毎日155億円の補助金がなくなったら? ガソリン220円時代と「51日分」のタイムリミット

毎日155億円の補助金がなくなったら? ガソリン220円時代と「51日分」のタイムリミット

 中東情勢に不安定化を受けて一時期レギュラー190円台/Lまで高騰していたガソリン価格は全国平均170.2円/Lまで下がってきた。これは4月2日から適用される補助額49.8円/Lによるもので、政府は3月末、この燃料油支援のため基金に7948億円を積み増している。ガソリン価格維持と物価高騰対策は(ありがたいが)いつまで続けられるのか。補助金が消えたら1回50L給油で約2500円増となるし、その補助金はこのままだと5月末には尽きることになるが、この原因と対策は。クルマ好き視点で整理した。

文、画像:ベストカーWeb編集部(アイキャッチ写真は2026年4月4日(土)時点での、編集部員自宅近くのガソリンスタンド価格。補助金のおかげで価格は落ち着いており、また、パニックによる長蛇の列にはなっていなかった。この点は高市政権の先手先手の情報開示が功を奏しているといえる)

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ガソリン170円台は「平穏」の数字じゃない

 2026年2月28日、米・イスラエルによる対イラン攻撃が始まり、同年3月19日には日本政府を含む各国首脳の共同宣言で「イラン軍による事実上のホルムズ海峡封鎖」と位置づけた。現時点でも海峡は大部分が閉塞状態で、通航は一部に限られ、再開のめどは立っていない。

 これにともない、原油は4月3日終値でWTI112.06ドル、Brent109.24ドル前後まで上昇。長期化すればさらなる高騰が予想され、日本でもガソリン高騰と物流コスト増が続く公算が大きい。高市政権は、早期の緊張緩和と航行の安全確保を外交最優先に掲げつつ、3月16日から民間備蓄義務量を15日分引き下げ、国家備蓄原油は3月26日から順次放出、19日から燃料補助再開で国内供給と価格抑制を急いでいる。

 ざっくり言えば、アメリカとイスラエルがイラン相手に戦争を始め、日本政府を含む世界各国はそれを止めることができず、エネルギー価格が高騰している(アメリカ・イスラエルとイランのどちらが原因でどちらが悪いか、とは本稿は問わない。あえていえばどちらも悪い)。

 経産省はこの情勢を受け、3月19日から緊急的な「激変緩和措置」を実施し、レギュラーガソリン全国平均の小売価格を「170円程度」に抑える方針を示した。

 この補助金を受けて、3月30日時点の全国平均は170.2円/Lまで低下している。4月2日適用分の補助額はガソリン、軽油、灯油、重油が49.8円/L、航空機燃料が19.9円/Lという大きさだ。つまり店頭価格が落ち着いて見えるのは、原油や地政学リスクが消えたからではなく、補助金で見え方を抑えているからに過ぎない。

3月31日、総理大臣官邸で第2回中東情勢に関する関係閣僚会議に出席した高市早苗総理。物価高対策とサプライチェーンの構造改革が必要。た…頼みますよ!!(写真:首相官邸)

 その重さは、販売量と掛け合わせるとよく分かる。経産省の2月統計では、国内向販売はガソリン318.2万kl、ジェット燃料33.3万kl、灯油172.6万kl、軽油242.0万kl、A重油91.6万kl、B・C重油33.9万kl。これに現行の補助単価を当てはめると、補助原資は1日あたり約155億円になる。

 財務省は3月24日、令和7年度予備費から8007億円を使用し、そのうち7948億円をこの基金に充てると説明している。ということは、今回の積み増しでも約51日分しかない。続けば続くほど、財政負担は確実に重くなる。そして何より、このままのペースで補助金を突っ込み続ければ、虎の子の予備費も5月下旬には底をつく(原油価格と為替相場次第でタイムリミットはもっと早まるだろう)。

補助金がなければ220円/L──あなたの負担増は月いくらか

 170.2円/Lという数字を見て「まあこんなものか」と感じた人も多いだろう。だが忘れてはいけない。この価格は「49.8円/Lの補助金ありき」だ。補助がなければ、全国平均は約220円/L。1リットル当たり49.8円の差が、月々の家計にどう効いてくるかを、走行距離と燃費の組み合わせで試算した。

■ 補助金がなくなった場合の月間負担増(円)
月間走行距離 クルマの実燃費
10 km/L
軽トラ・旧型車
15 km/L
一般的な乗用車
20 km/L
HV・低燃費車
500 km/月
(近場中心)
+2,490円 +1,660円 +1,245円
1,000 km/月
(通勤あり)
+4,980円 +3,320円 +2,490円
1,500 km/月
(地方の日常)
+7,470円 +4,980円 +3,735円

※ 補助単価49.8円/L×月間消費量で算出。実際の負担増は地域価格差・運転状況により変動する

 注目してほしいのは右下ではなく左下だ。地方在住で燃費10 km/Lの軽トラを日常の足にしている層──つまりクルマがなければ買い物にも通院にも行けない高齢者世帯──が、月7,470円、年間で約9万円の負担増になる。これは年金生活者にとって「節約でどうにかなる」額ではない。

 都市部でハイブリッド車に乗り、月500 km程度の人なら月1,245円。痛いが致命的ではない。つまりこの補助金は、構造的に「地方」「旧い車」「低所得」に効いている政策であり、もし打ち切られれば、影響はきわめて偏った形で現れる。

 1日155億円の補助金は、数字だけ見れば巨額だ。だがその155億円が支えているのは、最も声を上げにくい人たちの移動と暮らしそのものである。

 さらにいえば、こうしたガソリン高は物価に直接響く。米も野菜もガソリンそのものも、ガソリンを消費して各地へ届けられている。この流通費そのものが値上がりし、あらゆる物価は上がってゆく。

怖いのは値上がりだけじゃない…日本は中東94.2%依存だ

 深刻なのは、中東情勢がますます不安定になる中で、日本のエネルギー構造がほとんど変わっていないことだ。経産省の石油統計速報によれば、2026年2月の原油輸入は1177万klで、その中東依存度は94.2%。輸入先の上位はサウジアラビア600万kl、UAE425万kl、クウェート61万klだった。つまり日本の燃料価格は、為替や原油相場だけでなく、中東の地政学そのものに強く振られる。

 IEAによれば、ホルムズ海峡を2025年に通過した原油・石油製品は平均日量2000万バレルで、世界でも最重要の海上チョークポイントのひとつだ。ここが揺れれば、日本だけが無傷ということはあり得ない。そのうえで、日本は世界で最もこの紛争の影響を受ける国のひとつとも言える。

 一方で、需給がすぐ緩む保証もない。OPECプラスの8カ国は3月1日、4月に日量20.6万バレルの増産を決めたが、IEAは3月レポートで、原油高と景気悪化を受けて3~4月の世界需要見通しを平均で100万バレル/日超引き下げ、2026年通年の需要成長見通しも64万バレル/日へ下方修正した。足元の相場も荒く、AP通信は4月3日時点でWTIが111.54ドル、Brentが109.03ドルまで跳ねたと伝えている。多少増産した程度では安心できず、価格はなお地政学ニュースひとつで振れうる局面だ。

今後「燃料を節約してください」が現実味を帯びる

 現時点で政府は、赤沢亮正経産相が「普段どおりの給油を」と呼びかけているように、パニック買いを避けつつ平常対応を求める段階だ。だが、供給不安がさらに深刻化した場合は別だ。

 石油需給適正化法では、石油の大幅な供給不足、あるいはそのおそれがある場合、内閣総理大臣が対策実施を告示できる。さらに同法は、石油使用節減目標に沿った使用節減への努力を求め、必要があればガソリンスタンドに対して給油量の制限や営業時間の短縮などを指示できるとしている。

 もちろんいま「ただちにそこへ行くだろう」と言うつもりはない。だが「燃料使用抑制のお願い」が、法律上は十分にあり得るメニューとして存在していることは、クルマ社会の日本にとって軽くない現実だ。

3月31日、総理大臣官邸で第2回中東情勢に関する関係閣僚会議に出席した高市早苗総理。物価高対策とサプライチェーンの構造改革が必要。た…頼みますよ!!(写真:首相官邸)
3月31日、総理大臣官邸で第2回中東情勢に関する関係閣僚会議に出席した高市早苗総理。物価高対策とサプライチェーンの構造改革が必要。た…頼みますよ!!(写真:首相官邸)

 結局のところ、いま私たちが見ている全国平均170円台は「危機が終わった数字」ではなく、「危機を財政で止めている数字」だ。補助金で家計や物流を守ること自体は必要だが、1日155億円規模が続けば、重くなるのは家計ではなく国家財政のほうだ。なにより毎日ガソリン価格維持のために投入しているのは、我々の税金である。

 もしこの先、中東情勢がさらに悪化すれば、次に来るのは値上がりだけでなく節減要請や供給抑制を含む“有事モード”へ移行せざるをえない。例年、日本国内のガソリン使用量は3月に増え、4月に下がり、5月にまた上がって、7~8月に年間ピークを迎える。このまま事態が進めば原油流通が最も悪化したタイミングで、最も使用量が増える時期が来る。

 こうしたエネルギー危機で最も影響を受けるのは、クルマを使わざるをえない地方にお住まいの高齢者たちだ。現在は広くあまねくガソリン価格へ補助金を出しているが、この先は出し先を選ぶ必要も出てくるだろう。

 こうした情勢で、クルマ好きが短期的に出来ることは少ないが、まずはパニックでガソリンスタンドに走るようなことはせず、落ち着いて、普段よりいっそう省燃費運転とクルマ生活を続けつつ、戦争反対と早期の海峡封鎖解除を願うくらいだろうか。

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