タイプ2の消滅以来、40年以上を経て登場したフォルクスワーゲン ID.Buzz。タイプ2を彷彿とさせるミニバンタイプのBEVだが、はたしてタイプ2のように、あるいはビートルのように愛される存在となれるのか? テリーさんの感想は!?
※本稿は2025年10月のものです
文:テリー伊藤/写真:西尾タクト、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2025年11月26日号
往年の名車「タイプ2」を彷彿とさせるBEVミニバン
VWの新しいEV、ID.Buzzは日本車にはない発想のミニバンだ。
往年の名車「タイプ2」を意識しているが、タイプ2のT2世代が1979年に絶版になってから2017年のコンセプトカーまで、40年近くも復活させなかったのだから、もしかしたら、日本のムーヴキャンバスの存在を知って、VWがタイプ2の価値を再認識したのではないかとも思っている。
ミニバンとしては、アルファード/ヴェルファイアやレクサス LMのほうが何倍も豪華だが、ID.Buzzのほうがずっと楽しいし、飽きない。高級ミニバンだって「しょせんはクルマ」なのだ。この狭い空間に豪華なものを詰め込むのはかっこ悪いということを、VWは知っているのではないだろうか。
この「しょせんはクルマ」という意識は意外と大事だと思う。アルヴェルとは真逆のクルマを作るというのは、ヨーロッパのプライドでもあるだろう。「日本やアジアの美的感覚と私たちは違う」と見せつけているようにも感じる。
ID.Buzzは家の前に置いていたら、これ自体がオブジェになるようなものだ。家の一部と考えたらショートボディで約900万円、ロングボディで約1000万円の価格も高すぎるとは思わない。
このように相当レベルの高いクルマだが、本来だったらトヨタがエスティマの新型を、こういうクルマで開発するべきだった。日本人としては、そこが残念なところではある。
数少ない弱点を挙げるとすれば、運転が楽しいクルマというわけではないことか。オーナーカーではなくショーファーカーで、全幅が1985mmもあるから、込み入った道ではやはり気を使う。
それと、後席に座っていると「意外と普通だな」とも感じた。ロングボディのオプションにあるパノラマガラスルーフであれば印象は異なるのだろうが、今回乗ったショートボディの「Pro」は普通の天井。
私ならそこに南の島の絵を描いて明るくするだろう。クルマの天井はアイデア次第で楽しくできるキャンバスだ。メーカーは、この一等地をもっと効果的に使ったほうがいい。
幸せの黄色いBuzzになれる
覚えている読者も多いと思うが、昔、子どもたちの間で「黄色のビートルを見ると幸せになれる」と言われていた時代があった。ビートルはそれだけ愛されていたということだが、このID.Buzzもそんなクルマになれる資格はありそうだ。
1000万円級のビッグサイズEVだけに、たくさん売れるわけではないだろうが、逆に、その希少性が街で見かけた時の喜びに繋がるかもしれない。アルヴェルでは絶対にマネできない、ID.Buzzの特権である。
もうひとつ考えたのは、ID.Buzzはタイプ2のように60年後も輝いているのだろうかということだ。錆びついた古いビートルやタイプ2が愛されるのは、かつてアメリカ西海岸のサーファーたちがかっこよく走らせていたからだ。
つまり、VWの力ではなく、VWを愛する人の力で輝き続けているのだ。今、程度のいいタイプ2の中古車は700万〜800万円くらいする。ID.Buzzはそんなクルマになれるのか。実は、現在の評価よりも、将来どういう愛され方、輝き方をするのかのほうが重要なのかもしれない。
今後EVのビンテージカーは生まれてくるのか、家電のように古くなったら捨てるだけの商品になってしまうのか。その未来を予測するのは難しいが、できれば長く愛されるEVができてほしいと思う。そして、ID.Buzzは、そうなれる可能性を秘めた一台だろう。
もう少し幅が狭くてハイブリッドもあれば言うことなしだが、ないものねだりをしていてもしかたがない。こんなにも華やかで楽しいミニバンが日本でも買えることを喜びたい。そんなふうに思えるクルマだった。
●フォルクスワーゲン ID.Buzz Pro(888万9000円)
2017年のデトロイトショーでコンセプトカーを発表。2022年に欧州で販売を開始し、2025年6月に日本に導入された。
Proは全長4715×全幅1985×全高1925mm、ホイールベース2990mm、車重2550kgで、全長4965mmのロングボディ(997.9万円)もある。286ps/57.1kgmのモーターを搭載する後輪駆動で、航続距離は524km(ロングは554km)。


















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