独自の技術によってセダンに新たなドライビング体験をもたらす
アスコットでは、すべてのグレードにホンダ独自の4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションが採用された。プレリュードやシビックといった当時のホンダがラインナップしていたスポーツモデルで定評のあるこの機構を、セダン向けに最適化することで、スポーティな操縦性と爽快な乗り心地を高次元で両立している。
前後ともにダンパーを大型化し、ホイールストローク量も拡大。これにより、路面追従性の向上とフラット感のある乗り味が実現され、従来モデルを凌駕する快適性と質感が得られている。
さらに注目すべきは、ホンダが世界に先駆けて市販化した4WS(4輪操舵システム)の搭載だ。プレリュードで初採用された技術だが、これをセダン用に専用チューニングが施されている。
高速域では、後輪が前輪と同方向に操舵されることで、レーンチェンジや高速コーナリング時の直進安定性が向上。さらに低速域では、後輪が前輪と逆方向に操舵されるため、狭い街中やUターン時の取り回しが格段に向上している。
こうした技術の採用により、「走りの楽しさ」と「日常での扱いやすさ」を両立し、操る歓びを持つセダンへと進化している。
車内もアコードと基本的なデザインは共通ながら、アスコットではシート表皮やドアトリムの素材が上質化された。色調やパターンにも高級感が与えられ、最上級グレードである「プレステージ」には本革シートを標準装備とするなど、このクラスとしては破格の仕様となっていた。
こうした「小さな高級車」へのアプローチは、フラッグシップであるレジェンドに始まるホンダのプレミアム志向が、ミドルクラスセダンにも波及した産物と言っていい。1990年前後の日本市場に広がっていた“5ナンバーサイズ高級セダン”という独特の需要に対するホンダが示した明確な応答でもあった。
しかし、こうしたプレミアム志向を強調した5ナンバーセダンは、バブル経済がもたらした産物だった。登場時はそれなりに支持を集め、2代目へモデルチェンジを果たしたものの、その後の景気後退によって需要は徐々にしぼんでしまい、車種の統廃合が急速に進んでいく。
豊かな時代だからこそ成立した手法ではあったものの、当時のホンダの兄弟車や多バリエーション戦略は、多様な好みに応える商品展開という点において画期的だった。それを証明するのが上質な高級サルーン、アスコットの存在意義である。

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