2020年1月20日からスズキ「新型ハスラー」の販売が開始された。初代に比べて、よりスクエア感を増したデザインを採用し、現時点で3カ月以上の納車待ちとなっている。初代の納車まで1年待ちに比べれば短いが、下馬評どおり好調な滑り出しだ。
そんな新型ハスラーの対抗すべくダイハツが送り出すのが、東京オートサロン2020に出展された「新型タフト」だ。まだプロトタイプという位置づけだったが、ほぼ市販車といえるレベルまで作りこまれていた。
そんな対抗心むき出しのモデルとあって、気になるのが新型ハスラーに対して、タフトは下克上を果たすだけの力があるのか? ということ。今回はプロトタイプから見える新型タフトの商品力を、渡辺陽一郎氏が分析していく。
また販売合戦が過熱することで、両メーカーで再び起きかねない問題についても触れておきたいと思う。
文/渡辺陽一郎
写真/編集部
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■まずは触れておきたい初代ハスラー登場で起きた販売合戦
2019年に国内で売られた新車のうち、37%が軽自動車であった。販売ランキングの1位もN-BOX、2位はタント、3位はスペーシアで、全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた軽自動車が上位を独占した。
そのいっぽうで2020年1月には、SUVスタイルの軽自動車として新型ハスラーも発売された(発表は2019年12月)。つまりスズキは、全高が1700mmを超えるスペーシアで売れ行きを伸ばし、SUV風の新型ハスラーで個性を求める需要にも応える。ワゴンRに以前の勢いはないが、それでもアルトを含めて販売は堅調だ。
こうなると不安を隠せないのがダイハツだ。6年前の、あの恐ろしい悪夢が蘇る……。
かつての軽自動車市場では、1973年以来、スズキが販売1位であった。この流れが暦年では2007年に変わり、ダイハツが1位に入れ替わった。ダイハツは今でも軽自動車の1位を守るが、唯一2014年だけは、スズキに1位を譲った。その背景にあったのが、2014年1月に発売された先代(初代)ハスラーの大ヒットだ。2014年には1カ月平均で8686台を売り、スズキの販売台数を底上げした。
そこでダイハツも負けられず販売攻勢を仕掛ける。両社譲らず、2014年の累計届け出台数は、11月の時点でダイハツが63万1984台、スズキは63万7253台であった。まさに接戦だ。両社とも2014年には軽自動車販売1位を賭けて、販売会社に在庫車を届け出させて台数を水増ししていたが、それでも僅差にとどまる。もはや引っ込みが付かない。
そして2014年12月の悪夢が訪れた。可能な限り在庫車を届け出して、スズキの対前年比は152%、ダイハツも140%に急増した。対前年比の台数から判断すると、わずか1カ月間に、3~4万台の在庫車が販売会社によって届け出されている。これがすべて届け出済み未使用中古車として、中古車市場に放出された(今は新古車の表現は禁止されている)。
そして2014年の累計販売台数は、スズキが70万9083台、ダイハツは70万6288台になり、僅か2795台の差でスズキが1位になった。 自社届け出の誤差であった。
販売台数を粉飾する目的で、新車をわざわざ価値の下がる中古車に卸すのは、まったく意味のない行為だ。中古車市場には走行距離が数kmの中古車が溢れ、中古車価格全体が値崩れを起こす。そうなるとユーザーが愛車を下取りに出す時の売却額も下がり、愛車の資産価値をいたずらに下げてしまう。
先代ハスラーは優れた軽自動車だったが、その高人気がスズキとダイハツを不毛な販売合戦に駆り立て、結果的に軽自動車のリセールバリューを悪化させたのだ。
この影響で2015年には売れ行きが落ち込み、2014年に比べて17%の減少になった。2015年4月には軽自動車税も値上げされたが、2015年のマイナスは、増税前の1月から既に始まっていた。販売合戦の痛手は大きく、2015年に続いて2016年も、小型/普通車は3%のプラスなのに軽自動車は9%のマイナスを強いられた。
そしてダイハツはハスラーに対抗することも視野に入れて2015年にキャストを投入したが、売れ行きが低迷した。1カ月の販売目標を5000台に設定したが、2017年には1カ月平均が3795台となり、ハスラーの販売実績を下まわった。キャストは、SUV風のアクティバ、質感を高めた都会的なスタイル、ターボエンジンのみのスポーツという3つのシリーズを用意したが、逆に車種の個性が曖昧になり、販売面で失敗に終わった。
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