一般的に、クルマのエンジンの部品などは、新車で購入してから10万~15万kmだと言われているが、加工精度が上がり、オイルなどの性能も向上した現在、定期的にメンテナンスをしていれば、10年10万kmは当たり前という時代となっている。
しかし時代は電動化が叫ばれており、走行時の排出ガスを出さないEVとFCV(燃料電池車)が注目を集めている。ただ、ここで気にあるのは、エンジンのように長く使われたものではなく、まだ手探りの状態のクルマがどれくらいもつのか? という点だろう。
特にバッテリーだけではなく、FC(燃料電池)スタックというシステムを搭載するFCVはどうなのか? 気になるのではないでだろうか。今回は、そんなFCVの寿命について解説をしていきたいと思う。
※本稿は2021年2月のものです
文/国沢光宏
写真/TOYOTA、編集部
初出/ベストカー2021年3月26日号
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■リチウムイオンバッテリーは10年/10万キロで80%の性能に
電気自動車で大きな弱点になっているのが電池の寿命である。どんなタイプの電池であっても劣化による容量低下は避けられない。電気自動車に使われるリチウムイオン電池の場合、日産の初期型『リーフ』だと10年/10万㎞走って新品の60~70%といった性能だと考えていいだろう。
初期型リーフの安心航続距離は大雑把に言って130km。60%になると80kmだから、なかなか厳しいことになる。もう少しハッキリ書くと、クルマ用として使おうとすれば厳しい航続距離です。
最近は電池の構造や使い方を工夫することで、10年/10万㎞での容量を80%程度までキープできるようになったと言われるし(10年経ってみないと正確なデータにならない)、電池をたくさん積む傾向にある。
初期型リーフは24kWhだったが、『リーフe+』になって62kWhも積む。新車時の航続距離350kmだったら、10年/10万km後も208kmと必要にして充分な航続距離を残せることになります。遠からず弱点じゃなくなる。
■燃料スタックも劣化するが、車両航続距離への影響は数%
ここからが本題。あまり話題にならないけれど、燃料電池の寿命ってどのくらいなんだろうか? 燃料電池にまぁまぁ詳しい私が解説してみたい。まず寿命に結びつく経年劣化はあるかと聞かれたなら、明確に「あります」と答える。
燃料電池の構造を大雑把に書くなら「電極」とポリマーからなる「高分子膜」の組み合わせ。使用していくに従い高分子膜が劣化していく。高分子膜面積の減少や、高分子膜に穴などできてくるためだと思われます。
もちろんそんなことは百も承知だし、燃料電池技術って耐久性を持たせることに注力してきた。トヨタ『初代MIRAI』に使われている燃料電池の劣化状況を具体的に書くと、10年/10万km走って新品の90%程度をイメージしてもらえばいいようだ。もちろん使い方にもよる。
私が競技車として使っていた初代MIRAIなど、走行2万kmの大半で全開走行! 何十回も高温によるセーブモード入りした。燃料電池開発担当の人は「バラしたくてウズウズします」と言う(笑)。
電気自動車の場合、電池の性能低下=航続距離の減少になる。一方、燃料電池の性能低下は出力のみ。150ps出せるスタックであれば、10年/10万km走ると135psになるワケ。競技用として使うなら別だが、一般道で乗る限りアクセル全開加速するような機会はあまりないと思う。
また、全開にすると走行用電池(MIRAIはエンジンに相当する燃料電池と走行用電池を併用するハイブリッド)がアシストするため、実際は10%減までいかない。
気になる航続距離といえば、水素タンク容量は不変。したがって満充填した時のエネルギー量は落ちない。高分子膜の劣化により若干エネルギー転換効率が落ちるようだけれど、明確な水素消費率増加になることもないようだ。したがって航続距離が短くなったとしても最大でも数%。電気自動車のように20%航続距離減ったら誰でも体感できるけれど、数%ならわからないだろう。
ということで、燃料電池車の経年劣化による加速性能や航続距離の低下は気付かないレベルだと考えていい。
※編集部注:水素タンクの寿命(使用期限)は、容器検査に合格した前日などから起算して15年と規定されている。これを過ぎると、交換が必須となる。国では現在、使用期限を15年から20年に延長するための規格、製造方法の基準などを検討しているようだ。
コメント
コメントの使い方>使用期限を15年から20年に延長
経済産業省のサイトなどを見たところ、今のところ検討しているのは大型車(トラック等)だけのようですね