冷却状況はフィンに当たる走行風次第の空冷エンジンに対して、夏場のオーバーヒート予防はもちろん冬季の暖機促進にも効果がある水冷エンジン。そのカギを握るのがラジエーター内の冷却水ですが、まさか水道水をそのまま入れているということはないでしょうか?
エンジンで発生した熱を放散する液体なら何でも良いと思っているかもしれませんが、水道水が思わぬ悪影響を及ぼすこともあり、エンジンに重大なトラブルを引き起こす原因にもなります。水しか入れていないライダーは、即刻ロングライフクーラントに入れ替えましょう。
加温と冷却を繰り返すことで鉄やアルミを腐食させる水道水

水冷エンジンは走行風による冷却が期待できないアイドリング時やノロノロ運転でもオーバーヒートしづらい利点があるが、冷却水は何でも良いわけではない。蛇口をひねればいつでも流れ出す水道水は便利だが、エンジンにとっては良い選択とは言えない。
水冷エンジンの冷却系統で使用している冷却水には、混合気が燃焼する際に高温になるシリンダーやシリンダーヘッドの熱を奪ってラジエーターから空気中に放出するだけではなく、その他にも役目があります。
大気圧下での水道水は100℃で沸騰しますが、シリンダーやシリンダーヘッドから受ける熱は100℃以上になることもあるため、冷却系統に圧力を加えることで沸点を100℃以上に高めています。圧力を加えると言っても機械的に加圧するのではなく、ラジエーターキャップに大気圧以上にならないと開かない弁を取り付けることで高圧を保ち、100℃以上でも沸騰しないようにしているのです。
また、冷却水の温度が低い間はラジエーターに流す量を制限して暖機を早めるためのサーモスタットがあり、冷却系統に均等に循環させるためのウォーターポンプも組み込まれています。
つまり冷却水は、エンジンとラジエーターを行き来する間にウォーターポンプで圧送され、適温になるまでサーモスタットでせき止められ、ラジエーターキャップで加圧されながら循環しているわけです。
そのため、冷却系には適切な性質を持つ液体を使用することが必要です。もし冷却水として水道水をそのまま使用した場合、いくつかの問題が発生する可能性があります。まず第一は、水道水にはカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が含まれているという点です。
これらの成分はエンジン内部で加熱と冷却を繰り返すことで固形物として析出します。水道栓の蛇口にも同様の固形物が析出しますが、固形物がラジエーターやエンジン内部のウォータージャケットの内壁に付着するのです。
スケールと呼ばれる析出物は熱伝導を阻害して冷却通路を狭めるため、冷却効率を低下させる要因となります。また水道水には溶存酸素や微量の塩素なども含まれており、それらが金属の腐食を促進する要素となります。
エンジンの冷却系統はアルミニウム、鉄、真鍮など異なる金属が組み合わされて構成されているため、腐食が進むとラジエーター内部の劣化やウォーターポンプ周辺の損傷、さらには冷却通路の詰まりやサビなどのトラブルにつながる可能性があります。
冷却系統の腐食は水漏れやオーバーヒートを引き起こす

冷却水温度が高いエンジン停止直後は冷却系統内部の圧力が高く、ラジエーターキャップを開けると高温の冷却水が噴出するので、充分に冷えてから開けること。キャップ裏側のゴムシールにも茶色いサビが付着している。

ウォーターポンプのドレンボルトを開けてもこの通り。水道水を使用するとエンジン内部の金属部分がものの見事に錆びてしまう。サーキット走行など限られた状況下ではLLCの使用が禁止されている場合もあるが、公道で走行する際は絶対にLLCを使用すべきだ。

ラジエーター上部から水道水を注入して冷却系統を洗浄する。冷間時はサーモスタットが閉じておりエンジン内部のウォータージャケットに流れる水量が少ないので、積極的に循環洗いしたい場合はサーモスタットケースからサーモスタットを外した状態で水洗いすると良い。
冷却水として水道水を使用した場合に起こり得るトラブルとして、特に注意すべきなのが腐食と堆積物による冷却性能の低下です。
先に説明したとおり、冷却系には異なる金属が使用されているため、電位差による電気化学的な腐食、いわゆる電食が発生することがあります。
水道水はミネラルを含むため導電性を持ち、この電食を助長する可能性があり、電食が進行するとアルミニウム製のシリンダーヘッドやラジエーター内部で腐食が進み、最悪の場合は冷却水漏れにつながります。
また、堆積したスケールや錆の粒子が冷却通路に蓄積すると、ラジエーターの熱交換効率が低下するのはもちろん、ウォーターポンプのインペラやメカニカルシールの摩耗といったトラブルにもつながります。
さらに冬季においては凍結の問題も無視できません。水は0℃で凍結し、凍結時には体積が膨張します。冷却系統はラジエーターキャップとサーモスタットで気密が保たれているため、凍結時の体積膨張によってラジエーターやシリンダーブロック、ホースなどの破損を引き起こす可能性があるのです。
またラジエーターキャップによって加圧されているとはいえ、後述するロングライフクーラントに比べて水道水は沸点が低いため、高負荷運転時には沸騰しやすくなります。密閉された冷却系統内で水道水が沸騰してキャビテーションと呼ばれる気泡が発生すると、いわゆるエアー噛み状態となって循環効率が低下してさらに水温が上昇する原因にもなります。このような現象が重なった結果、オーバーヒートにつながる危険性が高まるのです。
エンジン冷却用に作られたロングライフクーラントの役割を改めて確認

ウォーターポンプのドレンから透明の水が出てくれば、ラジエーター内部とラジエーターロアホースからウォーターポンプまでのホース内部は洗浄できたと判断できる。ただしサーモスタットが閉じた状態ではエンジン内部のサビや汚れは完全に取りきれない。

ホースを突っ込んで水道水で洗浄しても、サーモスタットが閉じた状態ではすべてのサビは落ちないことが分かるだろう。何年も放置したり、リザーブタンクまでコーヒー牛乳状態になっている場合は、覚悟を決めてエンジン周りのホースやパイプはすべて外して洗浄したい。

サーモスタットケースとサーモスタット内のサビに注目。ラジエーターキャップから水道水をガンガン流し入れても、サーモスタットが閉じている限りエンジン内部に水道水は行き渡らない。冷却経路はエンジンによってまちまちだが、サーモスタットを外してサーモスタットケースを閉じた状態で洗浄することで、ウォータージャケット内の汚れの洗浄効果は向上する。
こうした問題を防ぐために使用されるのがLLC(ロングライフクーラント)です。LLCはエチレングリコールやプロピレングリコールを主成分とし、そこにさまざまな添加剤を加えています。
LLCの効能で最も重視されるのは凍結防止性能です。それは昔からLLCが「不凍液」と呼ばれていることからも明らかです。グリコール成分は水の凍結温度を大きく下げる働きを持ち、一般的な濃度であれば氷点下30℃以下でも凍結しません。これは水道水ではどうやっても無理な性能です。
また沸点も水より高くなるため、高温条件でも安定した冷却性能を維持できます。さらに見逃せないのは、アルミニウムや鉄などの腐食を抑える働きを持つ防錆剤や腐食抑制剤の存在です。さらにウォーターポンプのインペラでかき回されたLLCの泡立ちを防ぐ消泡剤なども含まれており、冷却系統全体の安定性を維持するよう設計されています。
ウォーターポンプがらみでいえば、メカニカルシールのフリクションロスを低減させる潤滑材としても作用して部品寿命の延長にも役立っています。
こうした機能性に着目すれば、水道水とLLCはまったく別物であることが分かるでしょう。さらにLLCは単なる凍らない液体というだけではなく、冷却系統を保護するための液体としても重要な役割を担っているのです。
LLCを定期的に交換することで冷却系統のコンディションを維持しよう
もっとも、LLCも永久に性能を維持できるわけではなく、使用を続けるうちに徐々に劣化していきます。その主な理由は、LLCに含まれる添加剤が時間とともに消耗するためです。
エンジン内部は高温環境であり、冷却液は常に加熱と冷却を繰り返しています。この過程で防錆剤や腐食抑制剤は徐々に分解・消費され、金属表面を保護する能力が低下します。
劣化したLLCを使い続けると、ラジエーター内部やウォータージャケットにサビやスラッジが発生しやすくなり、冷却性能の低下を招く可能性があります。さらに、サビやスラッジはウォーターポンプのメカニカルシールを摩耗する原因となり、冷却水漏れを引き起こします。
このようなトラブルを防ぐため、一般的なLLCであればおおむね2年程度、長寿命タイプのクーラントでも数年ごとの交換が必要とされています。
LLCには適正濃度に調整された製品と、冷間時の最低温度に応じて希釈度を任意に変更して使用する製品がありますが、いずれの場合も適切な冷却液を使用し、定期的な交換を行うことがエンジン冷却性能の維持、長期的な信頼性を確保するうえで重要であることは間違いありません。
- ポイント1・水冷エンジンの冷却水に水道水を使用すると、エンジン内部の腐食や冬季の凍結など様々な不具合やトラブルの原因になる
- ポイント2・ロングライフクーラントは氷点下で凍結せず沸点も上昇しエンジン内部のサビやスラッジの発生も防止する
- ポイント3・LLCは永年使用できるわけではなく経年劣化するので定期的な交換が必要
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/maintenance/521542/
水道水はなぜダメ?エンジン冷却水にロングライフクーラントが必須の理由【画像ギャラリー】
https://news.webike.net/gallery3/521542/521552/


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