ディーラーの細やかな対応や丁寧なサービスは、日本のクルマ界全体にとってかけがえのない財産だ。それは売り手側だけでなく、買い手側の協力体制あってのことだ。
腹が立つこともあるだろうが、なんとかこの「財産」を維持できるよう、この商文化を育んでもらいたい
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