日本自動車工業会(自工会)は、2026年3月19日、理事会を実施。その後、佐藤恒治会長をはじめ副会長6名が出席する記者会見を開き、新体制が掲げる「新7つの課題」の取り組み状況と今後の方針を明らかにした。
激化する国際競争、関税引き上げ、地政学リスク、労働人口の減少、大転換を迫られる産業構造──複雑に絡み合い重なり合う構造課題を前に、自工会は「個社競争から産業協調へ」という方針を強調。2030年代には日本の労働人口が2割減少するという試算もあり、現状のままでは日本でクルマを作り続けることすら難しくなりかねない。中国、欧州、北米、ASEANと、それぞれの地域が国ぐるみ、地域ぐるみで自動車産業、モビリティ産業を盛り立てるなか、日本自動車界はどのように立ち向かうのか。
「理事会後の正式な記者会見」としては新体制後初めてとなる今回、佐藤会長と副会長らが語った内容を、自動車情報専門メディア視点で整理してお伝えします。
文:ベストカー編集局長T、画像:日本自動車工業会、ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】日本自動車工業会の会見と配布資料(5枚)画像ギャラリー「受け身の業界団体」から「意志ある協調体」へ──新7つの課題が意味するもの
自工会が「新7つの課題」を旗印に掲げて新体制をスタートさせてから2カ月半。本日(3月19日)の記者会見は、それぞれの取り組みの手応えと課題をリアルに語る場となった。
佐藤恒治会長(トヨタ)はまず、自工会のあり方そのものの変化を強調した。
「これまでは各社が主導している中で、共通する課題を扱うという、どちらかというと受け身的なところも多くございました」
しかし、電動化・知能化・地政学リスク・エネルギー制約が同時進行する今、「各社の競争を軸にした産業の発展には限界がある」という認識のもと、意志を持って協調領域を作り、各社が本来競争すべき領域に経営資源を集中できる環境整備へと、自工会の役割を根本から見直す。

自工会が取り組む「新7つの課題」に込めた思いとして佐藤会長が挙げたのは、3点だ。第一に、ゴールを「自動車産業の発展」ではなく「社会がどう変わるか」に置くこと、そのために「ナラティブ」、つまり(メディアを通して)読者・視聴者、日本社会の皆さんへ丁寧に過程から説明してゆくことを重視する。
第二に、議論を社会実装https://bestcarweb.jp/?p=1472523&preview=1&_ppp=52fe931aaeまで「シュートを打ちきる」こと。議論で終わらず社会実装させ、実際に役立つことを目指す。第三に、14社という多様なメンバーが集う自工会の強み、多様性をエネルギーに変えること。
「出来上がってからお示しするのではなく、議論の過程も含めてリアルタイムでお伝えしていく」
そう語った佐藤会長の言葉に熱量を感じた。
課題の難所については副会長陣も率直に口を開いた。鈴木俊宏副会長(スズキ)は「縦割り・系列という何十年もかけて作り上げてきた構造を崩していかないと、新しい競争力は生まれない」と指摘。理事間での危機認識はほぼ共有されたとしつつも、「鍵はスピード感。それができなければグローバルでの競争力を確保できない」と危機感を隠さなかった。
走行中給電・SC強靭化…理事会で熱論、協調領域の”新境地”が見えてきた
同日の理事会では、「7つの課題」の中でも特に「⑦サプライチェーン全体での競争力向上」について活発な意見交換が行われたという
電動化・知能化の進展と労働人口減少によってサプライチェーンへの負荷が増す中、部品・素材を業界横断で共通化することで全体の生産性を引き上げようという取り組みで、進捗状況は「対象領域選定中」とまだ入り口段階にある。
以前の会見で「他メーカーと部品共用化についてさんざん協議して、共用化できたのは灰皿だけ」(鈴木副会長)という事例もあったように、数万点におよぶ自動車部品の中でも(同じ「クルマ」というジャンルなのに!)他社間でそのまま共用できる部品は驚くほど少ない。
もちろん安易に共通化すれば悪いコスト競争に陥り「たくさん作れる会社が総取りする」という結果になりかねない。一方で現状のように各社が異なるサプライチェーンのうえでまったく違う仕様を使い続けていると、たとえば中東危機のような輸出リスクに対応できず生産が止まったり(資源安全保障)、サプライヤーが「単一製品」にこだわり続けて開発投資が遅れる……などの致命的なデメリットがある。
つまり、どの部品をどこまでどういう規格で揃えて、どこからは競争するか、という線引きを自工会でやる、やらなければ国際競争に勝てない、これに10年かかったらもう取り返しがつかない、というところまで来ているようだ。
また、今回、進展があった一つが「②マルチパスウェイの社会実装」の中の「電気:走行中無線給電の社会実装」だ。高速道路の路面に給電設備を埋め込み、走行しながら電気自動車のバッテリーを充電するというこの構想は、EVの最大の弱点である航続距離問題と充電インフラ不足を一気に解決する可能性を秘める。
取り組みテーマ案には「官民での高速道路電化計画具体化・実証により、社会実装を加速」と明記されており、各メーカーの実状や技術開発の方向性について活発な議論が交わされたとみられる。個社の競争領域に踏み込まず、インフラ整備という協調領域で業界が足並みをそろえられるか。走行中給電は、新しい協調モデルの試金石になりそうだ。
中東情勢についても会見で記者から質問があった。イラン情勢で一気に緊迫化したホルムズ海峡問題。日本から中東への通常の船便はリードタイム約50日だが、ホルムズ海峡回避に伴う別ルート確保で約100日に倍増し、輸送力はおよそ半減する。
中東には80万台のクルマが輸出され、取引規模は2.5兆円にのぼる。たとえばアルミについては中東からの調達依存度が約7割とされ、事態が長引けば材料調達に深刻な影響が出る可能性もある。佐藤会長は「各社で備蓄量や生産振り替えの対応を進めている」と述べるにとどめたが、リスクの大きさは明白だ。
ここでも資源安全保障の問題が浮上し、現在は各社それぞれが頭を悩ませつつ対応しているが、こうした面でも自工会が前に出て妥当性のあるプランを検討する意味は大きい。
人材・米国・関税…山積する課題に自工会はどう向き合うか
人材基盤の強化(課題④)は、7つの中で唯一、テーマごと「検討中」の段階にある。その背景には課題の複雑さがある。2030年代には自動車産業の労働人口が現在比で約2割減少するという見通しがあり、単純計算で生産性を20%向上させなければ、今と同じ量のクルマを作ることができない。
佐藤会長は「AIやロボティクスを活用した生産性向上、ソフトウェア人材の育成、他産業との人材流動性確保など、多方面の議論を進めている」と説明。他産業との人材流動を高めるための「休日カレンダーの調整」という、ものづくり産業の根幹に関わるテーマにまで議論が及んでいることは特筆に値する。三部敏宏副会長(ホンダ)は「AI開発もそうだが、たとえばロボタクシーのルール作り、法整備や事業整備など、自工会で環境づくりできるところはたくさんある」と語った。
米国市場については、この日、報道陣に配布された資料が自工会の立ち位置を如実に示す。1982年以来の累計製造投資700億ドル超、過去10年の新規製造投資230億ドル超、11万2000人を超える米国雇用──これらは「短期的な投資ではなく、長年にわたってアメリカに根ざした事業を継続してきた証し」(佐藤会長)として、米国政府・産業界へのメッセージとなっている。

関税については「交渉にあたってくれた日本政府には感謝しているが、そのうえで15%への引き上げで経営インパクトは非常に大きい」と率直に認め、さらなる減税を政府に要望しつつも、「これまでの取り組みによる生産性向上では生き残れない。ニューノーマルに対応する質的な転換が明確になった」と佐藤会長は述べた。
痛みを直視した上で前を向く──その言葉は、7つの課題全体に流れる自工会の基本姿勢を象徴していた。
14社がバラバラに動いていては世界と戦えない。その共通認識のもと、日本の自動車産業が本格的な協調へとギアを入れた2026年春。社会実装という「シュート」が実際に決まるかどうかは、これからの実行にかかっている。






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