ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説してくれると好評だ。
第四回目は、2021年度のグローバル生産計画を900万台から850万台へ下方修正したトヨタ。その「減産」のウラ側に迫ります。
※本稿は2022年2月のものです。また画像ギャラリーなど記載の納期についての情報は3/1の工場停止前のものとなります
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真・画像/TOYOTA、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年3月26日号
■トヨタ減産とその余波
自動車会社の業績が好調であることは昨年の寄稿でお伝えしたとおりなのですが、先日公表された第3四半期決算には「潮目」の変化を感じる内容がありました。
決算では本田技研と日産自動車が業績を上方修正するなど健闘が目立ち、2番手の頑張りと意地を感じさせるものがありました。元気な2番手メーカーが存在し、トップ企業と切磋琢磨してこそ産業の発展があると思います。
潮目の変化とはトップ企業として横綱相撲を取り続けてきたトヨタ自動車の陰りであり、業績下方修正の発表を余儀なくされたデンソーなどのトヨタ系列サプライヤー群の苦戦でした。
トヨタは2021年度のグローバル生産計画を900万台から850万台への下方修正を余儀なくされ、主力6社のトヨタ系列サプライヤーはデンソーを含めて3社が下方修正を発表。
これは、トヨタの減産の余波であり、トヨタからの強い増産要請に備えてきたサプライヤーにとって梯子を外された格好です。
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半導体不足は昨年夏以降第二波に入り、世界合計で年間1000万台も新車の減産を引き起こしました。
新車や中古車の価格は大幅に上昇し、納車期間も恐ろしく長期化しています。
この半導体不足は2022年の秋頃までは意味のある好転が望めない状況で、新車を待つ消費者にはたまったものではないでしょう。
■転機は昨年8月の夏休み明けにあった
そんな厳しい世界の自動車産業のなかでひとり気を吐いてきたのがトヨタであり、同社の生産の安定性は世界を驚かせてきました。
昨年5月の930万台(2020年度実績816万台、前年比14%増)の生産計画は7月末には1000万台(同22%増)まで引き上げられ、強気な計画にサプライヤーは驚き、なぜトヨタだけが半導体を潤沢に調達できるのか、多くのライバルメーカーは訝しく感じたものです。
転機が訪れたのが8月の夏休み明けでした。アジアのロックダウンの影響を理由にトヨタは大幅な減産に陥ります。
その後、誰よりも早く正常に戻り、増産のアクセルを再び踏むトヨタは凄いと思わせたのですが、終わってみれば今年の2月、3月と減産に転じ先述の850万台へ落ち込むことになったのです。
2022年に向けて、トヨタは1100万台(同29%増)もの強気な生産計画を立てています。
従来計画レベルを維持できそうだとひと安心する反面、本当に実現の可能性があるのか、サプライヤーは複雑な気持ちでこの計画を受けとめたのではないでしょうか。
トヨタの生産混乱が長期化し始めた理由は、ひとつは手持ちの半導体在庫が底をつき市場の需給と連動する形になってきたことに加え、優良顧客への優先供給を制止する「フェアアロケーションルール」が運用されているからだと推察されます。
トヨタが相対的に強い調達力を発揮できることは疑う余地はないですが、トヨタだけが安定的という望みは薄くなっています。
トヨタは2022年の定期価格改定での値引き要請を見送り、減産影響を受けるサプライヤー支援を進める方向のようです。
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