何やら太いタイヤを履いたF1マシンの外側に、ひと回り細いタイヤが置かれている。
実は、細いほうのタイヤは昨シーズンまでのタイヤで、今シーズンからはマシンに装着されたタイヤのように、迫力の太さとなる。
今年のF1マシンは、タイヤが大幅にワイドになり、マシン自体の幅も広くなるなど大変貌を遂げる。
そして、「1周で5秒速くなる」とも言われているのだ。大迫力の“速い”F1マシンで、レースはどう変わるのか? 津川哲夫氏が解説する。
文:津川哲夫、WEBベストカー編集部/写真:Daimler,Ferrari,LAT
タイヤもボディもワイドに。ルックスはかつての迫力を取り戻す
2014年に行ったF1の改革はこの3年間思惑通りには進まなかった。未知への挑戦で問題も多く、問題解決に新たな変更が加えられてきたが、頻繁な規則変更はレースごとに複雑さを増し、結果、長年築いてきたF1への人気を冷めさせてしまった。
これまでもF1の浮沈を賭けて、さまざまな手段が講じられたが根本的な解決策はなく、変更の度に複雑さが増し、技術開発の自由度は狭まり、レースでも自由な競争がスポイルされてきた。
スリリングなシーンはあるものの、その多くはタイヤ戦略が生み出す人工的な戦い。そして、それは終盤の十数ラップに集約される。
この状況に大きな危機感を抱いたF1は2017年から、今度は車体に対して実に大きな規則変更を行った。
●フロント、リアともにタイヤはワイドに!
タイヤの幅、車体幅も広がり、ボディワークもフロアも、前後のウイング幅も広がり、リアウイングの位置は低くなり、ディフューザーの形状は広く、後方への立ち上がりも強くなった。
速いF1マシンでブレーキング競争でのバトルは難しくなる?
これにより床下、ウイングなどで生まれるダウンフォースが極端に増えてグリップ力が増す。
巨大なダウンフォースで最高速は若干落ちるが、コーナリング速度は大幅に上昇。グリップの増加で減速性能も高まり、ブレーキ性能は間違いなく向上する。減速を遅らせるブレーキ競争はよりシビアになり、ブレーキングは時間も距離も短縮され、ブレーキ競争でのバトルはきわめて難しくなりそうだ。
直線での追い抜きにも影響あり
巨大なダウンフォースはDRS(ドラッグ・リダクション・システム)の効果を上げ、直線での追い越しがしやすくなり、グリップの大幅増加により立ちあがりでのトラクションが素早く得られるはずだ。
そして、加速力も上昇、前車に追いつく地点はこれまでより遅れる可能性が高い。ストレートの長い高速サーキットならばいいが、ストレートの短いサーキットではDRSでの追い越しも簡単ではなさそうだ。
ベテランドライバーが大活躍!?
しかし、本当の問題はドライバー自身。巨大なコーナリングフォースにより、若いドライバーがこれまでに経験したことのない巨大な横Gを受け、巨大なダウンフォースを受け止める硬いサスペンションは激しく路面の振動をひろう。若いドライバーには経験のない首への、そして振動からの負荷が待っている。
電撃引退したロズベルグの後釜にはバルテリ・ボッタスが抜擢されたが、この巨大な負荷を考えればフェルナンド・アロンソ(マクラーレン)やセバスチャン・ベッテル、キミ・ライコネン(ともにフェラーリ)、それこそ引退したジェンソン・バトンやフェリペ・マッサ(引退を撤回し復帰)などのベテランがほしいはずだ。
彼らは巨大なダウンフォース時代の経験が豊富で、負荷の大きいレースに耐え、そのためのセッティングにも極めて深い経験があるのだから。【津川哲夫】
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