ホンダの最新かつ最高の技術が投入されている、同社が誇るフラッグシップセダン「レジェンド」。SPORT HYBRID SH-AWDをはじめとした動性能は一級品、デザインも随所に工夫が織り込まれ、税込720万5000円。同じシステムを積むNSXが2420万円もすることを考えれば、むしろ安いようにも思える。
しかし、現行型レジェンドは、月間販売台数が2桁、と苦戦している。なぜレジェンドはなかなか振り向かれないのだろうか。
文:吉川賢一/写真:HONDA,TOYOTA,NISSAN,Audi,BMW,Mercedes-Benz
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乗れば分かるレジェンドの良さ
現行型レジェンドがデビューしたのは2014年11月。5030×1890×1480(全長×全幅×全高mm)という立派なサイズのボディをもち、横置き3.5リッターV6エンジン+7速DCTで、前輪は1モーター、後輪は左右輪それぞれに配置した2つのモーターで駆動する、SPORT HYBRID SH-AWDを採用している。
このシステムは、主に前輪で駆動し、状況に応じて後輪にも駆動力を分け、しかも後輪の左右で駆動力に差をつけることができるシステムだ。コーナーでは、曲がる側とは逆側の後輪に駆動力を多く配分して、クルマを後押しし、クルマ自身に「第2の曲がる力」ともいえる旋回力を生む、世界初の技術である。これにより、意のままのコーナリングが可能となっている。
また、ジュエルアイLEDヘッドライトは、デザイン要件だけでなく、フロントのオーバーハングにある重量物を小さく、軽くすることを目的で新開発されたもので、重たいヘッドライトユニットをいかに縮小化できるかに苦心したという。光源から出た光を、ヘッドライトユニットの中で複雑に反射させて前に照射することで、奥行きを縮めることに成功。レンズは肉厚にしても透明かつ軽量な、ポリカーボネート製にしている。
現行レジェンドは、2018年2月にビッグマイナーチェンジを受けており、前後バンパーのデザイン変更、トランク容量拡大、ボディ組立時の接着剤の塗布範囲の拡大による車体剛性向上、足回りの再チューニング、といった、車両全体にわたるブラッシュアップが施されている。
このように、クルマに備わる装備や構成には、特に弱点もなく、非の打ち所がないように思える。では、なぜレジェンドは売れないのだろうか。もちろんレジェンドがあまり浮上してこない理由としては、世界的なセダン需要の低迷の影響もあるが、他にもこんな理由が考えられる。
ショーファードリブンになり切れていないレジェンド
フラッグシップカーといえば、トヨタのセンチュリーや日産のシーマなど、ショーファードリブンなクルマが多く、伸びやかな全長のボディに長いホイールベースのおかげで、後席スペースが非常に広く、企業重役が仕事をしたり、リラックスしたりと、悠々と過ごすことができる空間を持つようなイメージを思い浮かべる。
しかしレジェンドの場合は、クルマの性格を考慮すると、一つ下のカテゴリのラグジュアリーセダンに属し、国産車だとクラウンやフーガ、外国車だとBMW5シリーズやベンツEクラスのようなドライバーズ・カーがライバルとなり、「スポーツサルーン」のイメージがどうしても強い。
5メートルを超える全長に対し、短いホイールベース(2850mmはV37型スカイラインと一緒)など、いわゆる「ショーファードリブン」になり切れておらず、フロントタイヤから前と、トランク部分といった前後のオーバーハングが異様に長く見え、サイドからのプロポーションのバランスがあまりよろしくない。優雅さがあと一歩足りず、こうした高級車を求めるユーザーにバシッと刺さらないのだ。
SPORT HYBRID SH-AWDにしても、自身がステアリングを握るならまだしも、後席に座る方が望んでいるとは到底思えない。仮に、後席乗員の快適性を飛躍的に引き上げるために、上下・左右・前後、すべての方向の加速Gを抑える(※加速Gの変動を抑える)といった駆動システムであれば、レジェンドの「売り」として一押しできたのかもしれない。
今のレジェンドは、ホンダの技術力の高さを示す「テクニカル・フラッグシップカー」には間違いない。しかし、アコードやインサイト、シビックなど、ヒエラルキー下位にあたるクルマのサイズや技術が進歩して、上位車と差がなくなってきた昨今、レジェンドはさらに飛んで、超大型&ロングホイールベースのサルーンにするなど、変化球にしてもよいのではないだろうか。
そうしたホンダチャレンジを、見てみてみたい気がする。
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