「寝ても覚めてもジムニー」を本気で目指す──ジムニーBEV化の是非とスズキ石井副社長が語った”愛の稼働率”

「寝ても覚めてもジムニー」を本気で目指す──ジムニーBEV化の是非とスズキ石井副社長が語った”愛の稼働率”

 2026年3月28日(土)、静岡県湖西市でスズキ初となる四輪公式ファンイベント「ジムニーデイ」が開催された。会場には全国からジムニーオーナーが集結し、自慢の愛車を並べ、嬉々として語り合う光景が広がった。その熱気のなか、スズキの石井直己代表取締役副社長が記者団の囲み取材に応じた。そこで大ヒット車となったジムニーイベント実施について、「ジムニーBEV化の是非」、本イベントの裏話が語られたので、詳細にお伝えしたい。

文、画像:ベストカーWeb編集部、アイキャッチ写真:記者団に答えるスズキ石井副社長(経営企画、IT本部、グローバルコミュニケーションなどを担当/トヨタ出身)

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「愛の稼働率を100%にしろ」──ファンイベント誕生の原点

「ジムニー愛の稼働率を100%にしろって言ったんですよ」

 石井副社長は、スズキ初の四輪車公式ファンイベント「ジムニーデイ」開催の経緯をこう切り出した。スズキとジムニーオーナーの接点は、新車購入時のディーラーと、3〜6カ月ごとのサービス入庫くらいしかない。つまりオーナーの日常の99.9%はスズキの手が届かない場所にある。その”空白の時間”をジムニーへの愛で満たせないか──これが出発点だったという。

イベントは静岡県湖西市(ジムニーを生産するスズキ湖西工場がある)の「ボートレース浜名湖 対岸駐車場」で開催された
イベントは静岡県湖西市(ジムニーを生産するスズキ湖西工場がある)の「ボートレース浜名湖 対岸駐車場」で開催された

「初めて恋人ができた時のことを思い出してくださいよ。寝ても覚めても頭の中が相手のことで支配されるじゃないですか。ああいうふうにしてあげたほうがきっといいんだろうなと」

「バリューチェーンの拡大」といったビジネス用語ではなく、「心の稼働率」、「愛の稼働率」という言葉を繰り返す石井副社長の表情は終始楽しげだった。

 この構想が動き出したのは約2年前。スズキがオーナーへの感謝を伝え、オーナーと深くつながるための施策として何が出来るか検討が開始され、その第1の矢がジムニーオーナー向けのスマートフォンアプリ「ジムジャム(JIMJAM)」の開発と公開、第2の矢がこの「ジムニーデイ」、そして「第3の矢」も控えているが、その内容は「近々発表する。乞うご期待」とのこと。

「ジムニーデイ」物販コーナーは大混雑。うれしい悲鳴が上がったが、分散は課題として検討されるはず
「ジムニーデイ」物販コーナーは大混雑。うれしい悲鳴が上がったが、分散は課題として検討されるはず

 イベント当日は物販コーナーが大混雑し、レジに長蛇の列ができる一幕もあった。石井副社長は「社長(鈴木俊宏代表取締役社長)は二輪のイベント経験があるから、レジを増やせと言ってたんですが、四輪では初めてだったのでああなってしまった。次回はちゃんと対応したい」と苦笑しつつ、継続開催への意欲を見せた。

「スズキブランド」は個性ある車の”総和”である

 話題が「スズキにとってのジムニーの位置づけ」に及ぶと、石井副社長はスズキ独自のブランド哲学を語り始めた。

「他社はトヨタ、ホンダというメーカー名がまずブランドになる。うちは違う。ジムニーはジムニーの世界、スイフトスポーツはスイスポの世界、ハスラーはハスラーの世界があって、それぞれの個性が際立ち、その総和がスズキというブランドになる」

 つまり、「スズキブランドはこうあるべきだ」というトップダウンの発想ではなく、一台一台のクルマが持つ個性とファンコミュニティの力がボトムアップでブランドを形作っているという考え方だ。だからこそ(某社のような)デザインの顔を同メーカーで統一するような手法は「うちでは絶対に、発想にも出てこない」と断言する。

 この姿勢の根底には、スズキ中興の祖・鈴木修会長が長年貫いてきた「三現主義」がある。現場・現物・現実を重んじ、実体のない企画書は「0.2秒で破り捨てられた」というエピソードを石井副社長は懐かしそうに振り返った。40年以上にわたる修会長の薫陶がスズキ社員のDNAに刻まれており、「実体がないと動けないが、実体があることに対しては行動力がめちゃくちゃ高い」会社なのだという。ジムニーデイもまた、机上の企画ではなく、目の前の熱狂的なオーナーの姿から生まれたイベントだと言える。

EVジムニーは「いつか必ず」──だが600万円では”ジムニー”と呼べない

 また、記者からジムニーを含むラインナップの環境対応について問われると、石井副社長は率直に答えた。

「ジムニーが環境に優しいクルマかと言われれば、そうとは言えない(現行型ジムニーにはハイブリッド仕様さえラインナップしていない)。でも、環境への貢献は一方向ではできない。カーボンクレジットの取得など、あらゆるところで取り組みながら、トータルで貢献していく考え方だ」

 欧州では排ガス規制の厳格化によりジムニーの販売が中止されている。現地代理店からは「スズキブランドの顔だったジムニーをなんとか復活させてくれ」と切実な声が上がっているという。EVジムニーの可能性についても言及があったが、石井副社長の答えは慎重だった。

「BEVのジムニーもありっちゃありなんですが、まだジムニーの本当のお客さんに提供できる技術レベルにはなっていない。まず重くて、それと価格。600万〜700万円のジムニーを買ってくれるならいいですが、それはもはやジムニーとは言わないと思う。アフォーダブルで、誰にでも手が届く価格にいないといけない」

 ジムニーがジムニーであり続けるためには、軽さや小ささ、価格の”身近さ”が不可欠だという信念がにじむ。バッテリーコストの低減と技術の進化を待ちつつ、「とはいえ社員は、絶対にいつかはこれがジムニーと胸を張って言えるBEV、環境対応車を作りたいと思っている。これは間違いない」と力を込めた。

ジムニーが”分かる”には、クルマとの付き合いの成熟が要る

 また記者から「インド市場で(ほかのスズキ車は人気があるのに)ジムニーの存在感が薄い理由は?」と問われると、石井副社長は興味深い「市場成熟論」を展開した。

「インドはまだモータリゼーションが始まったばかり。初めてのクルマ、2台目のクルマというお客さんが圧倒的に多い。今インドではサンルーフが大流行りだが、日本の40年前もそうだった。家のクルマを3台、4台と乗り継いでクルマのことが分かってくると、ジムニーの良さが分かるのだろう」

 大きくてキラキラしたSUVに惹かれるのはモータリゼーション初期の自然な姿であり、市場が10年、20年と成熟していけば、ジムニーの持つ本質的な魅力──道具としての潔さやラダーフレームの頑強さ、そして”使いにくさ”すら愛おしいと思える奥深さ──が理解されるようになるだろう、という見立てだ。

聖地巡礼とジムニーの未来

 取材の最後に、記者から「タイ・台湾・シンガポールなど海外のジムニーオーナーが、日本のカスタムショップを”聖地巡礼”している現象」を紹介されると、石井副社長は目を輝かせた。

「いいですね、それ。”第4の矢”にしようかな」

 たとえばジムニー発祥の地・湖西市に何らかのモニュメントや拠点を設ける構想にも前向きな反応を見せ、「いいアイデアをいただきました。実現します」と即答した。

 プロの道具として生まれた小さな四駆が、半世紀を超えて世界中にファンを生み、ついにメーカー自らが”恩返し”のイベントを開く。「愛の稼働率100%」という、およそ自動車メーカーらしからぬKPIを掲げるスズキの挑戦が、始まった。

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