ホンダ アスコットは多チャンネル戦略の最適化と商品戦略が融合したもうひとつの“アコード”【愛すべき日本の珍車と珍技術】

ホンダ アスコットは多チャンネル戦略の最適化と商品戦略が融合したもうひとつの“アコード”【愛すべき日本の珍車と珍技術】

 これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、時代が生み出し、時代が消していったミドルサルーン、ホンダ アスコットを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/ホンダ

【画像ギャラリー】ミドルクラスとしては異例ともいえる豪華仕様で満足感あふれるアスコットの写真をもっと見る!(5枚)画像ギャラリー

国内外の市場で通用するグローバルなセダン像を追求

 今から四半世紀以上前、日本は「バブル景気」と呼ばれる好景気に沸き、個人消費と資産価値は急激に膨張。自動車業界も例外ではなく、車両の設計思想や流通戦略、ユーザーの購買心理にまで深く影響を与えた。

 メーカー各社は、拡大を続ける市場のニーズに対応すべく販売チャンネルの多様化・細分化を加速させていた。ホンダもそうした業界の流れに乗り、既存の販売チャンネルだったベルノに加え、クリオ、プリモという3系列体制へと拡張し、それぞれの販売網に個別専売モデルを展開する方針をとった。

 今回クローズアップする「アスコット」は、1989年7月時点で世界累計500万台の生産実績を誇るグローバルベストセラー「アコード」をベースに、セダンとしての本質を徹底的に磨き上げた新型車として登場し、プリモ店の看板車種として独自の存在感を放っていた。

フロントフェイスからサイドまで、端正かつ格調高いスタイルには、ブランドが長年培ってきた造形哲学が色濃く反映されている
フロントフェイスからサイドまで、端正かつ格調高いスタイルには、ブランドが長年培ってきた造形哲学が色濃く反映されている

 車名は英国の格式ある競馬場「アスコット」に由来し、高品位なセダンとしてのイメージを強く打ち出していた。そんなアスコットは、基本的にアコードをベースとした姉妹車だが、ボディパネルを独自に変更して外観はアコードと差別化され、明確なキャラクターの違いを強調している。

 デザインにおいては、アコードがマッシブなラウンドフォルムを採用して迫力と洗練を両立しているのに対し、アスコットはリアドア後端までまわり込む6ライトウインドウによって格調あるセダンとしての風格を際立たせるなど、プリモ店の看板車種に相応しい作りがなされていた。

 ボディサイズは全長4680mm、全幅1695mm、全高が1390mmに設定され、兄弟車であるアコードとともに、“これからのワールドカー”としてトータルバランスに配慮したものとなる。これはアコードが北米市場を中心としたグローバルモデルとして設計された背景を受け継いだ結果だが、国内市場でライバルと目されていたトヨタ・マークIIや日産ローレルといったモデルと比較しても十分な存在感をアピールできた。

「小さな高級車」らしい走りと快適性を実現

 搭載されるパワートレインはすべて横置き直列4気筒で、ラインナップの中核をなすのは、ホンダ独自の電子制御燃料噴射システム「PGM-FI」を採用し、最高出力150PSを発揮する2L DOHC 16バルブPGM-FIエンジンとなる。加えて扱いやすさと燃費性能に優れた2Lと1.8LのSOHC 16バルブエンジンを展開し、幅広いニーズに対応する。

 3タイプのエンジンともに注目すべきは、アルミ製シリンダーブロックの採用による軽量化と高剛性化、そして2次バランサー機構の標準装備による静粛性の劇的な向上だ。

 ピストンの往復運動から発生する2次振動を効果的に打ち消し、4気筒エンジンとしての限界を超える滑らかさを実現するとともに、高速巡航時のノイズ・バイブレーション・ハーシュネス(NVH)性能において同クラスの車種を凌駕する完成度を誇っている。

 また、エンジン自体を後方に10度傾けて搭載するレイアウトも注目点のひとつに挙げられる。これにより吸気効率の最適化と車体パッケージングの自由度向上が両立され、ボンネット低重心化やキャビン空間拡大にも寄与している。

 こうしたエンジン技術は、単なるスペックの向上だけが狙いではなく、アスコットの走りや快適性、デザインのすべてを底支えするコアテクノロジーとなっている。

過剰な装飾を排し、面と線の精緻なバランスを追求することで、時代に左右されない普遍的な美しさを具現化している
過剰な装飾を排し、面と線の精緻なバランスを追求することで、時代に左右されない普遍的な美しさを具現化している

 トランスミッションは最新技術が積極的に導入された、1速ホールド機構付き7ポジションセレクト式ATが組み合わされる。エンジン仕様に応じて、PGM-FI仕様エンジンには7ポジション4速電子制御AT、PGM-CARB仕様エンジンは7ポジション4速ATとなる。

 いずれも細やかなレンジ選択による優れた操作性と実用性を特徴とするが、特筆すべきは、変速時のショック低減に向けた複数の先進制御技術の導入だ。変速時にエンジントルクを適切に制御する点火時期リタード制御をはじめ、シフトアップ/キックダウン時のクラッチ制御を独立管理する新アキュムレーター・コントロールシステムを搭載。また、ドライブレンジ選択時に発生するアイドリング振動というAT車特有の課題を克服する、新開発の電子制御式複合エンジンマウントも採用する。

 こうした細部にわたるチューニングによって、アイドリング時の微振動を効果的に吸収し、快適性を一段と高め、変速をスムースに行いながら、力強さを損なわない走りを実現。アスコットのAT車は、単なる滑らかさを超越し、走りと快適性の一体感を提供する存在へと昇華させている。

次ページは : 独自の技術によってセダンに新たなドライビング体験をもたらす

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