日本ではクルマの中でラジオをつける人は、年々静かに減っている。簡単にスマホをクルマに接続できるようになり、音楽を聴く環境が劇的に変わったことが大きな要因だろう。「ラジオ不要説」が出てくるのも当然の流れだと思うが…どうやらアメリカでは逆の動きになっているという。
文:古賀貴司(自動車王国) 写真:ベストカー編集部
【画像ギャラリー】高級装備だったのも今は昔、、、どうなる車載ラジオ(3枚)画像ギャラリー緊急時の装備としてやっぱりカーラジオは必須?
とある広告代理店調べによると車内利用メディアの首位は10〜30代で音楽ストリーミングに移り、AM/FMラジオが依然トップなのは40代以上に限られるという結果が出ているそうだ。
気づけばラジオは、クルマの「デフォルト音源」の座を若い世代から静かに明け渡されつつある。
クルマとラジオの距離が開きつつある日本と比べ、アメリカでは真逆の動きが起きている様子だ。というのも、アメリカ議会では新車すべてにAM受信機の搭載を義務付ける「AM Radio for Every Vehicle Act(全車AMラジオ搭載法案)」が再浮上し、下院交通インフラ委員会が62対2の圧倒的賛成を獲得。
9月30日の高速道路予算期限までの成立を目指し、超党派の支持を背景に成立の可能性は高いとみられている。アメリカ議会がAMラジオを重視しているのは、“有事における独立した通信網”としての価値にある。
自動車メーカーや部品メーカーからは猛反発
AMが使う中波は電離層で反射しやすく夜間には遠方まで届くため、災害や通信インフラの崩壊時にも電力や通信網に依存せず情報を届けられるのだ。
一方、主要自動車/自動車部品メーカーが加盟する業界ロビー団体、Alliance for Automotive Innovation(Auto Innovators)は猛反対している。
CTA(家電・IT業界団体)、ZETA(EV業界団体)、TechNet(通信業界団体)と共に議会へ反対書簡を提出し、ワイヤレス緊急警報や、複数の警報網を一括配信するIPAWS(統合公共警報警告システム)、デジタル音声放送といった代替手段がすでに存在すると訴えている。
加えて、単純な話、AM受信機の搭載コストが莫大であるからだ。さらにEVとAMラジオの相性の悪さも争点にあがっている。
EVの高電圧システムが発する電磁干渉(EMI)によってAM信号が歪み、遮蔽ケーブルやノイズキャンセリングなどの対策を講じても干渉を完全には除去できないとAuto Innovatorsは説明する。
同団体はまた、米国内の稼働車両約2億8600万台の99%がAMラジオを搭載済みで、義務化せずとも当面AMラジオはクルマから消えない、とも主張している。
日本に話を戻すと、総務省と民放連の主導により国内の民放AMラジオ47局のうち44局が、2028年秋までにFM放送へ転換する計画を進めている。
老朽化した送信設備の維持コストや広告収入の減少が背景にあり、経営基盤の強化が目的とされる。
日本のラジオ環境は近い将来どうなる?
アメリカが“AMを守る”方向に動く一方、日本は“AMを畳む”方向に動いているという対照が際立つ。
ただし2028年にFM局へ転換しても、即座にAMが停波するわけではない。
多くの局はAM波を補完的に運用し続ける一方、東京の在京3局(TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送)は将来的なAM完全停波も視野に入れている。なお、北海道と秋田県の3局はエリアの広さからFM転換を見送る方針だ。
クルマとラジオの関係が変わりつつあるという現実を前にしながら、日本とアメリカではまったく逆の結論を出しつつある。
コスト効率と経営合理性を優先すれば、日本型の「FM転換」は理にかなった選択だ。
一方、96%ものドライバーがAM/FMラジオを「必須」と答える世論を背景に、“有事における独立した通信網”としてAMラジオ搭載を法制化しようとしているのがアメリカである。
自動車の電動化が進むほど、AMラジオという古い技術との相性は悪化していく。
それでも聴かれなくなったから不要、という論理だけでは片付けられない事情が、この問題には潜んでいる。
9月30日の期限まで、ワシントンでの攻防はまだ続く。
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