技術的にもビジネス的側面でも、車作りで最も難しいテーマが「ベーシックカー」だ。大量に売るためには安価でなければならず、凝ったメカニズムは採用できないから他車との差別化は困難。さらに、日本では軽自動車の存在もあり、このジャンルでヒット作を生み出すのは容易ではない。
だからこそ、デザイン力やマーケティングセンスを含めた、自動車メーカーの総合力が試されるのがベーシックカーの面白いところ。
アクアやノート、フィットといった人気車とデミオ、フィットなどの実力者、さらに海外勢では新型のVWポロなど、定番ベーシックには各メーカーの特色が詰まっている!
文:鈴木直也/写真:編集部
燃費以外は平凡でもトヨタの凝ったハイブリッドは常識破り
トヨタは、開発資金が潤沢なメーカーならではの“飛び道具”が使えるのが強みだ。言うまでもなくそれは“THS”トヨタ・ハイブリッド・システム。
世界的な常識では、200万円以下のベーシックカーに、これほど複雑で高価なハイブリッド機構を採用するのは不可能だが、ハイブリッド累計1000万台をバックとする量産効果でそれを実現している。
燃費はベーシックカーで最も重要な性能指標だけに、ここで優位に立てるのは非常に有利。ボディのデザインやプラットフォームについては、アクア/ヴィッツ系の評価は平均レベルだが、商品力としては「燃費性能だけで買ってもいい」と思わせる強力なアピールポイントを持っている。
欲を言えば、燃費以外に訴求する魅力が弱く、とくに欧州コンパクトに比べるとドライブフィールに個性がない。
結果として、ヴィッツのノンハイブリッド低価格グレードは、レンタカーや営業車ばっかりというイメージ。
トヨタもその辺は重々承知で、スポーティバリエーションの“GR”で車好きのニーズを掘り起こそうと一生懸命なのだが、アクア/ヴィッツ系がもう一皮むけるには、「TNGA」を採用する次世代に期待というところだ。
他とはひと味違う“ホンダらしさ”の象徴がフィット
ホンダはベーシックカー市場で唯一トヨタとガチンコで勝負するメーカー。日本市場向けとしてフィットに独自のハイブリッド(i-DCD)を設定。燃費性能でも一歩も引かないバトルを演じている。
台数が命のベーシックカーは、各社ともグローバル市場全体を想定した車作りが必然だが、世界共通仕様を日本に持ってくるのではなく、日本市場向けに7速CDT+モーターという凝ったハイブリッドシステムを新開発している点が凄い。
初期のリコール問題で出鼻をくじかれたものの、i-DCDは「燃費オンリーではなく走りの楽しさはTHS以上」という個性が光る。「他者の真似をしない」という本田宗一郎氏の創業精神が、一番発揮された車だと思う。
また、基本パッケージングやシャシーなども、初代以来の高評価を受け継いでレベルが高い。
コンパクトボディに、いかに5人分の乗員スペース詰め込むか、荷室スペースとバッテリー/PCUをどう両立させるか……。二律背反の難しいテーマに、フィット伝統のセンタータンクレイアウトが優れた効果を発揮。
ガソリン車も、パワートレーンのスムーズさやハンドリングと乗り心地のバランスなど、ほんのひと味だけれど質の高さを感じさせるものがある。
ベーシックカーにはこういう「ちょっとした質感」が大事。フィットがユーザーに好感を持って迎えられているポイントだと思う。
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