ダイハツ アプローズはスーパーリッドという武器を有したダイハツ渾身のコンパクトセダン こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】

ダイハツ アプローズはスーパーリッドという武器を有したダイハツ渾身のコンパクトセダン こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】

 これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、バブル期に革命的存在となったコンパクトセダン、ダイハツ アプローズを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/ダイハツ

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100%自社開発の意欲的コンパクトセダン

 1989年7月、まさにバブル景気の真っ只中。自動車業界も大いに盛り上がっていた時期に、ダイハツが並々ならぬ意欲をもって、“喝采”を意味するこの車名を冠したハイクオリティ・ツーリングセダンを市場に送り出した。

 それが今回クローズアップする「アプローズ」だ。ダイハツといえば、現在でも軽自動車や商用車を販売の主力とするメーカーだが、当時、乗用セダンといえばトヨタと提携した「シャルマン」を細々と展開していた。

 そんななか登場したアプローズは、100%自社開発による完全オリジナルの登録車として話題となった。しかも「質感と独自性あふれる“タイムレスデザイン”と余裕の走りを実現」することを目指すという崇高な目標を掲げていた。

シャルマンの後継車となるダイハツのフラッグシップモデル。ダイハツの独自開発で誕生した
シャルマンの後継車となるダイハツのフラッグシップモデル。ダイハツの独自開発で誕生した

 直線と曲線をバランスよく組み合わせた端正なボディラインで構成されるフォルムは、ごく普通の4ドアセダンという印象を抱かせる。過度に主張しないフロントマスクの造形やクロームメッキを排した簡素な意匠も相まって、デザイン面で際立った特徴を持たない、じつに地味で目立つ存在ではなかった。

 しかし、アプローズには一見して分からない仕掛けが隠されていた。それが、リアに「第5のドア=ハッチゲート」を備えていたことだ。

質実剛健を貫き合理性を追求

 実質5ドアだが、ジャンルはセダンに分類され、競合となるのはトヨタカローラや日産サニーという、コンパクトセダンの2強である。これらと真っ向から競合せず、合理性と独自性を武器に勝負するというのがダイハツの狙いであることは、アプローズの設計思想から読み取れる。

 外観からはまるで分からないほど巧みにボディと一体化したリアゲート(ハッチ)を備えながら、あえて機能を前面に押し出すのではなく、セダンらしい上品さを保ちながらも、大きな荷物を積載できる実用性を備えていたことが、アプローズの最たる魅力だった。

 リアウインドウごと大きく跳ね上がる構造の「スーパーリッド」は、パッと見ただけではそこに大きなゲートがあることに気づかない。開口部はバンパー下部にまで達しており、積載性は一般的なトランクのセダンや3ドアハッチバックはもちろん、ワゴンを凌駕するほどの能力を有していた。

 リアシートは分割可倒式で、後席の背もたれを倒せば驚くほど広大なラゲッジスペースになる。豪華さや高性能をアピールする当時の国産セダンのなかにあって、合理主義を優先したようなこの構造は、時代を先取りしただけでなく新たなカテゴリーのクルマとして認知された。

コンサバティブな4ドアセダンに見えるが、リアウインドウもろとも大きく開くハッチバック車となる
コンサバティブな4ドアセダンに見えるが、リアウインドウもろとも大きく開くハッチバック車となる

 インテリアは、当時のダイハツ車らしくシンプルで落ち着いたデザインの仕上げで、機能美と上質さが漂う車内は、5名の大人が快適に過ごせる空間をしっかりと確保している。既存のコンパクトセダンと比較しても、居住性は十分に満足できるものだった。

次ページは : ダイハツが描く大衆車像を体現した偉大なモデル

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