日本ではまだまだ盛り上がりに欠けつつも、先の東京モーターショーでのホンダe、MX-30などといったモデルたちの発表を受け、すこしずつ波が来ている感のあるEV(電気自動車)。
しかし、自動車文化というものを考えたとき、何よりこの国の自動車産業の行く末というものを考えたとき、EV化の状況を「盛り上がり」だとか「波」だとかいう言葉で扱っていてよいものなのかと自動車メディアとしては考え込まずにいられない。
昨年秋の「パリモーターショー2018」でワールドプレミアされた、アウディ初の市販EV「e-tron」。e-tronには、EV化に対するアウディの「本気」を感じる。そのスタイルから何から、「EVだから」という“甘え”がないように思うのだ。
自動車評論家の飯田裕子氏が本国ドイツでの試乗の様子をリポートしてくれた。
※なお、今回の飯田氏の試乗後の12月2日、アウディはe-tronを改良、航続距離が436km(+25km)にまで伸びたことを発表している。
●アウディe-tron主要スペック……全長×全幅×全高:4901×1935×1616mm、ホイールベース:2928mm、車両重量:2490kg、システム最高出力:265kW(ブーストモード300kW)、システム最大トルク:561Nm(ブーストモード664Nm)、バッテリー容量:95kWh、駆動方式:4WD、0-100km/h:6.6秒(ブーストモード5.7秒)
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※本稿は2019年11月のものです
文:飯田裕子/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年12月26日号
■高電圧の大容量バッテリーを搭載した最新BEV*
*BEV…バッテリー式電動輸送機器(Battery Electric Vehicle)の略。
多くのカーメーカーがCO2削減のために自動車の電動化に向かっていることは、ベストカーの読者の皆さんならなんとなく感じているのではないか。
例えば海の向こうドイツ3メーカーもさまざまなプランを出している。今回、ミュンヘンで参加してきたアウディの電動化に関するワークショップでもその戦略のひとつとして2025年までには30以上の電動化モデルを発売する予定であると述べ、これは全販売台数の40%に相当するという。
ただし、国によってインフラ整備の進捗は異なるため、日本でこの計画どおりのラインナップが揃うとはちょっと想像しがたい。
しかし、プリウスに代表されるハイブリッドや三菱アウトランダーなどのPHEV、日産リーフのようなBEVなど電動化が進むモデルたちについては環境に対する意識の向上や経済面でのベネフィットなどを所有し実感している人も確実に増えており、今後はピュアEVだって充電環境や自分の利用環境に見合った航続距離が選べるほどモデルバリエーションが増えれば選択肢に入ってくるのではないか。
今の電動化への移行は人の移動手段が馬車からエンジン付きの自転車、バイク、少しずつ自動車へと変わり始めた時代のような感じなのかもしれない?
■すべてに洗練された印象
今回はアウディの初の量産BEVモデルのe-tronをドイツで試乗する機会を得た。今年はジャガーのIペイスやメルセデスのEQCなども日本国内で試乗し、さまざまなブランドのSUVタイプのBEVに触れると、ドライブフィールも明らかに各ブランドで異なる。
アウディのe-tronは静寂に包まれた視界のかぎりに拡がる氷の上を走るような、クリアで洗練された動的な性能が印象的だ。
自分でも“氷の上を走るよう”なんて表現が頭に浮かぶのが意外だったけれど、あらゆるフリクションが極めて抑えられ、乗り心地が硬いわけでもなく、タイヤのゴムが路面を捉える感覚は他のクルマと変わらないのに、静粛性とフラットさとステアリングのスッキリとしたドライブフィールから、クリアの氷の上を走る乗り物のようなイメージを抱かせたようだ。
ボディサイズは全長4901mm×全幅1935mm×全高1616mm。Q7よりもやや小ぶりで、全高が10cm低いこともあってフルサイズSUV系ながら低重心でスポーティな雰囲気がある。
一方車両重量は2490kgと、大容量のバッテリーを搭載しているため重量級。しかしそのおかげでシステムの最高出力約408ps、トルクは約68kgm。WLTPでの航続距離は400km以上を実現しているという。駆動方式は前後にそれぞれ電気モーターを搭載するクワトロ(4WD)だ。
これもアウディにとっては新しいクワトロ世代の始まりとして電動4WDの可変制御はかなりの自信作らしい。
ちなみにほとんどの場合、駆動を司るのはリアで、必要に応じてフロントにトルクを伝える。
その走りは滑らかのひと言。エンジンの振動やアウディといえばSトロニック(トランスミッション)のトン、トン、トンと変わるリズミカルなシフト制御も特徴だが、e-tronはそれらを発しない。
発進時から2490kgの車重をまったく感じさせず、他ブランドのBEVよりも静粛性が高い印象もあることから“氷の上”を滑るではなく走るような感覚を抱けたのだろう。
一方でアクセルペダルを強く踏み込めば、これまで重量級の個体を動かしているとは思えないほどの加速力を発揮する。
最高速度は200km/hに制限されているが、アウトバーンではあっという間に到達してしまう。
バッテリーをフロアに敷くe-tronは低重心であることもさることながら、それを活かしたボディやサスペンションセッティング、パーツの取り付け剛性も高いのだろう。
ステアリングの少し重めの手応えをタイヤのグリップでしっかりと感じつつ、コーナリングは一塊のボディによってまさに思いどおり、しかもスッキリという感覚とともに走ることができた。
e-tronによるアウディ初のBEVドライブ体験がまさかこんなに完成度が高いとは想像を超えていた。日本には来年中には導入予定だという。日本の道で再会するのが今から待ち遠しい。
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