「高効率な“直噴”エンジンを搭載」。最近、新車が出るとよく聞くフレーズだ。エンジンの小排気量化がトレンドとなり、今やターボエンジンは、ほぼ全てが直噴化。何となく「直噴でないエンジンは時代遅れだろう感」さえ漂っている。
でも、直噴エンジンが普及したのは、ここ10年ほどの話で、軽自動車に至っては現在搭載車ゼロ。直噴エンジンは本当に“言われているほどいい”のだろうか?
文:松田秀士
レースカーですら最近までほぼ非直噴エンジンだった!!
流行りですねぇ! 直噴エンジン。最新の技術です。直噴と聞くとなんとなく偉そう。日本人こういうの大好きですよね、例えば「NASAで開発された~~」とか。賢そうなものにやられちゃうんです。
ボクがF3000やインディカー、スーパーGTを走っていた2012年ぐらいまでのレーシングカーにはほとんど直噴はありませんでした。
唯一、ル・マンなどの耐久レースを走るディーゼルエンジンを搭載したレーシングカーは直噴でした。そう、ディーゼルエンジンは直噴なのです。
つまり、そういった特殊なレーシングカー以外は、全て直噴ではない『ポート噴射』でした。覚えておいてください、直噴の対義語はポート噴射です。
ポート噴射は昔からある、ガソリンと空気を混ぜて混合気を作るシステムです。エンジンの中のピストンとかがある場所を燃焼室といいます。ピストンが下がった状態のときに、ガソリンと空気の混合気を溜めておく筒(シリンダー)の部分が燃焼室。
この燃焼室の直前、燃焼室を密閉するバルブがある直前の『吸気ポート』というチューブ状の場所にガソリンを噴射して、空気と混ぜて混合気を作り燃焼室内に送り込むシステムをポート噴射といいます。
つまり、ポート噴射では燃焼室内に送り込まれる前に混合気がすでに形成されているのです。
直噴エンジンのメリットは『燃費』
では、直噴エンジンとはなんぞや? です。
直噴は、ポート噴射とは違って、エンジンの燃焼室内に直接ガソリンを噴射して混合気を作るシステムです。直接噴射するから、直噴。賢そうに聞こえて、ぜんぜん賢くない、そのままのネーミングです。
では、どうして直噴が流行りなのかというと、ズバリ、燃費が良くなるからなのです。燃焼室内でガソリンと空気の混合気(ガス状)を作るのに、理論上もっとも適したそれぞれの割合があります。
これを理論空燃比というのです。なんだか論文のようになってきましたね。嫌ですね。でもちょっと我慢してください。
ガソリンの理論空燃比は、ガソリン1に対して空気が14.7とされています(理論空燃比14.7:1)。つまり、この状態でガソリンと空気が均等に混ざった状態でエンジンの燃焼室内で燃える(爆発)すれば、もっとも効率が良いわけです。
皆さんが肺を膨らませて空気を吸い込んで息をするように、ピストンが下がるときに発生する『負圧』によって燃焼室内にガソリンと空気の混合気が吸い込まれます。
そして、今度はそのピストンが上昇して圧縮し、その後プラグが火花を散らして点火して爆発が起こり、その力でピストンが押し下げられパワーになります。
面白いことに、このピストン上昇による圧縮を強くすればするほどに、パワーは上がります。しかし、圧縮を強くすればするほど『デトネーション』と呼ばれる異常燃焼が起き、エンジンは壊れてしまう。
これは、あらかじめ混合気となったガスを圧縮するので、圧縮熱によってコントロールできない自然着火が起こるために異常燃焼が起きてしまうため。
夏場など、エンジンからカリカリという音が聞こえることがありますが、あれが異常燃焼です。音のフィーリングからノッキングなどとも呼ばれていますね。
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