これまで、あおり運転そのものを取り締まる規定はありませんでしたが、今年2020年6月30日より「妨害運転罪」が創設され、違反1回で免許取り消しとなるほか、最長5年の懲役刑や罰金などの厳しい罰則が科されることとなりました。
後を絶たないあおり運転に対し、厳罰化することで抑制したい、という国の取り組みで、創設されたわけですが、そもそも、なぜこれまでは「あおり運転」は問題にならなかったのでしょうか。
文:吉川賢一
写真:HONDA、写真AC
【画像ギャラリー】STOP!! あおり運転!! あおり運転は犯罪です!!
大きく取り上げられなかっただけ
あおり運転自体は、昔からありました。交通事故の原因をまとめた、警察庁の法令違反別交通事故件数の推移を見ると、「車間距離保持義務違反」は、1985年に5,867件、1990年が6,961件、1995年に6,734件、2001年に7,794件、報告されています。
2002年は12,221件、2003年が11,740件、2004年が10,739件と、いったん増えるものの、近年は、2015年が7,571件、2016年は6,690件と、以前と同じくらいの件数で推移しています。
「車間距離保持義務違反」という、検挙ができる交通違反だけでもこの件数ですので、その他のあおり運転行為は、昔ももっと起きていたと考えられます。
筆者も子供の頃、怖い体験をしたことがあります。高速道路上で大型トラックに追いかけられ、進路をふさがれて、路側帯に停車させられました。大型トラックのドライバーが車を降り、自車の運転席まで詰め寄り、怒鳴り込んできましたが、当時、子供だった自分には何が起きたのか全く分からず、ただただ恐怖体験として記憶に残っています。
親の世代に聞いても、こうしたあおり運転は昔から多くあったといいます。近年になって、あおり運転が問題視され、法整備まで進んだ背景は、よくいわれるような「ドライブレコーダーの一般化」だけが理由ではありません。
「拡散」文化が根付いた
ドライブレコーダーの普及を加速させたのが、2017年6月に東名高速道路で、夫婦が死亡した事故だといわれています。昨年2019年8月に常磐自動車道で発生した殴打事件も、ドライブレコーダーの普及を、さらに加速させました。
ドライブレコーダーの映像は、警察による事故原因の究明や、過失割合の決定の証拠資料として、大変有益となるものです。証明することが難しかった、あおり運転のような危険行為を、ドライブレコーダーの普及でしっかりと証明できるようになったのですが、ここまで大きく取り上げられるようになった背景には、「SNSによる拡散」という部分が最も大きいと思います。
現実社会だと自己表現の苦手な日本人も、SNSという、ある程度の匿名性のある状況では、「これは悪だ!」ということを、明確に訴えることができる。これらが「いいね」や「リプライ」によって拡散され、放送メディアに取り上げられることで日本中に拡散、問題視されることとなったのではないか、と考えます。
このように、放送メディアに取り上げられることで問題視され、法整備まで進んだことはいいことではありましたが、匿名性のあるSNS上での過剰な拡散は、新たな問題を生んでいるのも事実です。
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