「自分の運転、実際のところ何点なんだろう?」――ライダーなら一度は気になるそんな疑問に、スマートフォンだけで答えてくれる技術が登場した。ホンダはUber Eats Japanと連携し、スマホのセンサーで二輪車の運転を診断する「二輪安全運転診断アプリ」の共同実証を実施した。9月1日から28日までの4週間、全国のUber Eats配達パートナー約1500名が実際の配達中の運転を計測し、安全運転につながる行動の変化が生まれるかを検証した。実証に先立つ8月31日には埼玉県のホンダ「交通教育センターレインボー埼玉」で体験取材会が開かれ、編集部もアプリを使った走行診断を体験してきた。
ブレーキやコーナリングをスマホで分析! 約1500名の配達パートナーが参加
今回の実証の最大のポイントは、バイク側に専用機器を取り付ける必要がないことだ。普段使っているスマートフォンだけで、アクセル、ブレーキ、ステアリングといった運転操作を項目ごとにスコア化し、「安全運転スコア」として可視化する。
対象は、原付またはバイクで配達を行うUber Eatsの配達パートナー。国内では過去1カ月に注文を届けた配達パートナーが約12万人おり、その中から実証への参加者を募集して約1500名を選んだ。参加は任意で、実証に興味を持った配達パートナーが自ら応募した。近年のUber Eatsでは自転車だけでなく原付やバイクによる配達の割合が増えており、二輪車の安全対策はこれまで以上に重要になっているという。
バイクの運転をスマホだけでどうやって判定する?
クルマでは、急加速や急ブレーキをスマートフォンや車載機器で検出して運転をスコア化するサービスはすでに珍しくない。だが、これをバイクでやろうとすると一気に難しくなる。
というのも、バイクはクルマのように車体がほぼ水平のまま走る乗り物ではないからだ。コーナーではライダーと車体が一緒に傾き、ハンドル操作だけでなく車体そのものを倒し込んで曲がっていく。さらに車体が軽く、路面やエンジンの振動もスマートフォンのセンサーに入りやすい。つまり、スマホが検知した動きのうち「ライダーの操作」なのか「単なる振動」なのかを見分ける必要があるのだ。
ホンダはこの課題に対し、自社の車両データと統計処理を組み合わせた独自ロジックを構築。スマートフォンから得られたセンサーデータを解析し、ブレーキングや車体の傾きといった二輪特有の動きを判別できるようにした。
インストラクターが持つ「感覚」もアルゴリズム化
面白いのは、単純に「急ブレーキだから減点」といった仕組みではないところだ。ホンダは50年以上にわたって安全運転普及活動を続けており、交通教育センターではプロのインストラクターがライダーの走りを見ながら「このブレーキは余裕がある」「この操作はもう少し改善できる」といった判断を行っている。
こうした判断には、長年の経験から身についた“感覚”のようなものも含まれる。今回の診断技術では、インストラクターが持つこの暗黙知と、開発テストライダーの実走行データをもとに、減速度や車体挙動などの数値へ置き換えてアルゴリズムに反映しているという。単にスマホのセンサー値を見るのではなく、「ホンダが長年考えてきた安全なバイクの乗り方」をデジタル化しようとしているわけだ。
その背景にあるのが、ホンダが掲げる安全目標だ。同社は「2050年にホンダの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロ」を目指しており、その通過点として2030年に死者半減を掲げている。新車だけでなく、市場に現存するすべてのホンダ車や相手車両、歩行者までを対象とする目標であり、すでに走っているライダーの運転そのものに働きかける今回の技術は、その具体策のひとつといえる。
走りながら「今のブレーキは○点」と教えてくれる
取材会では、二輪安全運転診断アプリのデモ版も公開された。編集部も実際にアプリを使い、ホンダが用意したバイクで走行診断を体験した。会場の交通教育センターレインボー埼玉のコースには、配達で使われるスクーターのDioと、ネイキッドのCB400 SUPER FOURが用意された。
デモ版では、ブレーキやコーナリングを行うと、その場で運転内容をスコアリング。さらに音声によるリアルタイムフィードバックも行われる。停止時のブレーキングや、カーブを曲がった際のステアリング操作などを判定し、その結果を走行中に知らせてくれる仕組みだ。
走行後には、診断結果をスコアや地図で確認できる。ブレーキ、アクセル、ステアリングのそれぞれに評価が付き、さらに「急減速」「反応」「停止のなめらかさ」といった細かい項目ごとの採点も表示される。地図上には評価の低かった地点が示され、「この交差点でブレーキの評価が低かった」「このカーブではスムーズに走れていた」といった形で、自分の走りを後から振り返ることができる。
実際に体験してみると、スマートフォンをポケットに入れたまま走れる手軽さが印象的だった。普段は感覚だけで済ませているブレーキングやコーナリングがスコアとして返ってくるため、自分の操作を客観的に振り返れるのも面白い。ライディングスクールでインストラクターからアドバイスを受ける感覚を、スマートフォンで疑似的に実現しようとしている、と考えると分かりやすいかもしれない。
Uber Eatsの実証では「音声アドバイス」はOFF
ただし、Uber Eatsの配達パートナーが使用するアプリは、取材会で体験できたデモ版とは一部仕様が異なる。配達中は何より運転や業務への集中が優先されるため、リアルタイムの音声フィードバックや地点ごとのアドバイス機能は使用しない。アプリはバックグラウンドで作動して配達中の運転データを取得し、走行後にスコアを確認する形とした。業務中に余計な情報を与えないよう配慮した仕様と言えそうだ。
安全運転すると報酬アップ!? スコアとインセンティブを組み合わせる
今回の実証で興味深いのが、運転スコアとインセンティブを組み合わせていることだ。「Uber Eats 安全運転キャンペーン」として実施され、期間中に150km以上走行した参加者全員に5000円を、さらにスコアの上位10名には1万5000円を追加(最大2万円)で支給するというもの。アプリにはスコアのランキングも表示された。
ただ「安全運転しましょう」と呼び掛けるだけではなく、安全に走ることでスコアが上がり、それが報酬にもつながる流れを作ることで、実際に運転行動が変わるかを検証したわけだ。ホンダによれば、目的は単に良い・悪いを判定することではなく、「自分の運転のどこが良かったのか」「どこを意識すればもっと安全になるのか」にライダー自身が気付くことにあるという。
すでに「危険予測トレーニング」でも連携中 Uber Eatsの安全対策も進む
実はホンダとUberの安全に関する連携は、今回が初めてではない。両社は2025年から二輪車の交通事故低減に向けた取り組みを進めており、その第1弾が、ホンダの危険予測トレーニング「KYT」のノウハウを活用した安全啓発コンテンツだ。2025年3月からUberアプリで配信され、実際の交通場面を再現した映像の中から利用者自身が危険箇所を探す内容になっている。単純に「ここが危険」と答えを見せるのではなく、「この場面では何が起こる可能性がある?」と自分で考えさせる仕組みだ。2025年11月と2026年6月には、ホンダのインストラクターによるオンライン安全運転講習も実施している。
Uber Eats側でも、さまざまな交通安全対策を進めている。直近では2026年8月から、スマートフォンのGPSやセンサーから走行データを取得し、速度超過を検知すると配達パートナーに警告を送る機能を全国で導入した。速度超過が繰り返し検知された場合には、アプリへのアクセスを一時的に制限し、安全講習の受講を求める。そのほかにも、一定時間稼働した際の休憩措置、運転中のチャット通知の抑制、重量物の注文を四輪車へ優先的に割り当てる仕組み、AIを使ったヘルメット着用確認などを実施。ヘルメットや胸部プロテクター、リフレクター付きジャケットといった安全用品の普及にも取り組んでいる。
スマホの性能差や、一般ライダーへの提供は? 質疑応答から
今回のシステムで気になるのが、「スマホによってセンサーの性能が違うのに、正しく診断できるの?」という点だろう。特にAndroid端末は数万円のモデルからハイエンドまで種類が非常に多い。ホンダではさまざまな端末をベンチマークし、低価格帯のスマートフォンでも必要なデータを取得できるかを重点的に検証。開発時にはバイクに高精度なセンサーを装着して取得したデータとスマホのデータを比較し、端末ごとのノイズで診断結果に大きな差が出ないよう調整しているという。高価なスマホを持っている人ほど高得点になる……という仕組みにはならないよう開発しているわけだ。
「二輪事故が日本より多い国があるのに、なぜ日本で実証するのか?」という質問に対しては、日本、特に都市部の交通環境が非常に複雑であることが理由の一つとして挙げられた。クルマ、バイク、自転車、歩行者が混在し、交差点や信号も多い。そうした環境でも正しく運転を判定できるかを確かめることが重要で、日本で有効性が確認できれば、ほかの国や地域への展開につながる可能性もある。
そして、多くのライダーがもっとも気になるのが「このアプリ、そのうち自分たちも使えるようになるの?」という点だろう。これに対しホンダは、現時点で一般ユーザー向けに提供する具体的な計画はないと回答した。まずは今回の実証で、「診断結果にユーザーが納得できるか」「実際に安全運転につながるか」「継続して使いたいと思えるか」「使い勝手に問題がないか」といった点を確認し、その結果を踏まえて今後の展開を検討していくという。
ちなみに四輪向けの運転診断技術は、すでに北米で若年層向けのコーチングシステム「Honda Driver Coaching」として2023年から一般ユーザーに提供されている。二輪版も技術的には、一般ライダー向けに展開できる可能性を持っていると考えてよさそうだ。
「安全運転」を点数で見られたら、バイクの乗り方は変わるか?
ライダーは、自分の運転を客観的に見る機会が意外と少ない。サーキット走行ならタイムという分かりやすい指標があるが、公道での「安全な走り」には、ほとんど数字が存在しない。だからこそ、「自分では普通だと思っていたブレーキが、実は急だった」「いつも走るカーブで、少し操作が荒かった」とスマートフォンから教えてもらえるのは面白い。
もちろん、安全運転を単純な点数だけで表現できるわけではない。それでも、自分の運転を客観的に振り返るためのひとつの指標として使えるのであれば、ライダーにとってかなり興味深いツールになりそうだ。4週間の実証を終え、その結果の公表が待たれるところだ。この技術が実際の事故削減や運転行動の変化につながるのか。そしていつか、一般のライダーがツーリング後にスマホを開いて「今日の安全運転スコアは85点!」なんて確認する日が来るのか。今後の展開にも注目したい。
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/bikenews/595775/
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