世界の乗用車販売台数は2025年通年で約7760万台、そのうちBEVは約1352万台だったそう。つまり新車販売台数の約17.2%がBEVになった(PHEVを入れると約26.7%)。いっぽう日本では、乗用車登録に占めるBEVがわずか1.6%にとどまっている。日本に住んでいると「いやEVは今じゃないでしょ……」と素直に思うのだが、なぜ世界ではEVがバンバン売れているのか? そして日本では「まだ」と感じる理由は?
文:ベストカーWeb編集部T、画像:トヨタ、スバル、日産
【画像ギャラリー】bZ4X、SAKURA、ソルテラ……いま日本で買えるBEVたち(13枚)画像ギャラリー世界でBEVが売れている理由は、1つじゃない
まず「世界でBEVが伸びている」という事実を、もう少し丁寧に見ておく必要がある。販売が急増しているといっても、その中身は地域によってまったく異なるからだ。
最大市場の中国では、2024年に販売されたBEVの3分の2近くが、同等のガソリン車より安くなっている。比亜迪(BYD)をはじめとする中国メーカーが電池製造コストを急速に下げ、価格競争力、政策支援、税優遇、充電インフラ整備が重なって「価格で選べるEV」を成立させている。これが中国型の普及モデルだ。
一方の欧州は、価格競争力でいえばまだ課題が残る。それでも普及が進んでいるのは「制度の力」が大きい。EUはAFIR(代替燃料インフラ規則)により、TEN-Tコアネットワーク上に60kmごと150kW級急速充電拠点を義務付けており、公共充電器はすでに100万口を超えた。加えてZEV(ゼロエミッション車)義務化の規制圧力がある。欧州は「安いから売れる」のではなく、「制度が背中を押す市場」なのだ。
米国については、中国ほど価格でBEVを押し切れる市場ではなく、欧州ほど制度で一気に誘導する市場でもない。2025年のBEV販売比率は7.8%にとどまったうえ、トランプ政権が2025年1月に「EV義務化の見直し」と「EV優遇策の縮小方針」を打ち出し、7月成立法で連邦EV税額控除も9月末で終了したため、市場はハイブリッドやPHEV、さらにはガソリン車も含めた“現実路線の選択型電動化”へと重心を移しつつある。
そもそも中国や欧州各国は、いま「国策」としてBEV推しを続けている。20世紀最大の発明ともいえる「ガソリン車(HEV含む)」において、世界各地で日本車のリードは決定的だという現実がある。中国や欧州各国には、このリードに追いつき追い越すための国策という、BEVへ投資を続ける理由と事情がある。
つまり「世界ではBEVが売れている」という一文の裏には、中国の低価格競争と欧州の規制誘導、米国は現実路線へ急速に回帰……という、それぞれまったく異なるロジックが走っている。日本とは前提が違う。
日本でBEVが売れない理由は「遅れ」じゃなく「HEVが強すぎる」から
日本市場を正確に理解するうえで欠かせない視点がある。日本はBEV後進国ではなく、HEV先進国だということだ。
日本自動車販売協会連合会の2025年統計では、乗用車登録に占めるHEVのシェアは60.4%に達している。ヤリスクロス、ノア/ヴォクシー、プリウス、アクア、フィット、ノート……日常の街中で目にするクルマの大半がすでに電動車だ。これらは自宅充電も不要で、給電インフラへの依存もなく、価格もこなれている。
JATO(世界50カ国以上に展開する自動車業界データ調査・分析会社)によれば、2025年上半期の日本でのBEV比率は1.3%にとどまる一方、HEV(ハイブリッド車)は33.8%の高シェアを維持した。欧州や中国では、BEVはガソリン車と直接戦うことになる。だが日本でBEVを売るためには、”非常に完成度の高いHEV”と戦わなければならない。このハードルが、日本市場のBEV普及を根本的に難しくしている要因の一つだ。
日本でHEVが強い理由は言うまでもないが、高い商品力と価格競争力だけではない。豊富なラインナップ、高い整備性、魅力的な使い勝手に加えて、「リセールバリューの強さ」も大きい。3年後、5年後のリセール(下取り価格)が、まだまだ使い方で不透明なところもある(少なくともそういうイメージのある)BEVに比べて、HEVは長い流通の歴史があって、中古車店やオークションの信頼が厚い。多少走行距離が多くても人気車であれば「これくらいなら下取れる」という共通認識がある。
量販価格帯のBEVが、日本にはまだ少ない
そのうえで、「じゃあ日本でBEVを買おうとしたら、どんな選択肢があるのか」。ここにも現実の壁がある。
JATOによれば、2025年上半期時点で日本市場に投入されているBEVは61モデル。一見、選択肢は増えたように見える。しかし内訳を見ると、日系ブランドはわずか10モデル、残る51モデルは輸入ブランドだ。さらに409万円以下のBEVは6モデルしかないのに対し、同じ価格帯のHEVは34モデルある。
日本の新車購入の主流は、300〜400万円台のコンパクト〜ミドルクラスだ。この量販価格帯で、BEVはHEVに大きく水をあけられている。モデルが少なければ、そもそも「買う」という検討が始まらない。
PwC Strategy&の「eReadiness調査2024」によると、日本のEV懐疑派は74%と、調査対象の国・地域のなかで際立って高い。いっぽうで興味深いのは、EV所有者に限って聞けば「継続購入意向」が8割に達していることだ。「使ってみたら不満だった」というより、「まだ買う前の不安が大きすぎる」という構造になっている。
購入を阻む主な不安は、充電時間、バッテリーの耐久性、航続距離への懸念。そしてDeloitteの2025年グローバル自動車消費者調査でも、日本では「次回はガソリン車に戻す」という回答が34%から41%へ上昇している。これはEVオーナーの反乱ではなく、未購入者の様子見が続いていることの表れと読むべきだろう。
充電インフラについても、経産省は2024年度末時点で国内約6.8万口(うち急速約1.2万口)を整備済みとし、2030年に30万口を目標に掲げている。数の拡大は進んでいる。ただNRIが指摘するように、課題は「量」から「質」へ移りつつある。充電器の空き状況が分かりにくい、検索・予約・決済が分断されている、都市部マンション(特に分譲)では合意形成が壁になる――こうした「使い勝手」の問題が、次のボトルネックとして浮上している。
そもそもの話として「充電ビジネス」が軌道に乗っていない以上、近所の充電器も旅先の充電器も、いつ故障して使えなくなるか分からない状況が続いている。「サービスエリアに急速充電器がある」というので行ってみました、2口あったけど1口は充電中で30分待ち、もう1口は故障中……、となったら(いまの日本の地方部では普通にありうる)旅の予定はガタガタになる。
日本のBEV普及、カギを握るのは軽EVと量販価格帯
では、日本でBEVは永遠に普及しないのか。そうは言い切れない。
JATOは、日本でのBEV普及の現実的な起点として軽BEVの役割を指摘している。日産サクラ/三菱eKクロスEVが一定の支持を集めたように、近距離用途・自宅充電前提・低価格という条件が揃えば、日本の生活スタイルにフィットするBEVの形はある。CセグメントのBEVで400万円を切るモデルが日系ブランドから揃ってきたとき、市場の空気は変わるかもしれない。今夏にはBYDが日本向けに軽自動車規格の両側スライドドアを持つ「RACCO」を、満を持して投入してくる。これが一気に「黒船」になるかもしれない。
まとめると、日本でBEVが伸びない理由は「日本人が特別にEV嫌いだから」ではない。HEVという、不満の少なく、優れた電動車がすでに市場を制覇しており、そのうえで価格・モデル数・充電事情・住宅事情・リセールバリューといった実用面のハードルがまだまだ残っているからだ。「遅れている」のではなく、「別の合理性のうえに立っている」と見たほうが、日本市場の実態に近い。
もちろん本稿は、「生活実態がBEVに向いている人」をまったく否定しない。自宅に充電器を設置できて、近所づかいや決まった距離(たとえば通勤)の需要であれば、BEVは内燃機関搭載車よりも多くの面で優秀な道具として活躍する。本企画担当者の友人はBEVを購入して「ガソリンスタンドに行かない生活がこんなに快適だとは思わなかった、もう内燃機関搭載車には戻れない」と衝撃の報告をしてきた。
「そういう人」がいてもいいが、一方で「そういうわけにはいかない人」もたくさんいる。それぞれのドライバーにはそれぞれの事情や生活があるので、ライフスタイルに適したクルマを、賢くじっくり選んでいきましょう。
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