なぜ消えた？　ディーラーメンテナンスパックから６か月点検が消えつつあるワケ

　昨今、クルマの整備事情が変化しつつある。特に大きく舵を切っているのがトヨタ販売店だ。実は、昨年（2024年）10月から、トヨタオリジナル点検（プロケア10等）を廃止する販売店が増えている。

　廃止理由には、クルマの性能向上やオイル性能の向上を挙げる販売店が多い。これまで半年ごとに行われていた点検は、1年ごとへと変化しつつあるのだが、6か月点検が廃止される様々な理由を見ていくと、なかなかどうして無視できないものも見えてくる。今、トヨタディーラーでは何が起こっているのだろうか。

文：佐々木　亘／画像：AdobeStock（トップ写真＝Freedomz@Adobestock）

そもそもオリジナル点検って何なのよ

　クルマを保有する人が受けなければならない点検は、法律で定められている。それが法定12か月点検や車検（法定24か月点検）だ。

　この必須点検に加えて、長い間トヨタでは、独自に新車1か月点検・新車6か月点検と、法定点検と法定点検の間にトヨタオリジナル点検を実施してきた。

　この点検の中で、現在廃止の方向へ動いているのが、トヨタオリジナル点検と新車6か月点検の部分。「プロケア10」や「6か月My点検」という名称で行われていたサービスである。

　点検の主な内容は次の通り。ブレーキ・シートベルト・ワイパー・ライト・油脂液類・ベルト類・下回り・ウォーニングランプ・タイヤ・エンジンの10項目だ。これと同時に、エンジンオイル交換が行われるのが通例であった。

　しかしながら、現在はオイル交換を含めた点検自体が、トヨタディーラーから消えている。メンテナンスパックへ加入しても、6か月ごとの点検ではなく1年ごとの点検とオイル・エレメント交換などが組み込まれているだけなのだ。

　つまりは、オイル交換のサイクルが、突然半年ごとの推奨ではなく1年ごとの推奨に変わるということ。消耗部品の交換サイクルが長くなったのは、ユーザーとしてはありがたいことなのだが、素直に喜んでいいことなのか、本当にクルマの寿命に関係が無いのかなど、少し引っかかる部分も残る。

点検廃止の裏には解消されない人手不足が大いにある

　全国各地のトヨタディーラーでは、働き方改革が進められ、不足していると言われて長い、整備士の確保に躍起になっている。こうした改革の一環として、今回の6か月点検廃止も起きた。

　つまりはエンジニアの負担を減らし、法定点検や車検整備を優先させるために、乗用車の６か月点検は無くても良いのではないかという結論が出たということ。事実、昨年10月からのトヨタディーラーのサービス工場における混雑具合は、大きく解消していることが分かる。

　これは前向きな販売店改革とは言い難いが、整備のキャパシティーが決まっているディーラーにおいて、問題を解決するために行った大英断だろう。オリジナル点検自体が「ムダ」だとは言えないものの、人手不足が深刻な中で、6か月点検を行う「ムリ」が生じているのは紛れもない事実だった。

営業接触回数を減らしても工場の負担は減らさなければならない

　トヨタオリジナル点検が無くなって、ディーラーの収益は落ちていると考えがちだが、ことメンテナンスパックに組み込まれたオリジナル点検の排除は、販売店収益を良化させるものとなっている。

　これまで、プロケア10や6か月My点検は、メンテナンスパックの中に組み込まれてしまうと、不採算な仕事となってしまっていたのだ。

しかしながら、なぜ効率を極めるトヨタが、こうした不採算事業を継続してきたかというと、整備収益ではなく新車収益のため。これは、点検の回数＝車販につながる営業活動の回数とされていたからだ。

　特にディーラーの中でN-6（エヌロク）と呼ばれていた車検6か月前のオリジナル点検が、買い替えにつながる最も大きな機会とされていた。しかし、新車納期の長期化でN-6の機能性は下がり、点検＝商談機会という考え方自体が見直されている。

　クルマのメンテナンスの常識は、これからも変わり続けるだろう。6か月点検が消えたからと言って、クルマのメンテを1年間放置していいわけではない。適切な点検整備を、適切な時期に受けることは、全てのドライバーの義務であると肝に銘じ、クルマと上手に付き合っていってほしい。

　半年ごとの点検が消えた理由のひとつには、トヨタディーラーによる「カイゼン」が挙げられる。こうした動きは、今後他メーカーのディーラーにも出てくるかもしれない。