■「もう(下請法違反の値下げ要求は)ない」と言った意味
自動車業界は厳しい競争に晒されている。価格競争力を確保するためには部品購買費を下げる努力は不可欠だし、そのいっぽうで自動車メーカーは優れたサプライヤー抜きにクルマを作ることはできない。
この「競争力確保」と「下請け保護」を高い次元で両立させることが、自動車メーカー購買部門の重要な役割となる。
こうしたなか、もう10年以上前の話だが、自動車メーカーは下請け企業に対して「毎年4%ずつ原価低減してほしい」というような要求をしている……という話が、なかば常識として存在した(自動車用工業製品は量産効果が高く、また系列をまとめる自動車メーカーの発言力が強かったため、こうした交渉や契約が一部可能だった)。しかしこうした一方的で自動的な値下げ契約は、近年の原材料高騰や人件費の向上により無くなった……と言われていたが……。
「サプライヤーさんとの価格交渉は、一社一社、部品ごとに話し合っており、現在、1年ごとに自動的に決まった割合で値下げする、というような契約はありません」
記者からの質問にそう回答したのは日産自動車の長谷川博基専務執行役員(購買担当)。
日産は公取委からの違反勧告以降、
◎インフレ等によるコスト上昇に対する取引先の経済的負担を軽減する対応を迅速化
◎割戻金制度を撤廃し、メーカーが取引先の現場で共にコスト競争力を高める
◎開発費の別建て払いなど、台数の変動に伴う取引先の経済的負担を軽減する措置を拡充
などの取り組みを進めているという。これに加えて、取引先向けのホットラインを設けて、取引先からの相談・通報を受け付ける仕組みを(社外に)設置し、また社長直轄の「パートナーシップ改革推進室」を設置し(職員20名程度)、取引先からの困りごとや要望を聞いて協議や対応、改善につなげる部署とすることを発表した。
「今回の調査では(「下請法違反となる減額要請」を引き続き行っていたという話は)出てこなかったが、しかし一緒にクルマ作りをしてゆく仲間であるサプライヤーさんから不満の声があったという事実は重く受け止めたい。日産のクルマ作りはサプライヤーさんとともにあります。話し合いと改善を続けて、一社でも多く、日産と一緒に仕事をしたいと思ってもらいたい」
と語ったのは、日産の内田社長。購買部門出身だ。今回の下請法違反勧告を受けて、月次報酬の30%を自主返納する(3か月間)ことも明かされた。
「もう下請法違反はない」という内容で、内部調査ではそのとおりなのだろうが、懸念もある。自動車産業は裾野が広く、仮に一次下請けで「そういう値引き交渉」は無くなったとしても、二次請け、三次請け、四次請けで続いている可能性はある。
たとえば三次請け企業が四次請け企業に向けて「日産さんからの値下げ要求がキツくて、部品の価格を下げてくれないと取引を続けられない」と言った場合、その責任は源流である日産にあるのか。仮にあったとしてどのような責任の取り方が適当か。改善できる有効な手段はあるのか。
今回の会見で、内田社長みずから「もう(下請法違反の取引は)ない」と発表した意義は大きい。今後、日産の下請け企業で不当な値下げ圧力を受けた会社は、すぐ公取委やメディアへ通報するだろうからだ。
日本の自動車産業全体のことを考えると、各メーカーの「商品競争力強化」と「サプライヤー保護」の両立は悩ましく、難しく、健全化を訴え続ける必要がある問題だ。正直いって、下請け企業に対して日産自動車よりももっとずっと厳しい値下げ要求をしている自動車メーカーの話はよく聞く。悪いのは値下げ要求ではなく、不当で根拠の薄い値下げ要求であり、この見極めが難しい。
日産自動車によると、本件はこれで終了というわけではなく、さらなる調査と改善と話し合いが続くという。「日産はこんなこと言っているけど、うちはいまだに日産からガンガン値下げを要求されているぞ」という話が出ないことを祈りつつ、もしありましたら公取委や当編集部へお知らせください。
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