●写真:小川裕之/カワサキモータース 撮影:東京ドイツ村
ベストセラーZ900RSがモデルチェンジ。電子制御の充実が話題だが、実はカムプロフィールの変更やクランクマスの軽量化などハード部分にも手を入れ、パワー&扱いやすさも向上しているのだ。見た目はあまり変わらないのに、その確かな進化に舌を巻いた。
シンプルに感心してしまう。
「本当によくできたバイクだよなぁ」
何の意図もなく、試乗中に自然と漏れ出た言葉である。久しぶりに乗ったZ900RSは電子制御スロットルやクルーズコントロールの採用など現代的なアップデートが話題だが、そういうことではない。バイクが持つ本質的な「良さ」や「バランス」を本当に上手に体現しているのだ。素直に感心するとともに、何年もベストセラーでい続けることにも納得である。
ティアドロップタンクと丸ライトと砲弾型メーター、快適そうなシートと汎用性の高いポジション。誰もがなんとなく連想する「バイクってこういうカタチ」というのがまさにZ900RSの姿だ。王道ど真ん中、奇をてらわず、「これがバイクってぇもんよ!」と言わんばかり。そして乗り味もこれまた正統派。直球で勝負してきて勝ちまくった。
そろそろその歴史も10年になろうとしているが、その魅力が全く色褪せず、また販売も落ち込むことがないのがそのコンセプトの正しさを物語っている。
本当に、そのコンセプト、存在、そして乗り味も、改めて感心するのである。
電子制御の充実
Z900RSのアイコンはもちろん、Z1(900SUPER FOUR)であるし、先代まではスタイリングだけでなくエンジンのフィーリングやポジションまで含めてZ1らしさを追求していた。大アップハンや低回転域からズオッ!と出るトルクといった味付けがまさにZ1的であり、当時を知っている人からすれば「なるほどね」と笑顔が浮かぶし、そうでない人にとってはシンプルにダイナミックで乗りやすいバイクだった。
そんなZ900RSにとって初めての大幅なモデルチェンジである。トピックは電子制御の充実だろう。電子制御スロットルは各種制御に有効だがライダーにはあまり関係のないところ。対して従来のトラコンにIMUからの情報を加えることで、コーナリングをサポートする新たな「KCMF(カワサキコーナリングマネジメントファンクション)」の採用はありがたいところだ。これはコーナリング中にエンジンパワーやブレーキ効力を最適な状態にコントロールするというもの。理想のコーナリングラインをサポートしてくれる。
またIMU搭載によりABSもコーナリングABSへと進化。バンク中でも適切に作動するためKCMFと合わせて安心感・安全性を高めている。
さらに日常的にありがたみを感じられるのは、クイックシフターの採用とクルーズコントロールか。ベテランライダーではあまり使わないという人もいるが、現代の大排気量バイクにとってはもはや当たり前の装備となっているし、新規ライダーにとってはあって当然の装備。こんなアップデートもまたZ900RSが各世代から今後も受け入れられていくことを予感させる。なお試乗日に試すことはできなかったが、スマートフォンとの接続機能も追加されている。
これら電子制御がてんこ盛りなのにもかかわらず、従来の2眼アナログメーターのままで成立させているのには感心するとともに、カワサキのこだわりというか執念のようなものを感じずにはいられない。
メーカー純正チューンはカワサキお家芸
わかりやすい新機能の搭載はアピールしやすい項目だが、それよりも大きな変化がハード面で行われている。
見てすぐにわかるのがポジションの変更だ。これまでは大アップハンがZ900RSの定番であり、かつZ1とリンクしたタイムレスなアイデンティティでもあったように思うが、新型ではこれまでに対してグリップ位置を50㎜内側に、高さは38㎜下げた新設計のナローハンドルを採用する。
同時にシートもタックロールを大型化させ、その内部のクッションもプラスした。これにより数値上はシート高が上がっているが、実際に座ると足されたクッションが沈み込むため着座時の足つきは先代と同等となっており、快適性だけが向上している。
なおステップ位置は従来通りのため、ライディングポジションの変化は従来型に対して上半身が適度に前傾した、というもの。ただこれがZ900RSの印象を大きく変えており、(後述するが)乗った印象はずいぶんと違うのだった。
エンジンへの変更も見逃せない。新旧のパワーカーブを見比べると、先代に対して新型は常用域のパワーやトルクが先代を下回るのに対して、高回転域は向上している。これは高回転化した、ということなのだが、この変更には市場からのフィードバックが大きく反映されているという。これまでのZ900RSは低回転域のトルクが太くしてあったため、常用域ではむしろ意図以上にグッと前に出てしまう、という意見があり、また反対に高回転域はもう少し伸びてパワーが出れば、という要望もあったとか。これに対応したのがこの新たなエンジンのパワー設定だ。
これを生み出すのに、スロットルボディはZ900のものと共通とし、カムも新たに作用角とリフト量を変更。圧縮比も10.8から11.8へと高め、クランクマスも10%低減。加えてミッションをクロス化させ、さらにファイナルはショートへと振るなど変更は多岐にわたる。メーカー純正チューニングというこれらメニュー、新たに搭載された電子制御以上にお金がかかっている部分だろう。
電子制御の充実も歓迎ではあるが、今回のモデルチェンジでこれだけハード面に手が入っているその様は、かつてZ1がZ1000、マーク2、そしてJ系へと純正チューンを重ねていったその歴史もチラついてしまい興奮してしまった。
Z1からゼファーへ
議論を呼びそうな見出しを付けたが、Z1が絶版車のエースならばゼファーも今やキングぐらいの位置にいるだろう。Z1をモチーフにしたモデルという意味ではZ900RSの先輩にあたる、これまた名車である。
そんなゼファーの名前を出したのは、今回のモデルチェンジがどこかゼファー的に思えたからだ。エンジンのパートで「負圧キャブになったかのよう」と少々マニアックなことを書いたが、その負圧キャブ感とハンドルが低くナローになったことで、「あれ? なんだかゼファーみたいになったな」と思ったのだ。逆に言えば、大アップハンと低回転域でゴリッと出るトルクなどは、Z900RSとしての味付けではなく本当にZ1のあの感覚を追求していたのだな、と改めて知らされた思いだ。
ハンドルが低くなってより車体との一体感が高まったこと、エンジンがより素直でモダンな直4らしい(と言ってもZ1からゼファーへの時代を言っているのだからだいぶ昔のことではあるが)テイストになったことにより「2026年Z900RSはZ1からゼファーへとそのフィーリングが変わった」とここに記すのはとても前向きな意味であることを強調しておきたい。ある意味Z1の呪縛から解き放たれたというか…。
というのも、大アップハンと低回転域トルクの先代までの性格は確かに面白かったし、Z1的であったことも再確認できたが、Z1はもともと19インチのフロントホイールを持つなどディメンションが現代のバイクとは大きく異なっていた車種。それに対してゼファー(750)は前後17インチで現代の感覚に近い車体レイアウトである。ポジションもエンジンの反応も、2026年モデルの方が車体の設定に対して自然に感じたのは間違いないし、元気さがプラスされた高回転域を思うと適度な前傾も納得なのだ。
今回の変化でZ900RSは、まだまだ現行車ではあるもののZ1とゼファーに続く、ジャックぐらいの位置に収まったような感覚を得たのだった。
それぞれが違う個性を持つ3つのバリエーション
ブラックボールとカフェ

シート高の数値は先代の800㎜から810㎜と高くなっているが、それは大きくなったタックロールの中のウレタンゴムのせいであり、これは座ってしまえば潰れるため着座時のシート高および足つきは先代と同等になる。クッションが増えたことで快適性も増しているはずだが、筆者の感覚としては先代と変わらないか、少し尻の骨に当たるような気もした。というのも、ハンドルが下がったことで上半身が前傾し、これまで尻っペタでシートに座っていたのが、骨盤が起きたことで尻の骨がよりシートに食い込むようなポジションになったからではないかと思う。タンデムシートの広さはタンデム走行はもちろんのこと、荷物の積載にも助かる設定。荷掛けフックやヘルメットホルダーといった実用装備に抜かりがないのはさすがカワサキだ。
今回の試乗は話題の新色を纏った新型Z900RS“ブラックボール”と、レインボーラインを配しこれまたカワサキファンを喜ばせた“カフェ”、そして豪華足回りを奢る“RS”の3台となった。
一番スタンダードとなるのがブラックボールだ。発表時は定番の火の玉カラーほどの注目度はなかったが、発売されて店頭に並びその凝ったカラーリングを実際に見ると瞬く間に人気となったそう。様々なカラーリングが展開されてきたZ900RSだが、「いっぺん力の入ったブラックを作ろう」とこのカラーリング展開が決まったそうで、ブラックだからこそ表現できるカタマリ感を重視している。実物を見るとなるほど、写真でその魅力を伝えるのは難しいのかもしれないと実感。非常に凝ったカラーである。実車は足回りや排気系の一部までブラックとするだけでなく、チェーンまでブラックを採用するなど細部まで作り込まれている。
いざ走りの方だが、文頭に書いた通り「よくできてるよなぁ」と改めて感心する。誰でもスッとなじめるハードルの低さは健在で、ツーリングだろうが街乗りだろうが、あらゆる使用目的を幅広く楽しませてくれそうな「これぞスタンダード」という存在が良い。
説明書など読まずとも誰でも直感的に扱うことができるし、ハンドリングもブレーキもどこにも「急(きゅう)」がなく常にスムーズに意図通りの反応をしてくれる。Z900RSが築き上げてきた魅力はそのまま2026モデルにも引き継がれており、様々なモデルが各社から登場する現代だからこそ、このスタンダードさがなお光る。

ポジション的に大きな変更となったハンドルは先代に比べ50㎜内側に、38㎜下に変更されたナロータイプ。車両の全幅は先代が865㎜だったのに対して815㎜となっているのだから全体的にかなりコンパクトになった印象がある。堂々とした感覚は先代の方が高かったかもしれないが、17インチのフロントホイール径に対して適切なハンドル幅になった感覚で、自然操舵を阻害しないナチュラルなスポーツ性も加わったように感じるし、ストリートでは幅が狭くなったのはありがたい。2眼のアナログメーターは雰囲気もあるが、何よりも一瞬で必要な情報が読み取れるという意味でシンプルで安全に感じた。電子制御が充実したのにこのメーターのまま対応したことに拍手を贈りたい。個人的には電子キーとせずメカニカルキーのままというのもバイクらしくて好きである。
そのうえで先代からの変化だが、これが実はけっこう違うのが面白い。モデルチェンジに当たって低回転域はマイルドに、高回転域はもう少し元気に、という要望があったとすでに記したが、実は筆者も全く同じことを思ってきていた。低回転域はちょっとツキが良すぎてギクシャクする感もあるな、反対に高回転域はせっかくDOHC4気筒なのだからベースとなったZ900のようにもう少し突き抜ければいいのに…と。
それが見事に解消しているのである。低回転域はトルクがなくなったとは感じさせずにシンプルにスムーズになっているのがありがたい。まるで直引きのキャブが負圧式になったように、開けクチに優しさが加わっており、そこからアクセルを開け増すとググっとトルクがついてくる。特に渋滞中など低速域でアクセルを開けたり締めたりが多い場面でこの進化は本当にありがたい。先代はアップハンということもあり、ツキの良さゆえに上半身が前後にゆすられることがあり、低速時はクラッチを滑らせてあげてツキの良さを逃がす、などというビッグツインなどで使うような小技を使ったものだが、新型ではそれが必要ないのだ。これは低速域だけでなくUターンなどでも活きる変更で、誰でも好意的に受け止めることだろう。
逆に高回転域は右肩上がりにパワーが溢れる感覚がプラスされた。先代までは7500RPMを超えるあたりから回転上昇が鈍ってフラットにフケ切る印象があったのに対し、新型は9500RPMまで力強く引っ張ってくれるのだ。スペック的には先代が8500RPMで111PS、新型は9300RPMで116PS。ただ実際はもっと違いがあるように感じるし、高回転化した感覚は強く、また高回転域でのフリクションも減った感覚がある。
この2点の変更により、常用域ではより親しみやすさが増してハードルが下がったと同時に、いざ高回転域を使うような積極的なライディングをしたいときにはしっかりと応えてくれる爽快さもプラスされた。確かな進化であり、良きスタンダードのZ900RSがさらに素直になったと感じさせられた。
カフェとSE
バリエーションモデルとして、カウルの着いたカフェと、豪華足回りのSEも継続ラインナップされる。機能的な内容はスタンダード版と同じだが、2機種ともカラーにこだわりがあった。
カフェの方はいわゆる「レインボーカラー」だ。カワサキの歴史的にはファンを喜ばせるグラフィックではあるが、レインボーといえばマッハでありZではないような印象もある。しかし開発陣によれば、「カワサキの歴史的にスポーティで高性能なバイクといえばマッハ!というイメージもあると思います」とのこと。なるほどそうだし、カフェの方はかつてライムグリーンも展開するなど、いわゆるZ1のカラーにとらわれないカワサキの伝統色を取り入れてきた歴史もある。また、カフェはスポーティ路線であることもあって、「立体エンブレムはちょっと違うと思うんですよね」とのこと。スポーティな車種はKAWASAKIのエンブレムが塗装やデカールの方がいいのではないかというわけだ。そんな風に考えたこともなかったが、言われてみればなるほどそうかもしれない。そんなわけで2026カフェはレインボーカラーとこのKAWASAKIエンブレムを採用したわけである。
車体の印象はブラックボールの方とほとんど変わらない。ハンドルが少し低く妙にワイドなのは先代から引き継ぐ特徴だが、スタンダードの方もハンドルが低くなったおかげかカフェに乗り換えても違和感は少なかった。シート形状が独特のため、全開加速時は尻をホールドしてくれる感覚がスポーティな印象も得たが、同時に普段乗りでは筆者のように高身長でもそれが窮屈さを生まないのは絶妙に思った。

大きなビキニカウルはクラシカルなテイストで丸ライトによく合った造形。今回の試乗では防風性について語れるほど速度を出せなかったが、耐候性は期待できるだろう。また塗装やステッカーチューンの楽しみもありそうだ。

ワイドなハンドルもカフェの特徴。今回はスタンダードの方も低くなったため乗り換えてもあまり違和感はなかったが、ぴょんと飛び出すミラーには特に車幅を感じてしまう。スタンダードの方はハンドル取り付け部がファットバーとなっているのに対し、カフェは通常のハンドルなのが興味深い。

いわゆる「レインボー」カラーはマッハのものではないかと思ったが、Zのスタイリングにもよく合うことが今回証明された。Z900RSのスポーティ版という位置づけのカフェでは、エンブレムが立体ではない方がいいだろうとのこと。
SEの方はいわゆる火の玉カラーなのだが、実はオレンジではないところがブラックとなっているのが新しい。通常の火の玉カラーはオレンジとブラウンのため、ブラウン部がブラックとなっているのは何とも奇妙な感覚がある。ただこれはオレンジをより際立たせるためということで、オレンジそのものもより鮮やかな色身としたそうだ。
乗り味は他の2台と明確に異なり、またがった瞬間からリアが高いのがわかる。体重をかけたときの沈み込みの少なさや、より減衰が効いている感覚なのか、とにかくリア回りがしっかりしており、相対的にフロントが低く感じて、低くなったハンドルがさらに低い印象がある。
のんびり走っているときはノーマル比で多少ゴツゴツしたような印象になるのは致し方ないのだろう。そもそもオーリンズとブレンボを奢ったこの豪華仕様はあまりのんびり乗る設定ではあるまい。ただペースを上げていくとビシッとラインをトレースする感覚が本当に気持ちいい。フロントに荷重が乗ってグイーッとコーナーを切り取る感覚はまるでセパハンかのようだし、それだけ積極的に走ると元気になった高回転域も常用することになるのだからますますアドレナリンが噴き出す。またこの高回転域が気持ちいいのだ! ザラッとした回転フィールは今回吸気ファンネル長を変更したことも効いているのだろう。カワサキらしいと感じさせるとともに、まさに「官能的」なのである。
これは気持ちいいぞ!とペースが上がるのだが、そうなったときにしっかりネイキッドモデルらしい手ごたえがあるため充実感が高い。スポーティなのに、例えばSSモデルのような硬質な切れ味があるわけではなく、代わりに豪快で包んでくれるような感覚。車体の上に乗っているというよりは、車体と一体となってコーナーに飛び込んでいく興奮がある。高回転域のエンジンの咆哮や適度にブルルッと震える車体など、気分はもうTOTレーサー。サーキット走行も検討するのであればSE一択だ。

ハンドル左側にはUSBタイプCの電源ソケット。若干大きなユニットに見えるがこれも防水性や耐震など純正クオリティゆえだろう。なおSEに限らず全グレードでETC2.0は標準装備され、その作動はメーター内にて確認できる。
「タイムレス」とはこのことか
Z1らしさ、ゼファーらしさ、あるいは各時代のZ系マシンに思いをはせるような試乗となった2026年Z900RS。「何を言ってるんだ」「そんなことはないだろう」と思う人も必ずいるはずだ。しかしカワサキはZ1を起点とした歴史が濃いだけに、開発者もユーザーも、そして我々ジャーナリストも様々な解釈で時の流れを楽しんでしまうのも、またカワサキの魅力に思う。
カワサキが掲げる「タイムレス」という言葉、
「タイムレスとは変わらないことではありません。本質的な価値を守りながら、次の時代へと進み続けることです。Z900RSと共に走り出す時、あなたはZが紡いできたレトロスポーツの哲学を未来へと語り継ぐ存在となります」
とある。
Z1やゼファー、レインボーカラーとカフェの存在、TOT……まさに様々なことを連想させてくれ、そこに物語を見出してしまうのは哲学的なのかもしれない。カワサキの術中にはまってしまったようで、少し悔しい想いだ。
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/motorcycle/542096/
【2026年新型「Z900RS」試乗】紡がれる カワサキのヒストリーストーリー【画像ギャラリー】
https://news.webike.net/gallery3/542096/543023/













コメント
コメントの使い方