日産 NXクーペはライフスタイルの多様化という市場変化が生んだ新コンパクトモデル【愛すべき日本の珍車と珍技術】

日産 NXクーペはライフスタイルの多様化という市場変化が生んだ新コンパクトモデル【愛すべき日本の珍車と珍技術】

 これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、数字以上に日産の挑戦を物語るクルマとしてカーマニアに記憶されている、NXクーペを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/日産

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“自分らしさ”を表現できるファッショナブルクーペ

 1980年代後半から90年代初頭にかけて、日本のコンパクトカー市場は大きな変化を迎えた。既存の実用車としての枠を超え、多様化するユーザーのライフスタイルを意識した“個性あるクルマ”への需要が高まりつつあった。

 日産はこうした潮流を捉え、サニーをベースにしながらもファッション性とスポーティさを前面に打ち出した新型クーペを企画、開発した。それが今回クローズアップする「NXクーペ」だ。

 NXクーペは、サニー系列の延長線にありながらも、まったく異なる個性を追求した意欲的なモデルだ。日産が掲げたコンセプトは、「ファッショナブルなスポーティクーペ」。その言葉どおり、外観デザインから搭載エンジンに至るまで、若々しさと走る楽しさを全面に押し出した仕上がりとなっている。

窪み内に設置されたフロントライトや丸みを帯びたボディラインなど、デザインはスポーティかつ先進的なイメージを強調している。1990年から1994年まで販売された
窪み内に設置されたフロントライトや丸みを帯びたボディラインなど、デザインはスポーティかつ先進的なイメージを強調している。1990年から1994年まで販売された

 NXクーペのスタイリングは、サニーセダンが持つ正統派の3ボックスデザインとは一線を画し、サニー系列とは明確に異なる「新感覚クーペ」として仕立てられた。低く構えたプロポーションに流麗なルーフラインを与え、丸みを帯びた面構成でまとめられた外観は、従来の“実用車”とはひと味違う個性を放っている。

 フロントビューは、スラントノーズを基調にバンパー内に埋め込まれたヘッドランプを組み合わせることで、従来の小型クーペにはない独自の表情を演出。サイドは走りのイメージを強調したスポーティなラインでまとめられ、リアエンドにはリアスポイラーをボディに一体化している。

 これらの個性豊かな味付けで、後付け感のない統一感のあるデザインとするとともに、先進的なイメージが表現されている。まさに「ファッションとしてのクルマ」という日産の狙いが色濃く反映されている。

スポーティから実用性まで幅広くカバーするエンジンラインナップ

 インテリアも外観同様に「スポーティ」と「ファッショナブル」の両立を狙った仕上がりだ。ステアリングは3本スポークを採用し、上級仕様のType Sでは本革巻きを装備している。

 さらに、Type Aおよび Type Bグレードには大型のデジタルメーターを採用。見やすさを確保しつつ、新感覚かつ先進的な印象を高めており、クーペとしてのファッション性を強調するアイテムとなっている。

 シートはクーペらしくドライバーをしっかりと支えるホールド性の高いスポーツシートを備え、走りを意識した演出がなされている。日常的なドライブはもちろん、ワインディングでのスポーティなドライビングでも安心感が得られる。後席やラゲッジはセダンに比べてやや制約があるものの、日常使用には十分対応できる実用性を確保している。

3本スポークステアリングやホールド性を重視したスポーツシートが演出するのは、走りを意識したドライバーズコクピットの雰囲気だ
3本スポークステアリングやホールド性を重視したスポーツシートが演出するのは、走りを意識したドライバーズコクピットの雰囲気だ

 エンジンラインナップは、スポーティなSR18DEを筆頭に、扱いやすさと経済性を重視したGAシリーズを揃え、幅広いニーズに対応する。すべてがDOHC・4バルブ化されたことで、当時の小型クーペとしては先進的なパワートレインを備え、日産が掲げた「ファッショナブルでスポーティ」というコンセプトを技術面からもしっかりと支えている。

 主力となるGA型は、扱いやすさと経済性を重視しつつ全域での性能を底上げしたユニットとして開発され、広いユーザー層から支持を得る可能性を秘めていた。GA16DEは余裕のある走りを求めるユーザーに、GA15DSは経済性を最優先するユーザーに、という明確な指標を提示しており、選びやすい構成となっている。

 そこにスポーティなSR18DEが加わることで、NXクーペは「走りの楽しさから日常の実用性まで」を幅広くカバーする布陣を完成させていた。

 1.6L、1.5Lの上位に設定された1.8Lは、日産がこのクラスに初めて投入したユニットして注目された。導入の狙いは単なる排気量拡大ではなく、スポーティかつスムースな走行フィールの実現にある。

 技術面では、動弁系に外側エンドピボット式Y字ロッカーアームを採用。コンパクトな燃焼室を持つ4バルブDOHC方式と組み合わせることで、吸排気効率・燃焼効率・熱効率を大幅に改善させた。

 さらにシリンダーブロックとオイルパンにはアルミ材を使用し、重量増を避けつつ剛性の向上を図ることで、軽量かつ強固な構造と音割れのないリニアなエンジンサウンドを実現している。

 NXクーペにおけるSR18DEエンジン搭載車は、サニーシリーズも含めシリーズ中で最もスポーティな走りを支える存在であり、日常の扱いやすさを保ちながらも余裕のあるパフォーマンスを提供する。

次ページは : スポーツドライビング志向に応える明確なキャラクター設定

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